【WEリーグ開幕記念インタビュー】W杯優勝を経て母親に。岩清水梓の特別なキャリアが新リーグのシンボルに

【WEリーグ開幕記念インタビュー】W杯優勝を経て母親に。岩清水梓の特別なキャリアが新リーグのシンボルに

サッカー選手として、母親として奮闘中の岩清水。クラブのスポンサー「ポポラー」の支援には感謝の意を示していた。写真:WEリーグ



 「WOMAN EMPOWERMENT」=女性活躍 を看板に掲げたプロサッカーリーグ「WEリーグ」(11クラブ)がいよいよ12日にスタートする。日本女子サッカーが2011年W杯ドイツ大会で優勝を果たして10年が経過。世界中の女子サッカーの目覚ましい躍進と競う現状で、プロ化は底上げの大きな弾みとしなければならないだろう。

 同時にこの10年で、強化策の内容も大きな変化を遂げている。FIFA(国際サッカー連盟)が今年から加盟国に運用を義務付けた「女子サッカー選手の支援ルール」でも明らかなように、女性の長いキャリア、出産、育児にも包括的な支援が求められるようになった。女性活躍、多様性を看板に掲げたWEリーグにとって、20年3月に長男を出産し開幕を迎えるDF岩清水梓(34歳=日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の存在は、その大切なシンボルだ。

 W杯優勝後も長く、充実したキャリアを築いた自身にも、母親として、厳しいプロ競技を仕事とする女性として、新たな挑戦となる。そしてファンにとっても、彼女のタフな守備と同様に、ママさんフットボーラーを見守る喜びが加わりそうだ。
 
「さぁ、もうひとつのアディショナルタイムが始まる!! とロッカーを飛び出して」
 
──開幕までの準備期間、トレーニングと育児のペースは掴めましたか?

岩清水 かつてなら自分を追い込んで、追い込んで、倒れてもまた違う課題を見つけて……と、トレーニングに没頭していたでしょうね。でも今は、息子(1歳6カ月)が待っていますから日々の練習で倒れるわけにはいきませんよね。ベレーザのようなチーム、日本代表の一員として昔は怖い顔をしてひたすら練習に打ち込みましたけれど、今は、当時の牙(きば)と角(つの)が取れた感じではないでしょうか。その分、与えられたメニュー、自分の仕事をしっかりやり抜き、準備をする客観的な目線は身に付いたかしれませんね。

──牙と角(つの)……そこまで怖くはなかったけれど。

岩清水 そうですか、良かったぁ。静岡でのトレーニングキャンプに、初めて息子を連れて行ったんです。

──元なでしこジャパンの宮本ともみさん(43歳=高田短期大学女子サッカー部監督、U−20日本女子代表コーチ)に、04年のアテネ五輪後に出産し、息子さんを連れて初めて合宿に参加した際、緊張感が高く、疲労もある合宿で子どもが泣いたらどうしよう、迷惑をかけるのでは、と不安だったと聞きました。

岩清水 まさに私自身が、宮本さんがそうやって息子さんを連れて来てくれた当時の合宿に参加していました。その経験のお陰で、チームメイトの反応については決して悪いものではないと感じていました。緊張や疲労感を、全く違う子どもという存在がむしろ和やかにしてくれる面もある。私も合宿中、みんなが息子に接してくれるなかで、彼女たちのいつもとは違った表情、優しさとか気遣いとか、サッカーの話だけではなかなか分からなった面を知る機会にもなりましたね。今回は、シッターさんが同行し、息子も頑張っていました。実は、クラブの胸スポンサーをして下さっている「ポポラー」(株式会社タスク・フォースが展開する都市型保育園のブランド名)さんの支援で、保育園も通っていますし、今回のようにシッターさんの手配も御願いでき、とても有難い。安心して競技に臨めます。
 
──練習後がまた長いアディショナルタイムですよね。

岩清水 そうなんです。練習中は集中していますから考えませんが、終わった瞬間、さぁ、保育園のお迎え!!とマインドスイッチがパッと切り替わって、そこからロッカーを駆け出して車で迎えに行き、夕飯を準備して食事、寝かして付けて、と、本当にあっという間に1日が終わってしまう。サッカーのアディショナルタイムとは違った“何が起きるか分からない”そんな時間です。以前なら、疲れた、明日に備えようと自分だけの時間を過ごしていたのに、今は息子のために自分のケアより、次から次へと育児や家事をこなせる。母親になったパワーって凄いなって、改めて知りました。
 

