注目の一戦『横浜対札幌』をプロ分析官が徹底展望! 2週間の準備を経て、両者が用意した戦術は“継続”か“奇策”か?

注目の一戦『横浜対札幌』をプロ分析官が徹底展望! 2週間の準備を経て、両者が用意した戦術は“継続”か“奇策”か?

杉崎氏が予想した「横浜対札幌」のフォーメーション。



 Jリーグは10月16日、J1第32節の6試合を各地で開催する。日産スタジアムでは、アウェー4連戦を終えた2位の横浜F・マリノスが、ホームに11位の北海道コンサドーレ札幌を迎える。

『サッカーダイジェストWeb』では、Jリーグの各クラブでスカウティング担当を歴任し、2019年には横浜でチームや対戦相手を分析するアナリストとして、リーグ優勝にも貢献した杉崎健氏に勝負のポイントを伺った。

 確かな分析眼を持つプロアナリストは、注目の一戦をどう見るのか。予想布陣の解説とともに、試合展開を4つの状況に分け、それぞれの見どころを語ってもらった。

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●横浜F・マリノス
今季成績(31節終了時):2位 勝点69 21勝6分4敗 67得点・28失点

●北海道コンサドーレ札幌
今季成績(31節終了時):11位 勝点42 12勝6分13敗 40得点・43失点
 

【予想布陣解説】
 代表ウィークによる約2週間の中断期間中には、両チーム互いにトレーニングマッチやエリートリーグを行ない、準備を整えてきました。横浜にとっては、8月28日の27節・鹿島戦以来となる日産スタジアムでのホームゲームで、久しぶりに多くの自分たちのサポーターが駆けつけるピッチでプレーするため、相当な意気込みを持って臨むでしょう。

 予想したメンバーについて、横浜は前節の湘南戦からほとんど変更はなく、トップ下を天野純からマルコス・ジュニオールに代えたのみです。ただ、前節の前田大然の得点をアシストした仲川輝人が先発する可能性もあり、単純に右ウイングのエウベルと代えるか、もしくは左の前田が最近は相手に対策をされていて、なかなか彼の良さが出なくなってきていると感じるので、前田の位置にエウベルを入れて、右に仲川という並びもあり得るかもしれません。

 一方の札幌は、10月9日にエリートリーグを戦っていて、怪我をしていた福森晃斗が90分間出場。前節のG大阪戦でメンバーにいなかった荒野拓馬もこの試合でフル出場していたので、両者ともにスタメンで出るだろうと予想しています。

 お伝えしたい全体的なテーマは、「継続か奇策か」。自分たちのスタイルを継続していくのはどのチームも一緒だと思いますが、今回は約2週間の中断があったため、この期間で奇策を作りやすいです。とくに札幌はこれまでも、対横浜に関してシステム変更や守備のやり方を変えてきた過去があるので、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は何かを用意しているかもしれません。それは横浜にも言えることで、お互いに奇策があるかどうかに注目です。

 横浜が奇策をするとすれば、システム部分で2つの案があります。1つ目は中盤で、これまではダブルボランチ、トップ下でやってきましたが、今回は少し形を変えてワンボランチ、ダブルトップ下にするかということ。2つ目は同カードとなったルヴァンカップ・プレーオフ第2戦で採用した、最前線に人を置かず、ダブルトップ下の脇に両ウイングを配置する4-2-4-0のような特殊な形です。奇策があるとすれば後ろではなく、前を変化させる可能性があると予測しています。ただ2つ目の「ゼロトップ」に関しては失敗したと見ているので、可能性は低いですが。

 札幌に関しても、新外国籍選手のミラン・トゥチッチがいたところに荒野を入れて、こちらも0トップのような形を予想しています。ただもちろん、前節はG大阪に5-1と勝利しているので、いつもの3-4-2-1から変えないことも大いに考えられます。しかし今回は、横浜相手にいかに敵陣でボールを奪うかが大事なので、トゥチッチら外国籍選手よりは、守備にも積極的な金子拓郎、小柏剛、荒野の3人がスタートから出場すると予想しました。

 また、横浜の得点の時間帯は後半の最後の30分が多く、逆に札幌はこの時間帯の失点が若干ではありますが多いです。さらに一方で、札幌が一番点を取るのは後半の立ち上がりで、横浜が一番失点をしているのもこの時間帯。後半の立ち上がりと最後の30分の試合展開にも注目です。
 

 横浜は相手がどんなにプレッシャーをかけてこようと繋ぐチーム。そのうえで、札幌との対戦でいつも起きる問題が、相手のマンツーマンディフェンスに対して、どういう逃げ道を作るかということです。

