五輪開催中にカヌー&ウェストとバーで意気投合! ナイジェリアの金メダル獲得に貢献した?【英国人エディターコラム】

五輪開催中にカヌー&ウェストとバーで意気投合! ナイジェリアの金メダル獲得に貢献した?【英国人エディターコラム】

アトランタ五輪期間中にナイジェリア代表の一団とバーで遭遇。意気投合したカヌー(4番)とウェスト(3番)とはその後も付き合いが続いた。(C)Getty Images



 東京五輪が幕を閉じてから、すでに1か月半が過ぎた。

 皆さんは、過去のどのオリンピックがもっとも印象に残っているだろうか。僕の場合は1996年のアトランタ五輪だ。アメリカのドリームチームを追ったバスケットボールの取材で現地に飛び、初めてライブで体感したのがこの大会だった。

 思い出に残っているのは、現地取材ができたからという理由だけではない。最高の出会いがあったからだ。

 ある夜、息抜きに街のバーに出かけると、賑やかな一団に遭遇した。見覚えのある顔がいるなと思ってよくよく見てみると、サッカーのナイジェリア代表の面々だった。ヌワンコ・カヌーにタリボ・ウェストがいる。セレスティン・ババヤロ、ティジャニ・ババンギダ、ジェイジェイ・オコチャもいて、チームの全員が顔を揃えていた。これがヨーロッパのどこかの街なら、きっと店内はちょっとした騒ぎになっていたはずだ。でも、そこはアメリカ。他の客は誰も彼らのことを知らなかった。

 思い切って声を掛けてみたのは、自分がまだ若かったせいもあるし、今後の仕事につながるかもしれないという計算も働いたからだ。当時はある出版社で編集記者をしていて、その会社に派遣されての五輪取材だった。

 アルコールの力も借りて話しかけると、彼らは拒絶するどころか、快く迎え入れてくれた。ナイジェリアの選手たちは、こっちがびっくりするくらいオープンでフレンドリーだった。
 
 会話は盛り上がり、なかでも意気投合したのがカヌーとウェストだった。翌日がオフでどこかに出掛けたいという2人を僕がエスコートすることで話がまとまり、実際に2人を車に乗せてショッピングモールに行ったりして他愛もない時間を楽しんだ。

 この気分転換がよかったんだろうね(笑)、ナイジェリアは金メダルを獲得した。準決勝でブラジルを倒し、決勝ではアルゼンチンを撃破しての堂々たる戴冠だった。ブラジルはベベット、ロベルト・カルロス、ロナウド、リバウド、アルゼンチンはエルナン・クレスポ、アリエル・オルテガ、マティアス・アルメイダ、ハビエル・サネッティと錚々たるメンバーを揃え、本気で金メダルを獲りにきた南米の2強を連破したナイジェリアは、本当に強かった。

 カヌーとウェストとの付き合いはその後も続き、カヌーがアーセナル在籍中は何度か食事に行ったりした。インテル時代のウェストにはミラノに来ないかと誘われて、一度訪ねたことがある。ミッドウィークに行って、バールで一緒にチャンピオンズ・リーグの試合を観たりして。

 マンチェスター・ユナイテッドとバルセロナの試合だった。チャントを熱唱しながらノリノリだったウェストを覚えているよ。そうかと思えば、彼は敬虔なクリスチャンの顔も持っていて、翌日はナイジェリアの人たちが集まる教会に行って一緒に祈りを捧げた。

 さて、EUROもあったこの夏はあっという間にオフが過ぎ去っていった印象だけど、僕はプレシーズンマッチが好きでね。なぜなら、選手をより間近で取材できるチャンスがあるから。とくにアメリカやアジアへのツアーはスポンサーが絡んでいるから、シーズン中は難しい選手のインタビューが取れたりする。

 プレシーズンの取材で覚えているのは、他でもない日本で実現したジャック・ウィルシェアのインタビュー。2013年の夏だった。当時のウィルシェアはアーセナルのライジングスターで、サポーターから絶大な支持を集めるガンナーズの未来だった。

『ワールドサッカーダイジェスト』の一員として聞き手を務めた僕は、いまの加藤編集長とともにインタビュー場所に指定された埼玉スタジアムに向かった。浦和レッズとの親善試合を翌日に控えたアーセナルは、この日は練習やスポンサー絡みのイベントをこなし、その終わりにウィルシェアは時間を割いてくれた。

 インドネシアとタイも回った長旅の疲れがさすがにあったようだけど、ウィルシェアは一つひとつの質問に丁寧に答えてくれた。これにはある“秘策”が功を奏してね(笑)。故郷の味がそろそろ恋しいのではないかと思って、持参していたクリスプ(ポテトチップス)やビスケットを差し入れしたら、案の定、喜んでくれた。

 スキルフルで、勉強熱心で、とても良いプレーヤーだったのに、怪我が多かったウィルシェアは決定的なブレイクスルーを果たせなかった。残念だね。
 
 最後に、プレシーズンマッチにまつわる面白エピソードをひとつ。我が愛するウェストハムがハリー・レドナップ監督に率いられていた94年、アウェーに乗り込みオックスフォード(当時3部)と試合をしたときの話だ。

 こぢんまりとしたスタジアムは、グラウンドとスタンドがすぐ近くで、ベンチと並ぶようにして立ち見席があった。ウェストハムのベンチ横に陣取ったウェストハム・ファンの若い男が、ビールをあおり、タバコをふかしながら、やがて野次を飛ばしはじめる。スタンドでの酒もタバコもまだ許されていた時代だ。男が罵声を浴びせた標的は、ウェストハムのFWリー・チャップマンだった。

「下手くそ! 俺のほうがよっぽどマシだ!」

 のべつまくなしの野次だ。レドナップがついに怒り心頭に発し、ハーフタイムに驚きの行動に出る。そこまで言うならお前がやってみろと、ファンのその男、スティーブをロッカールームに連れて行き、ユニホームに着替えさせると、チャップマンとの交代で後半のピッチに立たせたんだ。

 これだけでも信じられないのに、もっと信じられないミラクルが起きる。“ビッグマウス”スティーブが、まさかゴールを決めるなんて! いまではとても考えられない、大らかな時代の牧歌的な話。

文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)

Steve MACKENZIE
スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーターだ。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で手掛け出版した。

※『ワールドサッカーダイジェスト』2021年9月2日号より加筆・修正
 

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