 岩清水は陣痛が始まってから普通分娩で出産するまで、実に32時間以上を要する難産を経験した。その際、ち骨にひびが入るほどの負荷だったために腹筋も痛めてしまった。サッカー選手としてトレーニングの再開という現実に向き合った時、出産前の時期にできた、あるいは復帰を目指す上でやっておくべきだったトレーニングへの知識が「もっとあれば良かった」と感じたという。

 「ママさん選手」と周囲は容易く呼んでしまうが、そこに至る道のりは千差万別で、家族や個人の努力以上に、充実した情報や体制が必要だ。

 FIFAは昨年12月、今年からの運用を義務付けるとして、女子サッカー選手に少なくても14週間の産休を認め、その間、給与の3分の2を保障するようルールを新設した。

 日本でも、NTC(ナショナルトレーニングセンター、東京都北区)内には託児所が設置され、併設されているJISS(国立スポーツ科学センター)では「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」で産前・産後のトレーニングを指導し、子どもの遠征帯同費の補助も進めてきた。トップ選手たちによる「ママアスリートネットワーク」など勉強会も行なわれるようになったが、欧米に比較すると、資金援助やデータの蓄積で改善が必要だろう。

 こうした大枠での支援策の設置に加え、ベレーザがスポンサーの協力で岩清水を支えるように、より細かく、現場のニーズや実行性において女性活躍を促進させる働きも、WEリーグに求められる。
 
「母になって、これまでとは違った目線でチームを引っ張れれば……素敵なリーグを作りたい」
 
──プロ開幕と、岩清水選手の復帰のタイミングが重なりました。

岩清水 私が復帰しようとするタイミングで、WEリーグに、多様性といった理念のひとつが掲げられて、自分は後からパズル全体のワンピースになれたように感じています。母親として今度はプロになるわけですから、アマチュアではなく、プロ契約をしてもらえる選手として、ママさん、だけでは不十分です。自分がピッチでプレーをする姿が、後の選手にもつながらなくてはいけないし、そこは私次第なんだというプレッシャーを自分にかけています。

──例えば東京五輪にも、アメリカの(アレックス・)モーガン(32歳)が、ちょうど岩清水さんと同じ頃に出産して(20年5月)代表に復帰していましたね。

岩清水 はい、彼女のインスタグラムを見ていました。東京には、新型コロナウイルス予防対策のため娘さんを同行できなったようですね。彼女のインスタで、妊娠中、お腹が大きいのにガンガン、ウエイトトレーニングをしている様子がアップされていて、それには驚かされました。無茶をしているわけではなく、この時期、ここまでのトレーニングができる、と、あらかじめプログラムを持っているからできるものでしょう。出産でチームを離れた後、中期から後期にできるトレーニングや、復帰を目指したプログラムが日本の女子選手にももっと気軽に提供されれば、と思いました。

──32時間以上も陣痛に耐えるような経験をされれば、もちろんメンタルでもさらにタフになると思いますが、何かほかに、復帰されて感じた変化はありましたか。

岩清水 親の目線と言いますか、どうしてそう考えるのか、とか、なぜそれを選択したのか、と、言葉や行動の背景や、環境などを思うようになったのが、もっとも大きな変化かもしれません。そういう目線で見ると、サッカーをしながらも学校の成績もとてもいい選手や、表現力や感受性が豊かな選手もいる。その選手の考え方を知ろうとしたうえで、コミュニケーションを取るようになりました。開幕に向かって、チームメイトにかける言葉、チーム全体にもたらす安心感といった面でも自分が果たす役割はあると思っています。

──息子さんはまだ、ママの仕事については分からないですよね。

岩清水 まだ分かりませんから、記憶に何かが残るようにしてあげたい。フィジカルのコンディションにも不安はありませんし、子どもを抱っこしてスターティングメンバーとしてピッチに入場するのを、まず目指します。日中のゲームは連れて行けますが、ナイトゲームやアウェーになったらどうしていくか、息子に頑張ってもらうかもしれませんし、「ママさん選手」って、絶対にひとりではなれないんです。支えてくれる方々の力がなければ。各チームにお母さんがいて、応援してくれる皆さんが一緒にサッカーを楽しめる。そういう、とても素敵なリーグになるよう、私も頑張りたい。

<プロフィール>
岩清水梓(いわしみず・あずさ)
1986年10月14日生まれ、岩手県出身。経歴は大沼SS−日テレ・メニーナ−日テレ・ベレーザ/日テレ・東京ヴェルディベレーザ。なでしこリーグのベストイレブンに13回選ばれているDFで、日本女子代表として11年のワールドカップ制覇に貢献。女子サッカー界を支える功労者のひとりだ。

取材・文●増島みどり(スポーツライター)

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