オランダ発!サッカーIQを「見える化」するデジタルソリューション「NeurOlympics」とは?

オランダ発!サッカーIQを「見える化」するデジタルソリューション「NeurOlympics」とは?

オランダのBrainsFirst社が開発した「NeurOlympics(ニューロオリンピックス)」の認知診断テストを行なう育成年代の選手。写真提供:共同通信デジタル



 今、世界のサッカーは様々なテクノロジーで溢れている。それらが我々の知らないところで、サッカーの進化に大きく貢献している。

 将来を見据え、持続的に取り組み続ける必要がある育成面にも、革新的なテクノロジーが出現している。オランダのBrainsFirst社が開発した「NeurOlympics(ニューロオリンピックス)」だ。

 選手の脳を分析し、隠れた能力を見える化することで、欧州では実際に結果を出してきた。そして、このテクノロジーが日本に上陸した。NeurOlympicsとは、いったいいかなるものなのか――。

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 現在、国際サッカー連盟(FIFA)には211の国と地域が加盟している。この数字は、他スポーツはおろか、国際連盟加盟国よりも多いことは有名な話だ。サッカーは、地球上で最も普及しプレーされているスポーツと言える。

 それだけの人気と規模を裏付けるように、サッカーは日々進化している。個々のスキルやテクニックやメンタルはもちろんそのトレーニング法から、チーム戦術、育成、クラブ運営といった組織マネジメントまで。取り巻くすべての分野で新たな方法論が次々と生み出されている。

 一方で、サッカーの進化とは別物だが、まるで呼応するかのように目覚ましい進化を遂げているのがデジタル技術だ。そしてこの両者がかみ合うことで、さらに進化は加速していく。

 たとえばGPS機能。たとえばAI技術。EUROやワールドカップなど大規模な国際大会が開催されるたび、スーパースローやスパイダーカムで斬新な映像を中継できるようになり、選手のトラッキングデータやパスの本数と成功率が即座に表示されるようになった。VARはジャッジにも変革をもたらした。大規模な国際大会でなくとも、Jリーグでは近年、ベルギーのダブルパス社が開発した『フットパス』というシステムで、クラブの育成組織をスコア評価する手法を取り入れている。

 現在、サッカーに活用されるデジタルツールは数え切れないほど存在し、ワールドサッカーの中心地である欧州では様々なアプローチで次々と結果を出している。

 将来サッカー選手として世界に羽ばたきたい夢を抱くサッカー少年少女たちは、いったい何をどう取り組んでいったらいいのだろう。この問題意識に、株式会社共同通信デジタルのスポーツデータ事業部が目を付けたのが、オランダのBrainsFirst社が開発した「NeurOlympics(ニューロオリンピックス)」というデジタルソリューションだ。
 

 よく、スポーツで求められる実力を「心・技・体」という言葉で現す。このうち、スキルやテクニックといった「技」、パワーやスピードといった「体」は目視でそのレベルを確認することが可能だ。

 一方でモチベーションや集中力といったメンタル・思考面を指す「心」は目視で確認しづらい。周囲が選手個々の「心」の側面を正確に把握しづらいのは、常に一定しているわけではなく、時と場合によって、その状態に波があるため、明確な指標を設けづらいからだろう。

 しかし、「体」「技」を活かす前提として、「心」がプレーヤーとしての最も重要な要素であることは誰もが認めるところだ。

 では、このとても重要だが捉えづらい「心」の動きを左右する根幹はどこかというと「脳」だ。

 一般的にサッカーに必要とされる脳の働きを「サッカーIQ」というが、ピッチ上で瞬時の判断や選択、戦術理解など「認知・判断・実行」の能力を指す。これが適切にできる選手ほどパフォーマンスは発揮されやすい。さらに「技」「体」の実力を加味していくことでスペシャルになっていく。

 このサッカーIQをスコアで可視化してくれるのがNeurOlympicsだ。

 もともとはオランダサッカーの育成組織が疑問を持ったことが発端だった。ユース世代では目覚ましい活躍を見せた選手でも、その後プロとしてなかなか大成しない。将来性を正確に見抜く抜本的な基準が欲しい。そう考えて開発されたソフトだった。
 

 これまで“なんとなく”で評価するしかなかったサッカーIQを可視化する。そのことで個々の脳、そして心に宿る強みと弱みを把握し、適切なトレーニングによって成長を促す。

