【喜熨斗勝史の欧州戦記|第3回】セルビアから見たジャパン評は「面倒くさい相手」。選手も「日本代表のパスの回し方は勉強になる」

【喜熨斗勝史の欧州戦記|第3回】セルビアから見たジャパン評は「面倒くさい相手」。選手も「日本代表のパスの回し方は勉強になる」

喜熨斗コーチ(写真左)とストイコビッチ監督(写真右)。6月11日に日本戦に挑んだ。?セルビアサッカー協会



 セルビア代表のドラガン・ストイコビッチ監督を右腕として支える日本人コーチがいる。“ピクシー”と名古屋でも共闘し、2010年のリーグ優勝に貢献した喜熨斗勝史だ。

 そんな喜熨斗氏がヨーロッパのトップレベルで感じたすべてを明かす連載「喜熨斗勝史の欧州戦記」。第3回は、6月11日に行なわれた日本戦について語ってくれた。
 
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 今回はやはり日本代表戦の話題ですね。6月11日、神戸のノエビアスタジアムで開催された親善試合。ミスター(ドラガン・ストイコビッチ監督)とともに、私はセルビア代表コーチとして母国との一戦に臨みました。

 両国国歌斉唱。『君が代』を聞く前は“どういう気持ちになるのだろうか”と思っていました。そして目をつぶり、明鏡止水の心境で流れるメロディーに耳を傾けました。沸き上がってきた感情は……複雑とか葛藤とかではなく「日本代表コーチ陣はどういう気持ちで聞いているのだろう。次は向こうの立場で聞けると良いなあ」というシンプルな感情。新型コロナ感染防止対策の一環で発声はできませんでしたが、セルビア国歌とともに日本国歌も心の中で歌わせてもらいました。

 試合はご存知のように、セルビア代表は0-1で敗れました。もちろん負けたのは悔しいです。ですがミスターも試合後の会見で口にしていたように「結果よりも内容が大事」ということに相違はないです。

 今回の来日メンバーはMFフィリップ・コスティッチ(フランクフルト)やMFドゥシャン・タディッチ(アヤックス)らほとんどの主軸が休養に充てたので、国際Aマッチ初出場の選手は12人。親善試合のジャマイカ戦(7日/三木防災)も含めて多くの若手を起用し、18歳のFWネマニャ・ヨヴェッチ(パルチザン)や21歳のFWデヤン・ヨヴェリッチ(ヴォルフスベルガー)ら若手がどれだけできるのかを知ることができました。

 3月のワールドカップ欧州予選でも同様の失点をしたようにクロスボールへの修正も明確になっています。それは9月に再開するワールドカップ欧州予選へ向けた我々の収穫でしたし、また今年の国際Aマッチをすべて圧勝してきた日本代表にとっても重圧の掛かる僅差の試合ができたのは良かったのではないでしょうか。振り返れば、両国にとって良いテストマッチになったと感じています。

 対戦国として対峙した日本代表の印象は“面倒くさい相手だな”ということ。欧州では日本人は我慢強いと見られています。それは守備だけではなく、実は攻撃でも当てはまります。

 我々の若手は我慢できずに縦に蹴ってしまうシーンがありましたが、日本代表はサポートを早くして互いの距離を縮め、焦らず組織的にパスを回して、攻撃のタイミングを待つ。そして局面を崩していく。

 分析はしていたのですが、目の前でやられてビックリしました。試合後、主将のDFステファン・ミトロヴィッチ(ストラスブール)やMFネマニャ・マクシモヴィッチ(ヘタフェ)も「日本代表のパスの回し方は勉強になる」と言っていました。

 そして今後、練習メニューを作成する際に「ああいう風にプレーしたいから、こういうトレーニングをするのか」と分かってもらえるので、私自身にとってもセルビア代表選手が日本サッカーを体感してくれたことは大きかった。ミスターのポリシーは攻撃サッカー。もっとブラッシュアップしていかないといけませんし、日本のやり方をオプションとして付け加えるかもしれないです。
 