 前節・湘南戦のとくに前半の反省点として、監督が「テンポが上がらなかった」ことを挙げていました。このテンポをどう上げていくかですが、札幌がマンツーマンで守備をしてくるので、いつものように下から繋ぐだけではなく、前線へのロングボールを使うのかが1つ目の注目点でしょう。

 また中盤の3人、喜田拓也、扇原貴宏、マルコス・ジュニオールがいかに前向きでボールを受けられるかも大切。図の状況だと、3人が全員ボール方向に向かっているので、これでは相手のマンツーマン守備もあって、前を向くのが難しいです。そこで、下がって受けたり、外へ出て受けたりして、様々な身体の向きでボールを受けられるようにする。このような工夫をして、自陣からの出口をいかに作るかが、この局面における最大の見どころです。
 
 一方でそれに対して札幌がどう守っていくか。その解決策として、ずっと相手についていくオールコートマンツーマンを採用するのかどうか。非常にリスクもあるように感じますが、自分のマークはこの人と決め切らず、うまくいっていないときにはマークの受け渡しもしながらマンツーマン守備ができていたことがG大阪戦の大勝にもつながりました。

 そのうえで、相手のサイドバックに対してウイングバックが縦にスライドして、空いたウイングに対してセンターバックが横にスライドするといったローテーションと、ここのスピード感を90分間継続できるかが大事になってきます。

 札幌は3試合前の29節・神戸戦(●0-1)でも同じようにマンツーマンで守っていましたが、22分に神戸のGK飯倉大樹が前線へ大きく蹴って、それに反応した武藤嘉紀に左サイドを抜けられてしまい、最後は折り返しを中坂勇哉に決められてしまいました。今回の相手の横浜にも、こうした前線にスピードのある選手がいるので、どこに最終ラインを設定するかなどの対策が必要です。

 横浜は基本的にボールを握りながら、相手のマンツーマンを外していくことを狙いますが、前節の湘南戦ではいち早くウイングにボールを出したいという狙いも感じました。どの試合でも、やはり3トップのスピードや、コンビネーションを高い位置で出したいはずなので、いち早くウイングにパスを出す、あるいは裏へ走らせてウイングのスピードを活かすといったことができるかが見どころです。

 ですが、もちろん相手も対策してきて、縦をふさがれてしまうでしょう。そんなとき、両チームともに同サイドに人数が集まりやすいので、例えば扇原や岩田智輝らの長い正確なボールを蹴ることができる選手たちを後ろに配置して、ロングボールでサイドチェンジすることも1つの有効な手立てだと考えています。そうすることで、相手のマーキングにもズレが生じてくるはずです。

 対して守備の札幌は、試合時間が経過するにつれて、前の3人があまり守りに戻らず、後ろの7人と分断してしまうことがこれまでの試合でも見られました。前の3人も含めて、ずっと相手についていき、コンパクトな守備陣形をキープして、いち早くマイボールにするといったことが90分間できるかカギになるでしょう。
 
 あとは自分たちがしっかりとマーキングをして、相手に裏を取らせないポジション取りができていれば良いのですが、マンツーマンディフェンスは危険なスペースが生まれやすく、リスクもあります。人に対してついていったとき、相手にマークを外されてしまうことも当然あるので、このときのリアクションをどうするかも大切なことです。

 人に対してずっとマークについていても、どんどんスペースが空けられてしまう。ですので、それをやめてボックス付近に人を集めて守ることも以前にやっていたことがあるので、そういった札幌の状況に応じた対策にも注目すると面白いでしょう。

 また横浜は、早いタイミングでクロスを上げてくることも多いので、それに対してもやはり守備でボックス内に人数をかけるのは大事。クロスが上がったときのゴール前での対応として、相手より早くポジションを取れるかなどのスペースの埋め方によって、得点が生まれるか生まれないかを左右しそうです。

 札幌は基本的に自陣での攻撃では、図のように後ろが4枚、真ん中に1人、前線に5枚を並べる形をとることが多いです。ですが、横浜の前線の4人はハイプレッシャーをかけてくるので、最終ラインが4人だと同数となり、一人ひとりにマークがつかれてはビルドアップが難しくなるため、札幌は奇策として、またなにか違った形にしてくる可能性があると予想しています。

 例えば、G大阪戦や広島戦でほんの一瞬だけ見せていた、中盤に1人で残っている駒井善成を下げて、5-0-5のような形にする策。これにより、最終ラインで数的優位を作ることができますし、真ん中に誰もいなくなることで、横浜のボランチは前に出るべきか、ステイするべきか迷うことになります。こうした相手の守備のズレを誘う奇策を用意しているかもしれません。

