「みんなミスをしたくないんだと思う」福岡スウェーデン人DFが母国に伝えた日本サッカーと日本社会

「みんなミスをしたくないんだと思う」福岡スウェーデン人DFが母国に伝えた日本サッカーと日本社会

来日3年目、福岡で2年目を迎えたサロモンソン。母国メディアに日本での経験を伝えている。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)



 アビスパ福岡で2年目を迎えた元スウェーデン代表のエミル・サロモンソン。今季開幕前、日本での3シーズン目を迎えるにあたり、彼は母国メディア『Sportbladet』に、日本での様子を語っていた。今回は、その後編をお伝えする。現地記者がサロモンソン本人から引き出した日本での生活、そして日本への想いとは――。

取材・文:エリック・ニーヴァ text by Erik Niva(『Sport bladet』)
翻訳:鈴木肇 translation by Hajime SUZUKI

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 来日1年目のサンフレッチェ広島時代は、何もかもがあっという間に過ぎていった。シーズンが始まってから数か月経った頃、Jリーグを中継している放送局のインタビューに応じる機会があったんだけど、その時に彼らから教えてもらったんだ。僕はJ1の外国人で最もプレー時間が長いということをね。連戦に次ぐ連戦で、遠征も多く、気持ちも相当入っていた。そして、とうとう身体が悲鳴を上げてしまった。5月後半に行なわれた敵地の浦和戦でそけい部に痛みが走って、途中交代を余儀なくされたんだ。後になって、自分の身体ともっと相談しながらプレーすべきだったと分かった。だけど全てがうまくっていたから、それは難しかったよ。
 
 数か月離脱して復帰すると、チームのシステムが少し変更されていた。だけど成績は悪くなる一方だった。サンフレッチェはACLで敗退し、しかも新たな戦い方を模索しているところだった。それまでチームにおけるウイングバックのポジションはサイドバックの選手にとってやりやすかったんだけど、今度は純粋なウイングとして攻撃的なプレーが求められるようになったんだ。僕は何試合か途中出場したけど、かつての調子をまったく取り戻せなかった。

 その時期はつらかった。仲が良くて英語を話せるベサルト・ベリシャはクラブを去っていた。そのためチームには話し相手がまったくいなくなってしまったんだ。僕以外の外国人はみんなブラジル人。彼らはほかの日本人選手と同じで片言の英語しか話せなかったんだ。僕は独学で日本語を勉強しようとしたけど、学習書で学んだことを実際の会話で活用するのは難しかった。日本では話をする相手に合わせて礼儀と尊重の程度を変えることが求められているんだ。外国人の僕はまったく適応できなかったよ。幸いなことに、僕には通訳がいた。僕たちは親しくなって、一緒に東京に行ったこともあった。だけど彼が不在の時は本当に独りだった。

 しかも、ある感情が僕の中に芽生えてきた。クラブを失望させてしまったのではないか、というある種の罪悪感がね。獲得した外国人選手にクラブが期待しているのは、チームを牽引すること。ほかの選手と同じパフォーマンスをしていてはダメで、パフォーマンスが少しだけ良いというのも十分ではない。チームメイトよりも“遥かに”優れたプレーを示すことが求められているんだ。クラブが選手を評価する方法は外国人と日本人とでは異なる。もちろん僕は自分のやるべきことをやりたかった。だからこそ余計に、罪悪感のようなものを抱いてしまった。
 
 その一方で、戦線離脱している間に広島と日本についても知る時間が増えた。その機会をうまく活用しようとしたよ。

 僕が日本に対して抱いていたイメージは、モダンとハイテクが最先端にある国というものだった。だけど実際は、日常生活において全てがそうかというと違う。お金を払う時は現金が主流で、カードを使うことは滅多にない。さらに、書類に名前を書くときは自分のサインではなく個人用の小さなスタンプを使うんだ。

 役所や医療機関で何か手続きをする際は、かかりきりになる。順番待ちの紙を手に持って6、7時間に渡って複数の受付窓口を回るんだ。自分の登録先の住所をちょっと変更する必要があった時がまさにそうだった。あるときには、お腹の具合が悪くなって薬が必要だったんだけど、その際もまったく同じだった。時間がかかる。10時に予約をしても11時に終わるというわけではなく、少なくとも半日は確保する必要があるんだ。

 どういうことかというと、みんなミスをしたくないんだと思う。間違いを犯すのをいつも怖がっている。そういった特徴が社会システム全体に影響を及ぼしているね。あらゆることに対してダブルチェックやトリプルチェックが必要なんだ。
 
 またサッカーにおいても、権力に多大な信頼を寄せているのが分かる。選手たちは監督やコーチの言うことを簡単に受け入れてしまうんだ。疑問を抱かないんだよ。それに、チームの若手選手には往々にして主体性が欠けている。ピッチの上でもそう。コミュニケーションが皆無なんだ。僕の方から何かアドバイスをすると、若手選手は感謝を示して何度も「ありがとうございます!」と返事をしてくれる。そういう、目上の人を敬う日本の文化は素晴らしいと思う。だけど、サッカーにおいてはマイナスだ。誰も得しないと思うよ。チームとして機能するには、年齢や経験に関係なく誰もが互いに意見を言い合い、試合では助け合うべきだ。