 一方、日本代表に付け加えるならば、ミスターも試合後に話していましたが面倒くさいなと感じさせた“その先”が必要かと。何度か危ないシーンは作られましたが、徐々にどこを抑えるかべきか、どこに来たら止めるべきかが分かりました。

 現在行なわれているEURO2020でも見られるように、得点を奪ったあとにさらに畳みかける、どんな形でも追加点を奪いにいくような力強さや迫力は足りないのかな、と肌で感じました。

 そして改めて「今度はコロナ禍じゃない日本に、セルビア代表として戻ってきたい」と強く願いました。今遠征はバブル方式(選手や関係者の外部との接触を遮断)で、外出できるのは練習時のみ。外気を吸うことも太陽光を浴びることも少ないので時差調整やコンディション作りは難しく、気分転換もままならない日々でした。

 ミスターもホテルの窓から見える夜景を見ながら「KOBE……」と残念そうに呟いていました。当然ですが、日本にいる友人と会うことも不可能。名古屋時代の盟友でもあるマツ(松浦紀典/京都ホペイロ)の計らいでミスターの好きな鮎を届けてもらえたのは良かったですけど、次こそお互いにベストメンバー、ベストなコンディションで試合をしたいですね。
 それが叶うのは、もしかしたら両国がカタール・ワールドカップ出場を決めたあとになるかもしれない。そのためには我々も厳しいワールドカップ欧州予選を勝ち抜かないといけません。

 今、私はEURO2020を視聴しながら同組のポルトガル代表の分析などを進めています。ドイツ代表がどう崩したのか(ポルトガル代表に4-2勝利)を含めて、セルビア代表スタッフ陣と共有しています。11月15日に予定されている欧州予選最終節のポルトガル戦は、ワールドカップ出場を決する大一番にしないといけない――。そんな強い覚悟と自覚を持ってオフの期間を過ごし、同予選再開に向けて準備していきます。

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PROFILE
喜熨斗勝史
きのし・かつひと/1964年10月6日生まれ、東京都出身。日本体育大卒業後に教員を経て、東京大学大学院に入学した勤勉化。プロキャリアはないが関東社会人リーグでプレーした経験がある。東京都高体連の地区選抜のコーチや監督を歴任したのち、1995年にベルマーレ平塚でプロの指導者キャリアをスタート。その後は様々なクラブでコーチやフィジカルコーチを歴任し、2004年からは三浦知良とパーソナルトレーナー契約を結んだ。08年に名古屋のフィジカルコーチに就任。ストイコビッチ監督の右腕として10年にはクラブ初のリーグ優勝に貢献した。その後は“ピクシー”が広州富力(中国)の指揮官に就任した15年夏には、ヘッドコーチとして入閣するなど、計11年半ほどストイコビッチ監督を支え続けている。
指導歴
95年6月〜96年:平塚ユースフィジカルコーチ
97年〜99年:平塚フィジカルコーチ
99年〜02年:C大阪フィジカルコーチ
02年:浦和フィジカルコーチ
03年:大宮フィジカルコーチ
04年:尚美学園大ヘッドコーチ/東京YMCA社会体育保育専門学校監督/三浦知良パーソナルコーチ
05年:横浜FCコーチ
06年〜08年:横浜FCフィジカルコーチ(チーフフィジカルディレクター)
08年〜14年:名古屋フィジカルコーチ
14年〜15年8月:名古屋コーチ
15年8月〜:広州富力トップチームコーチ兼ユースアカデミーテクニカルディレクター
19年11月〜12月:広州富力トップチーム監督代行
21年3月〜: セルビア代表コンディショニングコーチ

【喜熨斗勝史の欧州戦記|第1回】日本人がセルビア代表コーチ就任。ヨーロッパで必要となる“覚悟”とは何か

【喜熨斗勝史の欧州戦記|第2回】セルビアで日本人コーチはどう評価されているのか?そして日本戦への「複雑」な想い

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