スペイン2強に見るフットボールの「新時代」。メッシを手放したバルサはファンが離れ、マドリーの主役はスター選手ではなく…【現地発】

スペイン2強に見るフットボールの「新時代」。メッシを手放したバルサはファンが離れ、マドリーの主役はスター選手ではなく…【現地発】

ついにバルサを退団したメッシ。その影響は計り知れない。(C)Getty Images



 今夏、キリアン・エムバペの移籍報道が途絶えることはなかった。その日のうちにマドリード行きの飛行機に搭乗する予定が、夕暮れ時になると到着が数時間、遅れるというアナウンスの繰り返しで、ついに姿を見せることはなかった。

 結局、その多くはメディアの作り話に過ぎなかったのだ。我われが今回学んだことは、まず1つ目が一つのアイデアを刷り込むには、話を盛ればいいこと。2つ目は、サッカーはテクニカルで、社会学的なものから経済的なものへと変わったこと。

 そして3つ目はインパクトがことさら重視される現代社会において、衰亡とは無縁の巨大帝国を築くレアル・マドリーですら、その伝説に新たな彩を添えていくためにはエムバペ・クラスの選手を必要としていることだ。サッカーという競技において雑音が慎み深さを打ち消し、経営がプレーよりも優先され、個の力がクラブを抑え込んできた結果である。

 そんな折、リオネル・メッシが違和感ありありのユニホームを身に纏って、画面越しに我われの前に姿を現した。パリ・サンジェルマンでのデビュー戦の出場時間はおよそ30分間。サッカー界の歴史を動かす一戦として注目されたが、しかしメッシ自身はいつものように振る舞った。
 
 遠い昔の出来事だ。ディエゴ(マラドーナ)がマドリードを訪れ、わたしの家に電話をかけてきた。まだ携帯電話が普及していなかった時代だ。わたしが出たのは4度目だったようで、受話器を取るなり「お前と話すだけで、なんでこんなに苦労しなきゃいけないんだ。お前は何様だ。マラドーナか?」と開口一番、マラドーナ節を炸裂させた。

 ディエゴは冗談半分だったのかもしれない。しかし彼は早い段階から、自らの不動の立ち位置というものを理解して行動していた。翻ってメッシはどうだろう。フットボーラーとして積み重ねてきた輝かしいキャリアとは裏腹に、ピッチ外では控え目な人間であり続けている。学校まで子供を送り、過激な発言を口にすることもない。周囲の喧騒に踊らされず、距離を置いて生きている。

 ともあれ、メッシは今回の移籍で、バルサの天才ではなく、サッカー界の天才として歴史に名を残すことが決定的になった。問題が山積するバルサにさらに追い打ちをかける事態なのは言うまでもない。

 財政難というトラップによって身動きとれずに捕らえられたバルサは今夏、メッシをプレゼントし、アントワーヌ・グリエーズマンを貸し出し、イライシュ・モリバとエメルソンを売却するという普通ではあり得ないオペレーションを立て続けに敢行した。

 しかしさらに深刻なのは、ファン離れが進行している点だ。実際、年間シート保有者の3人のうち1人が更新手続きを済ませていないという。クラブがサポートを必要としている今この時に、ファンはそっぽを向き始めているのだ。この驚くべき事態は、アイデンティティの希薄化の表れであると同時に、もっと拡大解釈すれば、経営危機がサッカーの訴求力の低下を招いている危険な兆候と言えるかもしれない。

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 サッカークラブは常に、代々継承される伝統の上に成り立った小さな祖国のようなものだった。選手たちは優れた能力を競い合いながら、チームの勝利ために戦った。しかしその根本概念が揺らぎ始めている昨今、クラブとは何か、サッカーとは何か、我われは自問自答しなければならない。

 サッカーは幾万の無私無欲な人々の心に感動を呼び起こすエンターテインメントだ。ファンは自らの私財を投げ打ってでも、愛するクラブのために人生を捧げることができる。とりわけ盛り上がるのはローカルダービーだ。隣人同士がお互いのプライドをかけて雌雄を決する。

 しかし今シーズン、パリSGとマンチェスター・シティという10年前までさしたる関係がなかったクラブ同士の一戦がファンの興味を奪うことになるだろう。ともに国家の力を背景に、スター選手をかき集めるタレント軍団だ。
 
 相対的に近年、発言力の低下が著しいのが南米サッカーだ。欧州のクラブがワールドカップ予選に選手の派遣しないことをちらつかせても、憤慨する素振りすら見せない。

 これまではファンの間でアイドルとして崇められてきたのは、例えばマドリーなら、エミリオ・ブトラゲーニョ、ラウール・ゴンサレス、イケル・カシージャスといった花形選手だった。しかしこのままだと会長のフロレンティーノ・ペレスがその座に取って代わったとしても不思議はない。

 みなさん、新時代のサッカーにようこそ!

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79〜84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。

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