サウジ戦の明暗を分けた森保監督の選択… 必要なのは選手に嫌われてでも勝利を奪い切る“非情さ”だ

サウジ戦の明暗を分けた森保監督の選択… 必要なのは選手に嫌われてでも勝利を奪い切る“非情さ”だ

サウジアラビア戦の明暗を分けたのは、“負けないこと”を突き詰められなかった指揮官の選択だった。写真:金子拓弥 (サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)



[カタール・ワールドカップ・アジア最終予選]日本 0-1 サウジアラビア/10月7日/キングアブドゥラー スポーツシティスタジアム

 ホームでのオマーン戦を落とし、後手に回った日本代表は、過剰に失地回復を急いでいたように見える。それを象徴していたのは、サウジアラビア戦を控えた南野拓実の強い言葉だった。

「(10月シリーズは)2戦とも引き分けではなく勝たないと次へ繋がらない」

 しかし冷静に大局を見れば、アウェーのサウジアラビア戦は負けないことが至上命題だった。そして明暗を分けたのは、そこを突き詰められなかった指揮官の選択だった。

 柴崎岳はボランチ候補の中でも最も攻撃力に比重が偏る選手だ。もちろん天才肌のセンスを備えているから、開始5分に放った相手の意表を突くロングシュートが均衡を破り、日本を勝利に導いた可能性もある。

 だが、サウジアラビア戦を「勝たなければいけない試合」というより「負けてはいけない試合」と捉えれば、スタメン起用はギャンブルが過ぎた。
 
 ダブルボランチに固執するなら遠藤航のパートナーは田中碧か守田英正が妥当で、むしろ柴崎は追いかける展開になった場合を想定してベンチに残しておくタイプのカードだった。例えば遠藤と田中のダブルボランチで臨み、先に失点をした場合は遠藤を1アンカーに残し、田中と柴崎をインサイドハーフ起用の4-3-3へシフトするなどのプランが用意されていても良かったと思う。

 柴崎が守備面で危うさを見せたのは、失点に繋がったシーンが3度目だった。最初は後半開始早々にバイタルエリアでサレハ・アルシェハリにボールを奪われ、致命傷になるところを権田修一のセーブで救われた。確かにアルシェハリは正当なチャージでボールを奪ったのではなかったかもしれないが、柴崎はファウルというセルフジャッジでプレーを止めてしまった。もし遠藤なら引きずられてでもとことん粘り抜き、笛が鳴るまで相手に自由を与えなかったに違いない。

 2度目は自陣右の守備エリアで軽い股抜きを狙い、それを相手にインターセプトされた。サウジは左からヤシル・アルシャハラニが鋭いクロスで脅かし、今度は右からもクロスを送る波状攻撃へと繋げている。指揮官が守田へのスイッチをするなら、どんなに遅くてもここで即断するべきだった。
 

 奇しくも試合の前日会見で、吉田麻也主将が森保一監督の選手を引き付ける力について語っていた。

「多くの監督のもとでプレーしてきたが、あれほど本気で選手のことを考えてくれる監督はいない。東京五輪では冨安健洋のコンディションを優先し、1試合休ませた。こんなことができる監督はなかなかいない。だからみんなみこしを担ぎたくなる」

 ただし反面、吉田のコメントは、森保監督の素晴らしい人柄とともに、プロフェッショナルの勝負師としての弱点も匂わせた気もする。

 逆に吉田が見てきた多数派の監督たちは、もっとエゴを剥き出しに結果を獲りに行くのだろう。試合後の森保監督は言った。

「柴崎は攻守に渡り貢献してくれた。疲労が見え、交代を考えていたところで失点した。しかし代えるタイミングを間違ったとは思っていない」
 
 日本陣営のサウジ戦へ向けた入念な準備は、「相手の情報はしっかりインプットできて、ストロングポイントもしっかり抑えられていた」という吉田の言葉が裏づけている。完全アウェーの地で、ポゼッションから決定機、パス成功率、デュエルなども含めて、ほぼ両チームのデータは拮抗していた。しかし、だからこそ細部が勝敗を残酷に色分けた。

 森保監督は個々の長所だけを見て信じ続けるタイプで、育成指導者なら理想的な姿勢を貫いている。だがスタメンの倍以上の選手たちを率いて、生き馬の目を抜く戦場へ出ていく将軍には、冷徹な割り切りや迅速な見切りも必要になる。モチベーターとして「みこしを担ぎたい」気持ちにさせるだけではなく、嫌われても勝利を奪い切る非情さも求められる。

「ベースの方向性は間違っていないし、諦めなければワールドカップの切符を手にする力がある」と指揮官は断ずる。それを真っ向から否定する異論はない。だがそれだけに、采配面での柔軟性の欠如と度重なる決断の躊躇が残念だ。

文●加部 究(スポーツライター)

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