プロ分析官が見たオマーン戦。劇的に流れを変えた三笘と古橋だが、スタメンではない理由も垣間見えた

プロ分析官が見たオマーン戦。劇的に流れを変えた三笘と古橋だが、スタメンではない理由も垣間見えた

三笘(左)の投入で先手を打つと、オマーンの出方を窺いながら古橋(右)を送り出した。写真:JFA提供



 勝点3が必要な一戦を敵地で戦った日本代表は、オマーンを1-0で下しました。結果としてオーストラリアが中国と引き分けたことで順位も入れ替わり2位に浮上。前節のベトナム戦も含めて、アウェー2連戦で失点しなかったことは間違いなく評価して良いところです。

 また、オマーン戦ではポゼッション率70パーセント、相手に決定機を作らせず、CKすら一本も与えなかった。内容面では「退屈だ」などの批判が出ることも分からないわけではないですが、90分トータルのマネジメント、交代やシステムの変更、采配面など、非常によくできた試合だったと評価できます。

 高いポゼッション率の影響も大きいですが、相手にボールを握らせず、自分たちがボールを奪った時のファーストパス、セカンドパスを簡単に失わず、押し込んだ状態で戦えました。

 前半に長友佑都選手がボールを奪い切れずミドルシュートを許したり、後半も南野拓実選手の落としがズレてしまい、相手の4番の選手にシュートを許すことはありましたが、相手のチャンスも自分たちのミスから。組織として危ない場面を作らせなかったと言えます。

 アウェーで相手のCKゼロを完遂するのはどれだけ大変なことか。もちろん相手とのレベル差はありますが、どんな相手でも、CKを0本、ボックス内のシュートも0というのは、世界を見てもかなり難しいこと。GKの権田修一選手プラス、4バックを中心として裏を取らせない守備ができた証左だと思います。もちろん守備の良さは前線からの追い込み、プレスがあってのことですが、チーム全体としてもアウェーということを考えれば、良い出来だったと思います。

 守備面で前半唯一気になったのは、キレイにボールを通される場面はなかったものの、20分に長友選手が相手に入れ替わられて、真ん中に遠藤航選手しかいなかったという場面です。日本の4-3-3の守備では、アンカーの遠藤選手がどうしてもひとりでカバーしなければならない場面が出てきます。ここのリスクをどう捉えるのかは、今後の課題になるでしょう。
 
 一方で攻撃面の課題は、まず、守田英正選手が累積警告のため不在で、インサイドハーフをどうするか、が一つのポイントでした。オマーン戦では柴崎岳選手を起用し、ベトナム戦では右のインサイドハーフで使っていた田中碧選手を左に変更しました。

 15分のシーンでは、右サイドの選手たちでどう崩すかという好例がありました。南野選手から田中選手へボールが渡って、そこから右に展開します。その際に山根視来選手がタイミングよくオーバーラップしていたのですが、受けた伊東選手は使う直前でアーリークロスを選択しました。

 あるいは38分、遠藤航選手からひとつ飛ばしたパスが伊東選手に入りました。今度は開いた形で受けたので、ひとつ内側のレーンにスルーパスを出します。しかし、インナーラップで中に入っていくような、裏を狙う動きを柴崎選手がしていなかったため、チャンスにはなりませんでした。

 この右サイド3人の関係が、即席で組んでいたということはありますが、上手くいかなかった。森保一監督の誤算もあったのではないかと思います。

 しかし、柴崎選手を右に置くことで当然予測できていたこと。上手くいかなかったときの二の矢、三の矢も用意していたはずです。また、南野選手が違いを生み出すまでには至っていなかったため、得意な中央のゾーンで活かしたい。そんな思惑もあって、三笘薫選手に白羽の矢が立ったのでしょう。

 アンカー脇をプロテクトし守備を盤石にする。攻撃面を活性化させる。そんな攻守両方の思惑から、後半4-2-3-1に変更したのだと思います。
 

 効果としては、田中選手が遠藤選手とダブルボランチを形成し、攻撃時には田中選手が上がってインサイドハーフの役割も担います。同時に南野選手の位置を中央からやや右へ移したことで、川崎フロンターレでやっていた時と同じような感覚でプレーできていたのではないでしょうか。投入された三笘薫選手が左のウイングで高い位置をとり、その後に入ってきた中山雄太選手が、川崎の登里享平選手のように気の利いた立ち位置を取る。そういった攻撃面の循環が上手くできていました。

 さらに後半投入された三笘選手が、開始20秒で縦に仕掛けてファウルをもらいました。彼だけが良かったわけではないですが、南野選手とキャラクターが違う三笘選手の投入で、スピード感が出ました。

 前半は、左サイドで縦に仕掛けるのが長友選手くらいしかいなかったため、三笘選手の登場で両サイドから縦に仕掛けることができて、オマーンとしてはかなり厄介だったでしょう。

 そんな後半の出足で、試合は両チームが対策をしあうという展開になります。

 まずオマーンは55分に遠藤選手にイエローカードが出て試合が止まった直後から4番と8番の立ち位置を変えました。三笘選手への守備の対応をせざるを得なくなったわけです。

