長谷部アビスパ、“5年周期”に終止符。J1残留の舞台裏と、さらなる高みを目指す歩み

長谷部アビスパ、“5年周期”に終止符。J1残留の舞台裏と、さらなる高みを目指す歩み

6試合を残してJ1残留を確定させた福岡。ついに“5年周期”に終止符が打たれた。(C)J.LEAGUE



 アビスパ福岡は10月16日、J1リーグ第32節のヴィッセル神戸戦で0-1と惜敗したものの、他会場の結果によりJ1残留が確定。“5年周期”(J1に昇格したシーズンに降格という経験が過去3度。そのサイクルはちょうど5年に一度)に終止符が打たれた。

「勝点50以上、10位以内」を目標に掲げるチームにあっては、ひとつの過程に過ぎないが、それも昨シーズン以来、クラブの歴史とファン、サポーターの記憶に残る試合を積み重ねてきた結果。アビスパはまたひとつ新しい歴史を築いた。

 それはフロント、クラブ職員、強化部、監督、チームスタッフ、そして選手たちが一体となって築いたものだが、とりわけ長谷部茂利監督の手腕によるところは大きい。

「勝利からの逆算」

 長谷部監督のチームマネジメントの基本はこの言葉に集約される。積み上げてきたもので勝利を目指すのではなく、勝利するために何を積み上げなければいけないのか、そのために一人ひとりが何をしなければいけないのかを徹底して問いかける。

 しかし苦手なことを強要するのではない。例えば守備。自分の特長を消して守備に力を割くのではなく、どのように特長を活かせば守備で貢献できるのかを問いかける。ピッチに立つ選手全員が献身的にプレーするのは、そうした結果によるものだ。

 リスペクトという言葉も長谷部監督には良く似合う。選手に対する言葉は常に丁寧語。練習中でもネガティブな声掛けはほとんどなく、「もっとこうしたら上手くいくよ」というようなポジティブなものが多い。また選手の疑問をうやむやにすることもない。

「シゲさんは選手ファーストの監督。質問すればちゃんとした答えが返ってくるし、変なモヤモヤが残らない。試合に出ていないと、どうしても選手はモチベーションが下がってしまったり、練習でもちゃんとやらないと、ということが起こり得るが、アビスパにはそういう選手が全然いない」(宮大樹)

 根底にあるのは、監督、コーチ、チームスタッフ、選手それぞれの関係は上下関係ではなく役割を分担しているという考え方。監督の仕事も役割の一つだと話す。
 
 そうしたマネジメントに加えて、繊細な観察眼と綿密な準備がチームを躍進させた原動力になっている。以前、選手起用について次のように話してくれたことがある。

「向上が見られたら試合で発表するべきだと考えている。けれど、向上しきっているのを待っていたら時間がないので、『向上してきたな』『ここで使ったら成功するぞ』『試合で発表できるぞ』というタイミングで使ってあげたい。ただし、親心だけではなく、勝つために、誰の、何のパワーを使ったらいいのか、どの能力をゲームで披露してもらったらいいのか、そんなふうにいつも考えている」

 そのために、練習中にピッチで何が起きているのか、何をしているのか、どのように考えているか、何ひとつ見逃さない。ずばりと当たる采配は「神采配」と紹介されることもあるが、「雰囲気で何となく使えそうだなということでは起用しない」と話すように、すべてに明確な理由がある。
 

 また綿密な準備という点では次に紹介する宮の言葉に象徴される。

「シゲさんは前日に試合のシチュエーションをイメージしながら、めちゃくちゃノートに書いていて、多分、それをもとに試合前のミーティングをしている。最近は特にシチュエーション通りのゲーム展開になることが多いので、選手もシチュエーション通りになるだろうと思って試合に臨んでいる」

 そしてなにより言動に嘘がない。最たる例が中2日で迎えた第26節の川崎戦だ。常々「うちのチームにはレギュラーはいない」と話すように、選手起用にあたってコンディションや組み合わせを優先させる長谷部監督は、絶対王者の川崎相手に前節から先発メンバー9人を入れ替えた。

 しかもフィールドプレーヤー全員がリーグ戦での出場機会が少ない選手だった。だがチームのパフォーマンスは落ちるどころか、今シーズンのベストゲームの一つとして数えられるプレーを披露。リーグ戦無敗記録を続ける川崎を1-0で破ったことは記憶に新しい。

 試合後、長谷部監督は「試合に出ることが少ない選手でも、いつ出てもいいように準備してくれている。そこは信頼して試合に出てもらう、試合で活躍してもらう、それがアビスパ福岡のやり方」と胸を張った。

 そうした繰り返しの中で生まれた一体感の強さと献身性の高さが、昨年から変わらぬアビスパの最大の強み。過去のどのチームよりも高いレベルにある。「5年周期を終わらせる」というクラブとしての必達の目標から逆算して作り上げられたチーム。シーズン前の下馬評は低かったが、ある意味、当然の結果と言えるのかもしれない。
 
 だが、チームは完成形を見たわけではない。長谷部監督が目指すチームは攻守にわたり主導権を握ってアグレッシブに戦うチーム。守備で主導権を握れる試合は増えたが、攻撃面にはまだまだ課題を残す。さらに言えば、今シーズンの目標は「勝点50以上、10位以内」。そしてクラブはJ1定着をステップ1として捉え、将来は地方都市にありながらJ1の強豪クラブとなって、最終的にはアジアへ出ていくチームを目指している。

 来シーズンは新たな目標から逆算したチーム作りが始まる。そんなチームは福岡の街に何を見せてくれるのか。期待は高まるばかりだ。

取材・文●中倉一志

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