 NeurOlympicsは2013年から2020年に至るまで、主に育成世代の選手を対象として延べ9000回のテストを実施しデータを蓄積してきた。結果、高得点を記録した選手はその後、中間点だった選手に比べ3.5倍、低得点だった選手に比べ9.1倍の市場価値になったという。

 NeurOlympics自体はパソコンまたはタブレットでできる、至って簡単なオンラインでの認知診断テストだ。単純なルールのゲームを4つするだけ。測定時間は約45分。しかし、ゲームは単純といえど、認知神経科学と臨床パフォーマンステストに基づいて、それぞれ「作業記憶」「予測」「制御」「注意」を測る目的で作成されているので、頭がとても疲れる構成になっている。

 テストが終わればすぐに結果が出る。総合スコアは0〜100で表示。0だからといって人より劣っているわけではない。0は「100人いれば100人できるレベル」、逆に100は「100人に1人のレベル」ということになる。

 ここからさらに、サッカーIQをつかさどる9つの重要な項目に細分化され、それぞれのスコアも出される。具体的に示すと「反応の速さ」「行動の早さ」「全体の把握」「内省」「回復力」「繊細な知覚力」「フィルタリング」「先読み」「衝動制御」といった具合だ。より細かな要素まで可視化することで、選手個々の特徴が一目で把握できる仕組みになっているのだ。

 NeurOlympicsを日本にもたらした株式会社共同通信デジタルスポーツデータ事業部の前田祐樹氏は、自身データ分析を専門とした企業で働き、ラグビーやバスケットのチームでアナリストをしてきた経歴の持ち主。数多存在するスポーツテクノロジーにも詳しい。だから、日本の、特に全世界と渡り合うサッカーの育成分野に着目した。

「優秀な選手を育成するにあたり、これまではフィジカルやテクニックで評価されがちでしたが、世界のサッカーの最前線ではIQに着目している事実がまずあります。そして実際に結果を出してきている。日本でも今後、世界で活躍する選手を輩出し、さらに国内リーグのレベルアップを図るには、育成段階から選手の認知・判断・実行の能力も正確に認識していかないと世界との差が開いていってしまう危機感を抱いています。一般に人間の脳が熟成するのは18歳前後と言われています。つまり、サッカーIQを可視化することは将来性を可視化するということ。現実としてスポーツテクノロジーはここまで進化していることを自分事化できるか。これが、今後の日本サッカーの育成分野におけるひとつのポイントになるのではないでしょうか」


 世界には、最先端のデジタルツールで新たな可能性を掘り起こしている現実がある。NeurOlympicsもその一つだ。だが、この大きな可能性を秘めたツールを使いこなすとなると、また別の話になる。せっかく選手のサッカーIQを可視化したとしても、フルに活用できなければ机上の空論、宝の持ち腐れになりかねない。

 じつは、Jリーグのクラブでいち早くNeurOlympicsを試したクラブがある。J2のFC琉球のアカデミー部門だ。アカデミーダイレクター兼U-15監督である石田学氏は率直に感想を語る。
「選手たちには事前に説明していたので、興味をもって取り組んでくれたと思います。結果は、――もちろん選手個々によって印象は異なりますが――意外な結果が多か印象の方が強くて。この認知診断テストのスコアと実際のピッチ上でのプレーとの間にギャップを感じた選手もいました。傾向として座学の方が得意な選手ほどスコアが高く、プレーの方が優れている選手は軒並み低かったんです。初めてのテストに対する慣れの個人差もありますし、1回のテストだけでは数値を鵜?みにできないな、と感じたのが正直なところです」

 パソコンの画面上で行なったテストの結果をそのままピッチ上に当てはめるには、イメージが乖離しすぎているというのは現場の本音だろう。ただ、石田氏は「でも――」と言葉をつなぐ。
「我々のアカデミーでも状況に応じて認知・判断していくスキルは重要視しているキーポイントです。でも、その素質を評価するうえで時にスタッフの主観が入りかねません。そこで客観的かつ効果的に情報が得られるのであれば、育成を進めていくうえで、さらに選手の成長を促す意味でプラスになってくる。そういう点では非常に興味深いです」

