【五輪サッカー】「世論がプレッシャーになる可能性も」。原博実が語る自国開催のメリットとデメリット

【五輪サッカー】「世論がプレッシャーになる可能性も」。原博実が語る自国開催のメリットとデメリット

6月12日の親善試合を戦った日本は遠藤(6番)らの活躍でジャマイカに快勝。メダル獲得への期待が膨らむが……。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)



 東京五輪の男子サッカー競技に臨むメンバー22人が発表された。果たして、原副理事長はオーバーエイジの意義をどう捉え、自国開催のメリットとデメリットをどう考えているのか。ロンドン五輪時にJFA(日本サッカー協会)の技術委員長として選手選考に関わった経験も踏まえての見解は、実に興味深いものだった。

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 東京五輪に臨む22人のメンバー構成は、スペシャリストよりもゼネラリスト(広い範囲の知識や能力を持つ人の意)を優先した印象です。仮に準決勝まで勝ち進めばほぼ中2日で6試合をこなすハードスケジュールですから、順当と言えば順当な顔ぶれですよね。三笘薫選手、上田綺世選手、相馬勇紀選手らは先発でも途中出場でも問題なくできるので、その点でも非常にバランスが取れたチームです。

 「22人」は狭き門で、育成面を踏まえれば五輪でオーバーエイジ(以下OA)を使うかは迷うところ。私も日本サッカー協会の技術委員長としてロンドン五輪(2012年)のメンバー選考に絡んだ際、目先の勝利と選手の将来をどう考えるかは重要なポイントになりましたが、正直、正解はありません。

 OAを使う場合は、その五輪世代に近い年齢の選手をピックアップすべきというのが持論です。(89年1月1日以降に生まれた選手が出場できる)ロンドン五輪・サッカー競技で当時23歳の吉田麻也選手(88年8月24日生まれ)をOAで選んだのは、彼に野心があったから。オランダのVVVフェンロからステップアップしたいという想いがあったはずで、だから私は吉田選手を推しました。

 もちろん反対意見もありましたよ。フル代表も戦っていた吉田選手はその年の6月に行なわれたワールドカップ・アジア2次予選で怪我をし、しかも五輪後には最終予選が控えていたので、「無理をさせるべきではない」と。それはそれでひとつの意見で、間違いとかではないんです。

 ただ、結果論で言えば、吉田選手はロンドン五輪に出場して正解だった。日本がベスト4に勝ち進んだおかげで、彼はサウサンプトンから声がかかったわけですから。あそこで活躍してなければ、おそらくプレミアリーグでプレーできなかったというのが私の見解です。

 その点、今回はOAふたり(吉田=32歳と酒井宏樹=31歳)がオーバー30。彼らと東京五輪世代の選手との大きな年齢差が、どう出るか。まあ、この前のジャマイカ戦を観るかぎり、遠藤航選手も含むOA3人は活躍していましたから、心配は無用かもしれませんが。
 

 なにより、6月の段階でOA3人を絡めた代表合宿を実施できたのが良かった。五輪が昨年開催だったら、OAをチームに組み込む作業は本番まで10日前後しかできなかったはず。その意味で1年延期がもたらしたメリットは大きいです。チームの骨格、戦い方がすでに見えていますよね。

 特にOA3人を“後ろ”に固めたのが奏功しているように思います。リオ五輪の時はFWの興梠慎三選手、SBの藤春廣輝選手やCBの塩谷司選手と“前と後ろ”に入れたから混乱した部分があったのかもしれません。OAを使うなら、今回みたいにいわゆる一極集中がいいでしょう。

 リオ五輪では久保裕也選手をクラブ(当時はスイスのヤングボーイズ)の事情で招集できませんでした。オリンピックはインターナショナルウィークに行なわれる大会ではないので拘束力がなくそんな事態も起こりますが、今回は“東京五輪”という理由で選手たちの所属チームはかなり協力的だったと推察できます。

 仮に他国開催ならクラブに拒否されて、海外組の堂安律選手、久保建英選手、冨安健洋選手あたりは招集できなかったかもしれません。そうしたアクシデントがなかった今回はラッキーでした。いや、これは自国開催のメリットと言うべきでしょうか。
 

 日本特有の蒸し暑さもアドバンテージになりますし、実際、上位を狙える可能性はあります。ただ──。メダルを獲って当たり前という雰囲気になると、それがかえってプレッシャーになり得ます。準備期間も含め東京五輪に臨む選手たちはかなり行動も制限されますし、プレッシャーと同時にストレスも抱える恐れは十分にあります。

 コロナ禍の影響で五輪開催の是非も問われていますよね。この状況でやっていいのか、感染者が増えたらどうするのか、そういう意見・情報に心が乱されて、大会に集中できなくなるかもしれません。これが怖いです。他国開催なら割り切って「競技に集中」というスタンスになれるはずですが、今回は難しい。世論をシャットアウトするのは無理でしょう。いずれにせよ、東京五輪は前例のない大会になります。

 飲食店などが苦労を強いられるなか、「サッカーなんてやっていていいの?」という声が高まったとして、果たして競技に集中できるか。精神的なコントロールが重要なファクターになる気がしています。
 
 いずれにしても、頑張ってもらいたいです。五輪戦士がその数年後にフル代表の中心になるケースも多いですからね。ロンドン五輪では山口蛍選手や清武弘嗣選手、リオ五輪では南野拓実選手などがそうです。ただ、一方で今回の五輪メンバーから外れたからと言って、フル代表への道が遠ざかるわけではありません。

 例えばシドニー五輪の時は遠藤保仁選手が当時の登録メンバー18人にエントリーされていません。ロンドン五輪の時は大迫勇也選手や原口元気選手が外れていますが、彼らは落選をモチベーションにして飛躍を遂げました。特に、大迫選手はあそこから大きく変わった気がします。

 五輪がすべてではないですし、フル代表こそがひとつの到達点。今回外れた選手たちが“なにくそ精神”で奮闘してくれることが、日本サッカーにとって良いことだと信じています。東京五輪に出場する選手は当然ながら頑張る、落選した選手はさらに頑張る。そうやって切磋琢磨していってほしいと思います。

<プロフィール>
原 博実(はら・ひろみ)/1958年10月19日生まれ、栃木県出身。現役時代はFWで早稲田大、三菱重工などで活躍。日本代表歴は75試合・37得点。現役引退後、浦和、FC東京の監督を経て日本サッカー協会で技術委員長なども務めた。16年3月にJリーグの副理事長に就任し、現在に至る。

取材・構成●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集長)

※本稿は、サッカーダイジェスト7月22日号に掲載された「J’sリーダー理論」の内容を加筆したもの。

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