なでしこJが東京五輪で成功できなかった理由。年代別W杯優勝の実績を持つ指揮官はチームをどう導こうとしたのか?

なでしこJが東京五輪で成功できなかった理由。年代別W杯優勝の実績を持つ指揮官はチームをどう導こうとしたのか?

東京五輪では8強で姿を消したなでしこジャパン。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)



 高倉監督は、なぜA代表では成功しなかったのか――。

 地元開催の東京オリンピックで金メダルを目指す。そのなでしこジャパンの戦いはベスト8で終わった。

 2018年に女子アジアカップ、アジア大会の二冠を達成。2019年の女子ワールドカップ・フランス大会ではベスト16。準優勝チームとなるオランダを試合内容で上回り、欧州の目の肥えたファンからも高く評価された。

 今大会も、決勝に進んだスウェーデンに敗れての退場だが、2年前に感じた、ある種の清々しさは感じられない。なぜだろうか。

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 高倉麻子監督は、2007年からナショナルトレセンコーチを皮切りに、日本の女子の育成年代に関ってきた。2013年にU-16日本女子代表の指揮官となってからも、大部由美コーチと全国を行脚し、才能の発掘を怠らなかった。俊英の集まるクラブユースだけでなく、高体連の強豪校が出ない地方大会の1回戦にも足を運び、現場では一度ならず「こんなに見に来てくれたら、ウチの選手が選ばれなくても仕方ない」という声を聞いた。

 年代別代表は2年ごとにチームが変わる。短期間で限られた選手からタレントを見出し、チームを完成させる。チームとしての活動日数も少ないので、代表で攻撃の形を作るだけでなく、所属チームでの連携や、先天的な相性に頼る部分も大きい。高倉監督は、個々の素材を見て、チーム名などのステータスに囚われず、選考した。2014年のU-17女子ワールドカップ(W杯)優勝、2016年のU-20女子W杯3位という好成績を残せたのは、実戦での采配以外に、地道な発掘作業と選手の個性の見極めも、大きな比重を占めている。

 ヤングなでしこで活躍した上野真実が好例か。彼女は、高校3年時の高校女子サッカー選手権で1回戦負け。卒業後は、なでしこリーグ2部の愛媛FCレディースに進路をとった。高倉監督は彼女を抜擢すると、U-20女子W杯・パプアニューギニアでは得点王に輝き、今回の東京オリンピックでもメンバー入りを最終段階まで争った。
 

 2016年、佐々木則夫前監督の後を受けて、高倉監督はフル代表の監督に就任すると、年代別代表の時と同じように、スポットライトの当たっていなかった選手も、積極的に招集し、試した。女子W杯フランス大会までの3年間で、フル代表あるいは、なでしこチャレンジの合宿に呼ばれた選手は90名。そこにはなでしこリーグ2部や、チャレンジリーグ所属の選手も含まれている。個々の可能性を慎重に探り、一人ひとりの特長と向き合うことで選手の育成は幅広く進んだが、その反面で主軸を固める作業は大幅に遅れた。
 
 女子W杯では、直前にケガ人が続出したこともあり、合宿で思ったような連係強化ができず、完成度の遅れが致命傷になる。大会を戦いながら修正し、ようやくチームが固まった4戦目のオランダ戦で敗れ、大会を後にした。

 その後、親善試合からE-1まで連勝街道を突っ走り、この段階では「女子W杯で目指した方向性は間違っていなかった」という意識が、指揮官の中にもあったはずだ。

 しかし、コロナ禍で、半年ぶりに代表活動が再開した昨年の秋。高倉監督は、女子W杯出場選手の中にコンディションを崩した選手がいることに気づき、才能を開花し始めた若手に注目。戦力の再チェックを実行した。

 新たな競争は激しさを増し、そこを勝ち抜いた若手の意識は決して低いものではなかった。また、チームとしてのベクトルも、女子W杯の開幕時に比べれば、高いレベルで共有されていた。その成果は、グループリーグ最終戦で発揮されるはずだった。

 フレッシュな選手を何人使い、前2戦を戦った選手を何人休ませて勝ち切るか。これがこの試合のテーマだった。ノックアウトラウンドで当たる相手は強敵揃い。このチリ戦で出せない選手は、その後も起用できない。

 だが、高倉監督は、南こそ休ませたが、コンディションが良くないと伝えられる岩渕真奈、2戦先発していた熊谷紗希、長谷川唯、清水梨紗も、スターティングメンバーに名を連ねた。チリとレベル的には変わらないメキシコに大勝した自信は、カナダ戦、イギリス戦を経て、消失していたのだろうか。

 結局、なでしこジャパンはベスト8に進んだものの、9人がターンオーバー明けの優勝候補・スウェーデンと対戦。1対3で敗れて、開催国の東京五輪は終わった。
 

 日本は、対戦相手のストロングポイントを踏まえて対応策を立てたが、対戦国もまた、日本の特長をしっかりと分析していた。崩しのアイデアを選手に委ねた結果、選択されたのは、相手チームも当然のように警戒をはらう、岩渕真奈と長谷川唯のルート。
 
 昨年からスタッフ入りした今泉守正コーチらが、ゴールに近いエリアでの期待値の高いプレーを選手に示唆し、今春の試合で効果を挙げていた。結果から振り返ると、指揮官主導で選手のアイデアとは別の攻撃ルートを開拓しても良かった。選手の絞り込みを早めに済ませていれば、可能だったはずだ。

 接戦になればなるほど、選手交代が勝敗を分ける。カードの枚数が5枚になっても、高倉監督の選手投入は遅れがちだった。とりわけ、イーブンの状況では、選手に限界が来るまでそのまま見守り、動かなかった。イギリス戦やスウェーデン戦では、新手がピッチに入ってきた時には、チーム全体が動けなくなっていた。

 また、バランス回復を試みるケースが多く、対戦相手にとって怖さを感じさせる交代が少なかった。ディフェンダーを1枚削ってフォワードを投入するような、自軍がリスクを負っても、相手のミスを誘うような「その場限りの正解」を選ぶこともなかった。

 女子アジアカップ、アジア大会(いずれも優勝)のような、力が五分以下の相手を順当策で封じることはできても、格上相手のアップセットや逆転勝ちに結びつけることはできなかった。厳しい言い方をすれば、勝敗を扱う勝負師ではなく選手の才能を見出し、伸ばす、育成者としての資質が大きかったということではないだろうか。

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 ホームで金メダルを獲得するという夢は潰えたが、このチームに招集され、代表活動に参加して視座が高くなった選手はたくさんいる。そうした選手が、その刺激、意識の高まりを一過性のものとせず、次のチームで世界へ再挑戦してほしい。それが、なでしこジャパン復活への第一歩だ。

取材・文●西森 彰(フリーライター)
 

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