「わだかまりは消えていない」デシャンがベンゼマを電撃復帰させた“真の理由”と招集によるリスク【現地発】

「わだかまりは消えていない」デシャンがベンゼマを電撃復帰させた“真の理由”と招集によるリスク【現地発】

ベンゼマ(左)の招集は、デシャン(右)監督にとって吉と出るか凶と出るか。(C)Getty Images



 カリム・ベンゼマがフランス代表に復帰した。ウェールズとの強化試合(3-0)で改めて明らかになったのが、9番タイプのストライカーではない彼の融合が決して簡単な作業でないこと。成功すれば大きな効果が期待できる一方で、リスキーな面も看過できない

 チームを率いるディディエ・デシャン監督は、「メンバーの1人に過ぎない」と繰り返し口にするベンゼマについて、フランス代表のスタッフの目には、怠け癖のある選手として映っていた。

 実際、かつての彼は暇さえあれば、ハンバーガーを食べ、ソファーに寝転がっていた。それが同じアルジェリアにルーツを持つジネディーヌ・ジダンのレアル・マドリー監督就任を境に改心し、自宅にトレーニングルームを設け、食生活を改善し、練習にも目の色を変えて取り組むようになった。もっともデシャン監督の下で、同じくモチベーションを高く持ってるとは限らない。

 デシャンは今回復帰を決断するにあたり、ベンゼマと話し合いの場を持っているが、その内容について一切明かしていない。そんな中、内情を知るフランス・サッカー連盟(FFF)の外部テクニカルアドバイザーによると、ベンゼマはデシャンに対して反省の弁を口にすると同時に、挑発的な態度も見せたという。
 
 焦点となったのは、言うまでもなくフランス代表の同僚(マテュー・ヴァルビュエナ)に対する恐喝事件に関与した疑惑だ。ベンゼマは一連の騒動において有罪が確定していない(本人は疑惑を否定)中で、さらし者にされたことに関して不満を訴えた。つまり表向きには円満決着を強調しているものの、根っこの部分では両者ともわだかまりを抱えたままなのだ。

 ではデシャンはなぜベンゼマの復帰に踏み切ったのか。フランス代表はベンゼマ抜きでも前回のEUROで準優勝を果たし、3年前のワールドカップを制覇している。しかも当時に比べて現代表は戦力の底上げがさらに進み、チームとしての成熟度も増している。前出の外部スタッフが指摘するのはジダンの存在だ。
 
 FFFのノエル・ル・グラエ会長は次期監督としてジダンの招聘を希望している一方で、デシャンはEURO以降も続投するかどうか胸の内を明かしていない(現行契約は2022年12月まで)。もちろん会長の意向も把握している。そんな中、自らの後任としてジダンが復帰すれば、真っ先に着手するのがベンゼマの招集であるのは火を見るよりも明らかだ。その関係者が舞台裏を解き明かす。

「デシャンがこのタイミングでベンゼマを復帰させたのは、心の広さをアピールしたかったからだ」

 つまるところ、デシャンはジダンの就任とベンゼマの招集という2つの事象によって自身の身に降りかかるだろう事態を見越して予防線を張ったと言える。

 では対するベンゼマはなぜデシャンの提案を受け入れたのか。その理由について同じくその関係者は「9月にはジダンが新監督に就任しているという考えがあるのだろう」と予想する。
 
 ベンゼマの復帰を検証する際に、特にチームの士気という点で無視できない要素が一つある。代わりにスタメンから弾き出される選手がオリビエ・ジルーであることだ。チェルシーのFWは、決してテクニックに秀でた選手ではない。しかしジルーは、その自らの欠点を逆手に取って守備に奔走し、前線で身体を張り続ける。

 デシャンの現役時代にステファヌ・ギバルシュというFWがいた。フランスが初の世界一に輝いた1998年W杯でも9番としてプレー。無得点に終わったが、優勝に貢献する働きを見せた。デシャンにとってジルーはそのギバルシュの系譜に連なる選手で、監督に就任して以来、理想の9番像として位置づけ、重用してきた。翻ってベンゼマはその対極に位置するストライカーだ。

 デシャンが、自らの理想に反してでも、ベンゼマの加入を追い風にして攻撃の流動性を高めることができるか。ベンゼマがマドリーで見せている姿と同等のモチベーションを持って大会に臨めるか。周囲の選手が5年半ぶりに復帰したかつての大黒柱のリーダーシップを受け入れるか。

 リスクをはらんでいるベンゼマの復帰だが、本人、指揮官、チームメイトが同じベクトルに向かって進むことができれば、フランス代表がこれまで欠けていた機能美という要素を加味してEUROを制する可能性も高まってくる。

文●ディエゴ・トーレス(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

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