なぜパンデミックが続くブラジルでコパ・アメリカを開催するのか? メッシやカバーニも糾弾した「馬鹿げた決定」の舞台裏【現地発】

なぜパンデミックが続くブラジルでコパ・アメリカを開催するのか? メッシやカバーニも糾弾した「馬鹿げた決定」の舞台裏【現地発】

急転直下のブラジル開催にメッシも不満を漏らしたという。(C)Getty Images



 5月30日の夜遅く、CONMBOL(南米サッカー連盟)は自身のSNSでこう発表した。

「コパ・アメリカ2021はブラジルで開催が決定。世界最古の国際大会が大陸全てを熱くする!」

 もともと今回のコパ・アメリカは、コロンビアとアルゼンチンで共同開催されるはずだった。しかし政情不安とコロナウイルスの流行から、まずは5月20日にコロンビアが開催地を返上。そして30日の昼にはアルゼンチン・サッカー協会もコロナを理由に開催は不可能であると通達した。

 CONMEBOLはどうにかアルゼンチンを説得しようとした。だが、アルゼンチンは現在全土がロックダウン中であり、4つの州も誘致を断ってきたため、内務省がとても開催できる状況ではないと判断し、返上を発表した。

 開催地を失って慌てたCONMEBOLは、急いでアメリカに打診した。しかしアメリカはせっかくパンデミックが下火になって来たところに、いまだ感染者の多い南米から人を入れたくないとこれを断った。

 エクアドルとベネズエラがやってもいいと名乗りを上げたが、CONMEBOLは政情が不安なこの2か国には開催する力がないと断った。候補に挙がったチリには、8試合以上は無理と拒絶された。
 
 その後、事情を知ったイスラエルがCONMEBOLにコパ・アメリカを彼らの国で開かないかと申し出てきた。イスラエルはコロナの流行はほとんどないし、ワクチン接種率も世界一だ。スタジアムは無料で貸し出し、ホテルも格安にするといい、普通に観客を入れ、関係者にはただでワクチンを提供するという好条件だった。だが、南米から飛行機で15時間も離れており、直行便もないということからCONMEBOLは別な可能性を模索した。

 そこで白羽の矢が立ったのがブラジルだった。前回(19年)のコパ・アメリカを開催しており、過去にはワールドカップやオリンピックも行なっている。10月にはU-17のW杯も開催予定だ。そしてなによりジャイル・ボルソナロ大統領は、コロナなど風邪の一種だと豪語してはばからない。

 5月30日の夜にCONMEBOLはブラジル・サッカー連盟のロジェリオ・カポクロ会長に電話をし、協力してもらえかと頼む。この会長はボルソナロ大統領に相談、その3分後にはブラジル開催が決定していた。ボルソナロは大のサッカーファンなのだ。こうして冒頭の発表に至ったのである。
 
 それにしてもおかしな話である。

 コロナを理由に大会を返上したコロンビアは、感染者数が世界で12位。340万人が罹患しており、人口100万人あたりの死者数は1728人。アルゼンチンは感染者数が世界9位、100万人当たりの死者数は1714人、これまでに7万8000人が亡くなっている。

 ところが、新たに開催地になったブラジルは感染者数が世界第3位の1654万7000人、100万人当たりの死者数2164万人、31日の新規感染者数は3万2000人で、インドに次ぐ世界第2位、現在もパンデミック中だ。しかも、アマゾンでは強力な変異株も蔓延している。コロナを理由に返上された大会を、それ以上に流行している国でやるのはあまりにも馬鹿げている。

 ブラジルには27の州があるが、うち4つの州(ペルナンブーコ、リオ・グランデ・ド・ノルテ、ミナス・ジェライス、リオ・グランデ・ド・スル)の知事はすぐさま自分たちの州では試合は行わないと表明。一方サンパウロ、バイア、クイアバ、アマゾナスの4州は試合を歓迎すると発言した(しかしアマゾナスは変異株を理由にサッカー協会が断った)。

 おまけにCONMEBOLは観客を入れての試合を予定している。ゲスト国として招待していたオーストラリアは5か月前、カタールは3か月前にすでに参加を断ってきている。これで観客も入れなければ、大会は3000万ドル(約33億円)の赤字になると言われているからだ。リベルタドーレス杯も国内のリーグもやっているのだから、問題はないだろうというのが彼らの理屈だ。決勝はリオのマラカナンで観客を入れたいと主張している。
 
 CONMEBOLはもう正式決定としていると発表しているが、ブラジルの大統領府官房長官は、「正式にはまだ何も決まっていない」と述べている。そして、もし開催する場合には、(1)無観客、(2)1チームの選手、スタッフは65人以内、(3)全員がワクチン接種、この3点を条件にしたいとしている。

 当然ながら、ブラジル開催には様々な反発が起こっている。

 アルゼンチン・サッカー協会は、大会開催は不安であるとし、他国のサッカー協会の意見を聞いているという。そこで各国代表がボイコットしないようCONMEBOLは大会賞金を釣り上げた。2019年大会では参加費280万ドル(約3億円)を400万ドル(約4億4000万円)に、優勝賞金を700万ドル(約7億7000万円)から1000万ドル(11億円)にしたのである。
 
 ブラジルの著名なジャーナリストたちは、開催反対のデモを呼び掛けている。コパ・アメリカはコロナの蔓延を増長するし、開けば、どうしてもカネが必要になるからだ。なぜコロナ対策にその資金を充てないのか。

 選手たちからも聞こえてくるのは不安ばかりだ。アルゼンチン代表のエース、リオネル・メッシは友人に「最低」と言ったというし、ウルグアイ代表FWエディンソン・カバーニは自身のSNSに動画で「この決定がわからない。誰か説明してくれ。なぜ中止にしたいんだ。南米ではまだコロナは収まっていない」と発信している。

 ウルグアイのキャプテン、ディエゴ・ゴディンも「ブラジルでは安心してプレーできない。安心していなければいいプレーはできない」と嘆いている。ペルーのボランチ、レナト・タピアはブラジルの蔓延状況のグラフを投稿した。
 
 ブラジル国民の大半は憤っており、SNSにはコパ・アメリカに対するネガティブな投稿が溢れている。例えば、コロナウイルス状の突起の出たサッカーボールに目鼻をつけてマスコットにし、こう言わせている。

「やあ、みんな僕はコビディーニョ(コロナちゃん)、コパ・アメリカ、ブラジル大会のマスコットだよ!」

【画像】ブラジルで話題になっているマスコット「コビディーニョ」

 もしくはコパ・アメリカのロゴをもじって、「チェパ・アメリカ」と揶揄する投稿も。チェパとは変異株の意味だ。

 一体このコパ・アメリカはどこに向かうのか。しばらく状況を見守りたい。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

 

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