「監督とは教育者になること」シメオネやポチェティーノらアルゼンチンからなぜ名将が生まれるのか?その“源流”を辿る【前編/現地発】

「監督とは教育者になること」シメオネやポチェティーノらアルゼンチンからなぜ名将が生まれるのか?その“源流”を辿る【前編/現地発】

ガジャルド(左)、シメオネ(中央)、ポチェティーノ(右)と世界でトップクラスの評価を受けるアルゼンチン人監督たちはいかにして“育成”されてきたのか。(C)Getty Images



 サッカーが文化として人々の生活に溶け込んでいるアルゼンチンでは、選手だけでなく、指導者も次々と生み出される。

 現在、欧州の主要トップリーグで指揮を執るアルゼンチン人はマルセロ・ビエルサ、ディエゴ・シメオネ、マウリシオ・ポチェティーノの3人だけだが、世界全体を見れば、文字通りの「輩出国」であることは一目瞭然だ。

 昨年6月にスイスのサッカー関連調査機関『CIES Football Observatory』が発表した統計によると、世界79か国110のリーグに所属する1646クラブのうち、アルゼンチン人が監督を務めるクラブが「68」と最多だった。ちなみに2位がスペイン(41クラブ)、3位がセルビア(34クラブ)となっている(2020年6月1日時点)。

 68のうち43は南米のクラブで、欧州クラブは決して多くはないものの、エレニオ・エレーラ、アレハンドロ・スコペッリ、アルフレド・ディ・ステファノといった先代たちが欧州で残してきた功績こそ、今日もアルゼンチン人監督が求められる要因のひとつと考えられている。

 数の多さが実績に裏付けされていると証明できる要素はいくつかある。
 
 2018年のロシア・ワールドカップに出場した32か国のうち5か国(アルゼンチン、コロンビア、ペルー、エジプト、サウジアラビア)がアルゼンチン人の監督を擁し、さらに2019年度の「The Best FIFA Football Awards」では、男子年間最優秀監督賞候補10人のうち、アルゼンチンからはポチェティーノ、マルセロ・ガジャルド、リカルド・ガレカがノミネートされた。

 また、南米では昨シーズン、全10か国のリーグ戦で6か国(アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ボリビア、コロンビア、エクアドル)においてアルゼンチン人監督が率いるチームが優勝を遂げたほか、今年度のコパ・リベルタドーレスに参戦する32チームのうち最多となる13チームで指揮を執っている。

 さらに、前述のCIESの調査では、対象外となる国で監督業に励むアルゼンチン人も存在する。ルワンダの1部リーグに属するムクラ・ヴィクトリー・スポーツを指揮するロドルフォ・サパタはその代表的な例だ。彼はアメリカで10年間にわたって育成指導者としてのキャリアを積んだ後、2010年からアフリカ各地のクラブで指導を続ける変り種だ。

 世界で活躍する多くのアルゼンチン人監督が評価されているのは、数字や実例によってはっきりと証明されているのである。

 では、なぜアルゼンチンから優れた監督が輩出されるのか。結論から言うと、ひとつの明確な理由があるわけではない。だが、彼らに共通するポイントはいくつかある。その共通点を挙げる前に、アルゼンチンにおける指導者ライセンス取得の仕組みについて紹介したい。

 まず、アルゼンチンで監督になるためには、サッカー協会が認定するATFA(Asociación Técnicos del Fútbol Argentino=アルゼンチンサッカー監督協会)の指導者資格を取得する必要がある。

 ATFAは1963年、当時国内外でサッカーの指導にあたっていた有志たちによって「プロ監督としてのキャリアを守り、活動に格を与えるため」に創立された歴史ある養成機関で、国内各地に59校が設置されている。

 プロのトップチームで監督になるために必要な修業年間は3年。1年目に取得するのは14歳までのカテゴリーに値するジュニアサッカーの指導資格となるBライセンス及びCライセンスで、2年目には18歳までのユース指導資格となるAライセンスを取得。そして3年目にPROライセンスを取るとプロチームの監督就任が可能となる。このPROは南米サッカー連盟も認定する資格で、ATFAのカリキュラムを高く評価した同連盟が2018年から協定する形で定めたものだ。

 シメオネやガジャルドが卒業したATFAビセンテ・ロペス校のディレクターを務めるルイス・レスクリウは、「アルゼンチンにおける指導者養成は、あらゆる面において大学の専門課程と全く同じと考えて良い。年に数回受講するコースのようなものではなく、一般の教育機関と同様、毎年3月から12月まで10か月間にわたって週に3回の頻度で授業が行なわれるからだ」と語る。
 
 現時点での受講科目は11科目だが、世界のサッカーの流れに沿い、専門家たちによって常に内容が吟味され、科目そのものを増やすこともある。普通の学校と同じ修業制度を採っているのは、「サッカーの監督になるということは教育者になることを意味するからだ」という。

 本格的な養成機関であるATFAには海外からも生徒が訪れる。以前まではコロンビアからの生徒が多かったが、新型コロナ禍の影響でオンラインによる授業が行なわれている今は他の南米諸国、特にブラジルからの受講者が一気に増えたそうだ。

「近年ブラジルでは外国人監督を雇うケースが増えているが、同時に指導者を目指すブラジル人が海外で学ぶ道を選ぶケースも増えている。クレスポの影響でブラジルの人たちはますます『アルゼンチン人監督には何かあるぞ』と思っているのではないかな」

 レスクリウの言う「クレスポの影響」とは、今年2月中旬にブラジルの強豪サンパウロFCの監督に就任してから5月1日時点で8連勝中のエルナン・クレスポ監督を指す。彼は今年1月にアルゼンチンの中堅クラブ、デフェンサ・イ・フスティシアをコパ・スダメリカーナ優勝に導くと、サンパウロを率いてからも10勝1分1敗という快進撃を見せている。

 自身の思い描く監督像について「アンチェロッティ、モウリーニョ、ビエルサが私の師匠」と語るクレスポの活躍は、今後ますますアルゼンチンの監督養成術に興味が集まる要因になるかもしれない。

【後編へ続く】

取材・文●チヅル・デ・ガルシア text by Chizuru de GARCIA

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