“もしきちんと活用できるようになれば”強烈なトレーニングのひとつになることは間違いない

 石田氏自身、育成世代の時はアルゼンチンでプレーし、指導者になってからも中国やドイツで監督やコーチを歴任してきた。だから、世界の中における日本サッカーの特質のようなものを肌で感じ取っている。

「振り返ると、自分が見てきた国の選手はどの年代であろうと、考えていることを言語化して伝え合って議論できる能力がありました。それは国民性や性格を考慮したとしても、サッカー選手として絶対的に必要な素養だと考えています。でないと、たとえフィジカルやテクニックで優れていても、上のレベルへ上がって壁に当たった時に乗り越えていけない。そうならないための頭の整理の仕方やパーソナリティを我々アカデミーのコーチが引き出したり、伸ばしたりしていくのが大きな仕事のひとつと感じています」

 今はまだ、NeurOlympicsは参考にはなっても使いこなせる具体的な方法が見出せない。しかし、将来的に適切な方法論を確立できれば――自分が果たしたい育成指導の強力な後押しになってくれるとも感じている。

「普段のトレーニングだけではカバーしきれない部分へのアプローチや、客観的に自己分析ツールにもなるでしょうし。とかくチーム全体をフォーカスしがちな中、個を輝かせる能力の育成にも役立つでしょう。今は以前と比較しても比べ物にならないくらいテクノロジーが入り込んできています。それを避けるのでなく、今回のように興味があったらまずやってみるべきかと。そこで感じたことを議論してまたチャレンジしていく先に、新しい意見や見識が出てくる。我々も指導の幹はしっかり据えつつ、肉付けや刺激になることはどんどんチャレンジしていきたい。もしきちんと活用できるようになれば、強烈なトレーニングのひとつになることは間違いないと思います」
 

 現場に携わる者として求めるのは、NeurOlympicsの“日本における”具体的な成果だろう。欧州で結果が出ていることは前述したが、それだけでは信じきれない事情がある。

 欧州では、じつに75以上のクラブがアカデミーに年間500万ユーロ(約6億円)を費やしている実情がある。さらに選手一人当たり平均1.5〜3万ユーロ(約190〜370万円)のコストをかけているという計算もある。日本でアカデミーにここまで投資しているクラブはないだろう。

 では、なぜ欧州のクラブはアカデミーに多額の費用を注ぐのかといえば、それは「投資」というビジネス的な認識が常識化しているからだ。

 自分たちのアカデミーからビッグクラブで活躍する選手を育てる。そうすれば、「移籍金」の他に「育成補償金」「連帯貢献金」のリターンも見込める。有名選手を輩出することでブランディングも図れる。

 NeurOlympicsは年間契約で500回のテストで約480万円、250回のテストで約240万円というパッケージだ。所属選手の定期的なテストだけでなく、ユースセレクションでも利用されている。この費用をどうとらえるか。

 これが欧州の場合だと、ROI(投資利益率)を高めてくれるツールとしてお手頃価格に受け取られる。翻って日本の場合だと、アカデミーにかけられる予算は限られているうえ、効果測定も最低2〜3年は待たなければならない。経営状況はクラブによりけりだが、正直足踏みしてしまうのが実情だろう。もしコストをかけるならより、成功する確証がほしいと考えるのも無理はない。

 だが一方で、欧州を中心とする世界では育成世代へどんどん投資し、優秀な選手を育ててスターダムへと押し上げている。好む好まざるにかかわらず、日本のサッカーは否応なく、この世界のサッカーの潮流に組み込まれている。NeurOlympicsを日本に持ち込んだ前田氏が言う「自分事化できるか」というのは、つまりはそういうことだ。

 NeurOlympicsがこれまでの日本の育成に革命を起こすほどの魅力を秘めていることは間違いない。そしてもし、使いこなし結果をもたらすことができたクラブは――先進的な育成メソッドの第一人者になれる。

 おそらく個人レベルで、そして選手レベルで己のサッカーIQ値に興味を抱く人は少なくないはずだ。共同通信デジタルでは、そういった個人のニーズに応える形として、必要な回数だけ提供するなど柔軟に対応していく方針。また、12月中旬頃に欧州での活用事例などを紹介するウェビナーの開催を予定している。

 サッカーIQを可視化する。この能力に気付き、活かし、最初に結果を出す日本人は――いったい誰になるのだろうか。


取材・文●伊藤 亮

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