 では、真ん中が空洞化してしまっていて、札幌はどう攻めるのか。それは外からボールを回して、ウイングバックのスピードを活かして縦を狙う。あるいは前や斜めにロングボールを入れて、そのセカンドボールをセカンドトップの選手らで拾い、サイドに展開して攻め込む方法があります。中盤を使わないという選択を取った際の札幌の攻め方も見どころです。
 
 どんな方法にせよ、この場面で札幌がシステムを可変してくるのは間違いありません。その相手の自陣の攻撃に対し、横浜が中断期間でどれだけ対策を練れているかですが、札幌は奇策の多いチームなので、ビルドアップの仕方を予想するのは難しいです。試合前の十分な対策はもちろん、実際にピッチに立った数分間で察知して、修正できるか。選手たちの対応力、適応力が試されるでしょう。

 その対応力として、1つは相手のロングボールとセカンドボールへの対応がしっかりできるかが重要です。とくにセカンドボールを拾うことができれば、カウンターのチャンスにもなるので、後ろの6人(4バックとダブルボランチ)で守備を固めて、ボールを奪い、ショートカウンターに繋げられるかに注目です。

 相手のロングボールに対しては、センターバックの岩田、チアゴ・マルチンスがいかに空中戦で勝利できるかです。札幌は最近、ロングキックのターゲットをヘディングに強い田中駿汰にしていることが多い。田中のマークはポジション的にはティーラトンですが、体格差的にもティーラトンに任せるということは考えづらく、ここには岩田が対応する可能性が高いです。

 たった1本のロングボールに競り負けてしまって、背後を突かれるのは避けたいので、横浜としては岩田、T・マルチンスの空中戦の勝率を上げたいところでしょう。

 札幌は、福森を起点としてサイドチェンジを狙うことを敵陣での攻撃でもやるでしょう。その両ウイングバックの幅を使った攻撃をするか、もしくは相手がそれにつられてサイドに開いたときに、中央の空いたスペースに縦パスを入れ、セカンドトップやFWの3人のコンビネーション、またそこからの3人目の動きを引き出すことを狙うはず。このワイドか中央のどちらを使うかも見るべきポイントです。

 この局面で横浜の最終ラインは、常に高い位置を取ろうとする傾向があります。そのラインアップを札幌がうまく利用できるかも見どころです。

 小柏や金子らは足もとだけではなく、裏に抜けることもできる選手なので、そういった背後に抜け出るようなボールの供給も札幌の思惑としてあります。そのために、福森がボールを一度下げて、相手のラインをあえて高くさせ、引き付けてから背後を狙ったボールを出す。そういった工夫や、前線の5人の動き方によって札幌の攻撃の狙いが見えてくるでしょう。

 一方、横浜側からすると攻撃時には両ウイングがかなり高い位置を取るので、守備の際に戻り切れず、4バックとダブルボランチしか守備にいないこともよくあります。これでは人数が足りず、札幌にきれいに崩されてしまう心配があるので、前と後ろで分断せず、しっかりと守備陣形が組めるかが大事になってきます。

 また札幌はクロスを上げる際に、ゴール前に4人から5人が入るケースもあるなど、人数をかけてきます。横浜としては4バックでは足りず、ダブルボランチにも下がってもらう必要があります。判断が難しくなるケースとしては、クロスでなく戻したパスの後の反応です。ラインを全員で一斉に上げるとき、どうしても最終ラインとボランチは高さが異なります。でも、ボックス内に人数が多かった場合はそれを見つつ上げないといけない。一方で、ロングボールが蹴れる相手選手たちへのアプローチもいかないといけない。これらの判断スピードを90分間持続できるかも大切です。

 あとは、もちろんどのような先発メンバーでくるかにもよりますが、札幌は空中戦に強い選手も多いですし、福森が復帰したとなれば、横浜にとってはセットプレーが非常に脅威になってきます。流れのなかからのクロスも含めた“高さ”という札幌のアドバンテージに対して、横浜がどう立ち向かうかは必見です。

【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスで、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍している。Twitterやオンラインサロンなどでも活動中。

◇主な来歴
ヴィッセル神戸:分析担当(2014〜15年)
ベガルタ仙台:分析担当(2016年)
横浜F・マリノス:アナリスト(2017年〜20年)

◇主な実績
2017年:天皇杯・準優勝 
2018年:ルヴァンカップ・準優勝 
2019年:J1リーグ優勝

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