森保一は監督として重要な資質を備えている!だが「いいひと」では大成できない――。先達から読み解く代表監督の系譜

森保一は監督として重要な資質を備えている!だが「いいひと」では大成できない――。先達から読み解く代表監督の系譜

豪州戦で見せた変化を森保監督は持続できるか。写真:金子拓弥 (サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)



 オーストラリア戦後、勝利した森保一監督の眼は少しうるんでいるように見えた。

 勝利インタビューを終えた後、応援したくれたサポーターに感謝すべくゴール裏に行き、言葉を掛け、頭を下げた。フランス・ワールドカップ・アジア最終予選からこれまでいくつもの最終予選の試合を見てきたが、わざわざ出向いて感謝の言葉を伝えた監督は、森保監督が初めてだろう。

 森保監督の人間性について悪い評判はほとんど聞いたことがない。

 岡田武史元日本代表監督も「森保さんは、本当にいいひと」と何度も口にしている。

 どんな人の声もしっかりと聞き、常に丁寧に対応する。サッカーのトレーニングや戦術などの引き出しが多く、戦術論は選手はもちろん引退した選手や解説者もうならせるものがある。熱心な勉強家だが、それを自慢することもない。自分の考えをそう簡単に曲げない頑固さはあるが、監督であれば自己の信念を簡単に捨てるわけにはいかないので、そういう意味では監督としての重要な資質のひとつはしっかりと備えているといえる。

 森保監督は、人間的には素晴らしい。だが、「いいひと」だけでは勝てないのが勝負の世界だ。

 逆に我儘で言動が極端で、変人扱いされても厳しい決断をした監督のほうが結果を出している場合も多い。

 2002年の日韓ワールドカップの時に日本代表を指揮したフィリップ・トルシエは、報道陣はもちろん、協会とも衝突した。だが、シドニー五輪、ハッサン国王杯などのギロチンマッチをクリアして生き残り、史上初のベスト16進出に導いた。当時は、過激な言葉で選手を罵倒し、胸ぐらを掴んで威圧するなど、一連の振る舞いから変人扱いされていたが、若い選手を育成するには必要な手段だったと小野伸二ら評価する選手も多かった。
 
 トルシエとタイプは異なるが、岡田武史元監督は、常に厳しい基準を示し、秘めた決意と大胆な改革でチームを勝利に導いてきた。フランス・ワールドカップ最終予選時、加茂周監督が解任された後、ウズベキスタン戦では主力の中田英寿を外すカンフル剤を打った。南アフリカ・ワールドカップ・アジア最終予選では病に倒れたオシムの後を継いたが、3次予選アウェーのバーレーンに敗れると方向転換し、長谷部誠や長友佑都らを次々と入れてチームを変えていった。

 一番、驚いたのは南アフリカ・ワールドカップ直前だ。システムを変え、レギュラー選手、さらにキャプテンまで変えた。その結果、南アフリカではベスト16に進出した。結果オーライと言われるが、大会前のチームでは勝てないと判断し、そこから大改革を断行した決断力と実行力は見事だった。

 ただ、例外もある。ハリルホジッチはトルシエに似たタイプだが、うまくいかなかった。「デュエル」は必要な要素であり、それを直視すべきという視点を持たせてくれたことは大きいが、そこを重視し過ぎ、縦に早いサッカーにチームを押し込もうとした。そのためにはコミュニケーションが必要だったが、それを欠き、結果、選手との信頼性が薄れてきたという判断で解任された。
 

 一方、「いいひと」と評され、ウケが良かった監督は、どうだったか。

 ジーコは、前任者トルシエの練習非公開の秘密主義を撤廃し、すべてオープンにした。マスコミ受けがよく、選手としての偉大な経歴から相当な期待感があった。実際、アジアカップ優勝などタイトルを獲得した。だが、チーム作りは、海外組偏重で、国内組からは平等な競争が得られないなど不満が出て、戦術はほぼ選手任せ。その歪がワールドカップ時に一気に噴出し、質量ともに最高のメンバーが揃ったにもかかわらず、チームをまとめきれずにグループリーグで敗退した。

 いい人でいえば、アルベルト・ザッケローニ監督もそうだ。紳士たる振る舞いで、ウケは良かったし、チームの面子もドイツ・ワールドカップ以来、最強と言われた。だが、基本的に攻撃は選手任せ。チーム内にギクシャクする前線と守備の間の関係にも介入せず。選手を大人として見ていたのだろうが、試合を指揮するだけに専念し、ブラジル大会ではグループリーグ敗退だった。

 森保監督の評判は「いいひと」である。

 争いごとを好まない優しい性格ゆえに、選手をドラスティックに切ったり、控えに落としたりすることができない。選手時代からポジション的にも我慢を強いられてきた。

 それゆえ試合展開も我慢して見続け、その結果、選手交代のベストのタイミングを逸してしまうこともある。オマーン戦やサウジアラビア戦ではシステムを崩してでも点を取りにいくような強引さ、大胆さ、必死さももうひとつ伝わってこない。自分の経験則や戦術論に沿って戦い、手を打っているが、それが勝利に結びついていない。

 だから、限界説が噴出する。
 
 だが、オーストラリア戦では、頑なに変えなかったシステムを4-3-3に変更し、選手の起用の序列を変えた。サウジアラビア戦での敗戦でそうせざるを得ないところまで追い込まれたが故の変化だが、そうして勝利できたことで勝つためのヒントを何かしら得たはずだ。

 チームもいいチームになりつつある。試合後に権田修一はこういった。

「メンバー登録から外れた橋岡は悔しいけど、ハーフタイムに冷たいタオルを選手に渡したりして、何か少しでも役に立ちたいという姿勢を見せていた。Jリーグの選手で試合出場がなかった選手は、試合後、ピッチでダッシュを繰り返すなど次の試合に向けて調整している。試合に出ている選手、出ていない選手がひとつになって戦っていた」

 橋岡大樹などの若い世代がチームを支えようとチームに積極的にコミットしているのは、チームスポーツには大事なこと。レギュラー選手を支えるために控え組や登録外の選手を鼓舞しているのは、川島永嗣らベテランなのかもしれない。だが、そうしたインフォ―マルなリーダーもチームには不可欠であり、それがチームの強さに影響する。

 チームはいいチームになりつつあるが、森保監督は、「いいひと」のままで終わるのか。それとも日本代表監督として、「いいひと」ながら勝てる監督に成長していくのか。

 オーストラリア戦では、その尻尾は見えたが、この試合だけで終わっては意味がない。厳しい声はこれからもつづくだろうが、それが監督も選手もチームも成長するチャンスになる。次のアウェー2試合ではオーストラリア戦で見せた変化が持続可能であるということを証明してほしい。

取材・文●佐藤 俊(スポーツライター)

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