川口能活からの金言が急成長の糧に…“俺が主人公”だった大学生GKはいかにしてU-22日本代表合宿へ招集されるまでとなったか

川口能活からの金言が急成長の糧に…“俺が主人公”だった大学生GKはいかにしてU-22日本代表合宿へ招集されるまでとなったか

立正大の2年生守護神、杉本光希。写真:安藤隆人



 関東大学リーグ第18節。流通経済大を相手に完封勝利の立役者となったのが、立正大の2年生守護神・杉本光希だ。

 この試合、杉本は流通経済大から11本のシュートを浴びた。17分、FW熊澤和希とのワンツーで抜け出したサンフレッチェ広島内定のMF仙波大志に強烈なシュートを浴びるが、鮮やかな横っ飛びでポスト右へ弾き出す。23分にもサガン鳥栖内定のMF菊地泰智にペナルティーエリア内から決定的なシュートを放たれるが、コースを見極めて枠外にセービング。チームのピンチを救うと、スコアレスで迎えた49分に立正大の藤枝MYFC内定のMF金浦真樹が先制ヘッドを決めて流れを引き寄せた。

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 これで勢いに乗った立正大は63分と88分に加点。守っては78分に菊池の左CKから中央でMF佐久間駿希が至近距離でダイレクトボレーを放つが、これも杉本が抜群の反射神経で弾き出した。82分にもFW永井颯太の反転シュートを右手一本でビッグセーブ。最後までゴールを割らせることなく、立正大に1部残留に向けて大きな勝点3をもたらした。

「来年もこのチームを1部でプレーできるようにする。その上で全国を狙うことを考えているので、チームとして活動をしていく中で、勝ったチームとしての結果の上に個人の活躍があると思っています。今日はたまたま自分の出番が多かったですが、いつもは自分が調子の悪い時に助けてくれるのがCB3枚だったり、僕らがどれだけ止めても前が決めてくれないと勝てないので、点を取ってくれる攻撃陣がいるからこそ。いつもチームに助けられているからこそ、僕も助けられる時は助けたい。それがチームのためにだと思ってやっています」

 試合後、彼はこう謙虚な言葉を口にした。この言葉を聞いて、筆者には正直驚きがあった。それはジュビロ磐田U-18時代の彼はもっと「自分が」が強い選手だという印象があったからだ。それを素直に彼に伝えると、杉本は笑いながらこう答えた。

「それは変わりましたね(笑)。大学に入るまでは『俺がチームを勝たせる』とか、『俺が守って、俺の力でゼロに抑える』といった、どちらかというと『俺が主人公』という考えでした。でも、立正大に進んで、全国から名の知れた主人公になれる選手が多く入ってきて、須永俊輔コーチからも『チームのために戦う』ということを何度も言い続けられていくうちに、ちょうど1年生の時で試合に全く絡めない時期だったということもあって、『自分の取るべき立場』はどういうものだろうと考えるようになったんです。その時に高校までの僕は『俺が』が強すぎて、自分のプレーが前のめりになった時にやられてしまうことが多かったことに気が付いたんです。昨年の1年間で、『ゴールを1人で守ることはできない』と感じたことで、周りへのコーチングだったり、コミュニケーションだったり、自分なりにチームを支える立場で取り組むようになりました」
 

 意識の変化は、彼のプレーだけではなく、人間性も一気に高めた。独りよがりのプレーは消え、周りとの協調をプレーに取り入れたことで、視野が広がり、予測のパターンも増えたことで、ポジショニングの質とコーチングの質も向上。これによりシュートを受けるシーンで余計な力みが消えたことで、ナチュラルに体が反応するようになった。
 
 そして彼にはもう1つの転機があった。それは日本代表の守護神として数々のスーパープレーを見せてきた川口能活の存在だ。

「実は能活さんの現役の時を知らないんです。テレビでも生で見たことがなくてYouTubeのスーパープレー集でしか見たことがないんです。でも、ジュビロの下部組織でプレーをしていると、ジュビロOBでもあるコーチが必ずと言っていいほど、『能活さんはこうしていたよ』と常にアドバイスをくれるんです。でも、その時の僕は主人公だと思っていたので、『一緒にしないでよ』と思っていました。『俺は俺なりのプレーで行く』と突っ張っていたのですが、一度高3の時のナショナルGKキャンプで一緒になったことで考え方が大きく変わりました。この時、僕は『僕はGKとしては身長が低い(181cm、川口は180cm)のですが』と言ったら、『俺は自分のことを小さいとは思っていないよ。誰よりも飛べば、その大きさはカバーできる』と言われたことが本当に心の奥まで響いて、そこから僕は絶対に自分を小さいと思わないし、相手が190cmだったら、10cm相手より高く飛べばいいというポジティブな発想になることができた」

 まさに流通経済大戦での彼のプレーはこの2つの転機が大きく反映されていた。サガン鳥栖内定の孫大河を軸にした3バックと両ウィングバックを巧みにコントロールし、17分、23分、82分のシーンはシュートコースをある程度限定させたことで、磨き上げた跳躍力と最長到達点に届くスムーズな手の出し方を駆使して、ボールを正確に外に弾き出した。

「今日も味方がファーサイドを切ってくれたからニアを止めることができた。仲間を信じて、コースを限定できたからこそ力まず、ポジションも前過ぎてしまうこともなく、ナチュラルな姿勢で止めることができたんです。僕1人の力じゃないですし、『特別な何かをしようとするのではなく、練習でやってきたことだけをやろう』と試合前から言い聞かせていた結果だと思います」
 
 急成長を見せている杉本のもとには、4日から始まるU-22日本代表候補合宿への招集が届いていた。この合宿には川口もGKコーチとして参加をする。
 
「僕よりうまいGKは多いし、まだまだ成長をしていく段階だと思っています。たまたま今回、こういうステージに立つことができた。高3からずっと能活さんを目標にしてきてやってきたので、今回のキャンプは自分にとっていいものにして、それをチームに還元できるようにしたいと思います」。

 彼は引き締まった表情でこう言うと、囲み終わりに「ありがとうございます。またよろしくお願いします。失礼します」と何度も会釈をしてチームの元に帰っていった。

 彼にとってこの1週間の合宿はさらなる成長と学びを得るための重要な時間となる。もちろん今月下旬のU-23アジアカップ予選(Jヴィレッジ開催)のメンバーに残ることももちろんだが、その先にあるチームの1部残留、大学経由でジュビロに戻るという目標に向かって、彼は足下をしっかりと見ながら一歩ずつ、かつ着実に未来への道を踏み出している。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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