 そうは言いつつも、日本人の礼儀さ、清潔さ、そしてサービス精神には魅力を感じずにはいられない。レストランに行くと至れり尽くせりでこれ以上ないサービスを体験できるんだ。それに日本では、チップを渡すのは非礼で侮辱的な行為だと受け止められてしまうんだよね。
 

 広島と言えば、僕は歴史にとても興味があるんだ。特に第二次世界大戦にね。だから広島という地名を聞くだけでいつも力強い響きが感じられた。広島のような都市を代表できたことを光栄に思っている。

 原爆が落とされたのは8月6日。サンフレッチェでは、8月6日直近のホームゲームでは必ずセレモニーが行なわれるんだ。僕が在籍していた年は札幌と対戦した。キックオフ前には、両チームのキャプテンが宣言をしたんだ。その時は、身体中が震えたよ……。僕自身のキャリアにおいて最も誇りを感じた試合は、スウェーデンのフル代表としてデビューした時、そしてこのピースマッチかな。その時に着用したユニホームの背番号は86。8月6日を意味する数字だ。ユニホームはスウェーデンに持って帰った。今は実家の両親の部屋にあるよ。

 日本での1年目の経験はとてもポジティブなものだったけど、シーズン終盤になっても僕は定位置を取り返せずにいた。その時、こう自問自答した。
「厳しい状況が続いているけど、あと1年ここでプレーするか? どうすべきか?」

 シーズンが終わって休暇に入った時点で、あと1年日本でプレーしたいとほぼ心に決めていたけど、どうなるかはっきり分からなかった。
 
 あれは、ガールフレンドと一緒にマデイラ島のフンシャルで貝料理に舌鼓を打っている時だった。代理人のカール・ファゲルから電話があって、アビスパ福岡が期限付きの獲得に関心があると話してくれたんだ。アビスパは2部リーグで散々なシーズンを送ったということを僕は知っていた(※2019年は16位)。それでもチームとしては、本格的に力を入れてもう一度昇格したいということだった。ガールフレンドが日本を訪ねてくれた時に2人で福岡に行ったことがあったんだけど、良い印象を抱いたよ。居心地が良くてインターナショナルな都市だと思った。僕たちは「ここでやっていこう! 新しい場所でこれまでとは別の旅を始めよう」と感じたんだ。

 ガールフレンドは2020年の前半まで僕と一緒に日本で生活することになっていたんだ。そしてそのことに僕は救われた。1試合だけプレーして、それからコロナが拡大して何もかもが休止されてしまったんだからね。福岡には「緊急事態宣言」が発令されて、サッカーに関するあらゆる活動が6週間にわたって休止されてしまった。

 幸いなことに、緊急事態宣言が出されてからも外出は好きなだけ許可されていた。そこで僕はガールフレンドと一緒に新しい趣味を見つけた。ハイキングを始めて、山を登ったんだ。広島でプレーしていた時は2人でいる時間がほとんどなかったから、コロナによる中断は僕たちにとってはとても良いことだった。
 

 サッカーが本格的に再開してからは、僕が思っていた以上に福岡では何もかもがうまくいった。12連勝という破竹の快進撃を見せたこともあった。12連勝はクラブ新記録なんだ。そしてとうとう、チームはリーグ2位で昇格を決めた。しかも僕はリーグのアシストランキングでトップになったんだ。全てが本当に充実していた。サッカー選手としてこれ以上ないシーズンを送ることができたよ。

 日本は人口密度が高い国にもかかわらず、他国に比べばコロナにうまく対応していると思う。この国は以前からソーシャルディスタンスを保ってきたんだよ。挨拶するときには握手よりもむしろお辞儀するのが習慣だし、マスクを着けることにも慣れているんだ。僕も外に出る時は必ずマスクを着用する。もう1年になるから、マスクについてあれこれ考えなくなったね。
 
 僕は福岡を昇格させただけで満足していないよ。チームの目標であるJ1残留に貢献したいんだ。だけど、実を言うとこの目標はかなり無謀なんだよね。というのも、2001年以降の福岡は同じ周期を繰り返しているからなんだ。

 どういうことかというと、2部で4年間プレーしてからJ1に昇格して、たった1年で降格するというジンクスがこのクラブにはあるんだよ。全くもって信じられないんだけど、21世紀になってずっと同じサイクルなんだ。言うまでもないことだけど、今年はそのジンクスを破りたい。アビスパ福岡をJ1のクラブとして定着させることで歴史に刻みたいんだ。挑戦が楽しみで仕方がないよ。
(このシリーズ了)

取材・文:エリック・ニーヴァ text by Erik Niva(『Sport bladet』)
翻訳:鈴木肇 translation by Hajime SUZUKI

◆プロフィール
エミル・サロモンソン/89年4月28日生まれ、スウェーデン出身。182センチ・73キロ。エンゲルホルムーハルムスタッズーヨーテボリー広島ー福岡。果敢に上下動を繰り返し、正確なキックでゴールを演出する右サイドアタッカー。スウェーデン代表として8試合・1得点。日本食が大好きな親日家で、自身のSNSでもたびたび日本での生活ぶりを紹介している。

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