 これを受けて日本も62分に選手交代。長友選手を中山選手、南野選手を古橋亨梧選手に代え、システムを4-4-2の2トップ気味に変更します。

 日本はシステムに固執せず変化をつけ、オマーンは布陣を変えずに人の配置を変えて対応してきました。

 この試合で効果が大きかったのは日本で、三笘選手投入から4-2-3-1、4-4-2と変化させるなか、選手間の距離感が前半から比べて非常に良くなりました。

 そんななかで決勝点が生まれます。中山選手が引っかけて、三笘選手から伊東選手へつながりゴールになりました。

 ゴールシーンでは三笘&伊東選手にフォーカスされがちですが、この試合を通して見せていた4バックのリスクヘッジが非常に効いていたからこそ、ゴールに繋がったというのが私の感想です。
 

 見る人にとっては、スピード感の無い試合に感じたのも否めないでしょう。特に、前半のスピード感の無さが良かったのかと言われると難しいところですが、温存とは言えないまでも90分通してのマネジメントができていたと感じました。

 例えばJリーグでは、川崎フロンターレのサッカーをずっと追っている方はイメージがつくかもしれませんが、川崎は最初からガンガン行くチームでもない。時には最初かなりゆっくりと試合に入って、相手の出方を見て、自分たちがどこでスピードアップするか。どこで勝負するかを考えながら戦えるチームです。

 オマーン戦の日本代表は若干、そういう雰囲気がありました。ボールを握った時に全部仕掛けるわけではなく、どうやって相手を引き出して、どこに隙ができるかを冷静にピッチ上で見ていたと思います。事前のスカウティングと、ピッチ上の違いを見て、相手がホームでどれぐらい出てくるのかを探って。

 左右に動かし、縦に仕掛け、前半は山根選手から大迫勇也選手への楔を何度か当てていました。伊東選手がアーリークロスを上げ、長友選手が深くまで抉ってクロスをファーサイドに蹴る、柴崎選手が引いた状態から早いタイミングで上げるなど、攻め方の工夫も見られました。

 強いチームは90分間トータルで試合をコントロールし、圧倒的に攻め続けるというワケではないとも思っています。今回の対戦では、オマーンは何もできなかったという感覚があったかもしれません。一方で前半を終えた時に日本がどう感じていたのかは気になるところですが。

 前回対戦でやられたわずかなミスを避けるため手堅い試合運びから、後半さらにギアを上げて勝ち切る。もちろんスローペースで進んだ前半でも点が取れていればいうことはありませんでしたが、失った後のリスクマネジメントを含めて、アウェーということを考えれば悪い内容でもなかったはずです。
 

 最終予選を一巡して振り返ると、サウジアラビアには負けましたが、自分たちのバックパスを奪われてのもの。オーストラリアにも直接FKでの失点のみです。徹底的に崩されたというわけではないと考えます。守備に関してはアジアのレベルで大崩れするような選手たちではない。オマーンは決して弱くないですが、正直何もさせなかった。これをライバルとなるサウジアラビアやオーストラリアにも発揮していかないといけない。

 ただ、それ以上に今後に向けての課題は間違いなく攻撃面でしょう。

 2次予選のように、相手が弱ければ大量得点も取れましたが、いかに崩していくのか、より機能性を高めた攻撃を構築しなければいけません。ずっと大迫選手に頼り切りになっていた部分もあり、4-3-3を採用したことで余計に真ん中に大迫選手しかいないというケースも出てきています。大迫選手のキープ力に頼りきりのシーンがいくつもあり、ボックス付近の大迫選手の周りを、どう構築し可変していくのか、今後の課題でしょう。

 中盤までの繋ぎは改善した一方で、相手を崩せているかというとそうでもない。皮肉なのは、サウジ戦までの4-2-3-1に変えてからの方がスムースだったことでしょうか。

 やはり、システムは戦略の上にあるもの。4-3-3だろうが4-2-3-1だろうが、どういうコンセプトでゴールを取りに行くのかについては、もっともっと整備する必要があると感じます。
 
 また、この試合で流れを大きく変えた三笘選手や古橋選手の貢献が語られがちですが、彼らが出たから結果が出たとは一概に言えない面もあります。後半の守備では穴もありました。

 この試合唯一のセットプレーを与えてしまった85分のシーンは古橋選手のファウルですし、三笘選手が戻り切れなくて後ろを使われてしまった場面もあります。

 攻撃面を考えれば良い選手たちなのですが、守備を考えた時に、どれだけコンセプトに忠実にできていたのかというと、彼らが先発ではない理由と言うと大それた言い方ですが、彼らの伸びしろでもあると思います。

 三笘選手がスピード感を生み出したのは間違いないですが、ドリブル成功数はそこまで高くない。相手に対応され、ロストする場面もありました。古橋選手も裏を狙った動き出しは質の高さを感じますが、同時にオフサイドも取られています。攻撃で仕掛ける一方で、奪われた際にはチームとして守備もしなければならなくなる。出場機会を勝ち取るだけの個人能力の高さは感じますが、チームとしてそれが生かし切れているか。

 そういうさじ加減は監督の判断です。試合やトレーニングの断片的なものしか見ていない我々と、ずっと一緒にいる人たちが見ているのでは、情報量が全く違います。誰かを使うということは誰かが外れるという事でもあり、新しい選手を使ったのに勝てなければさらに批判も出ます。実際の現場は分かりませんが、長く近くで見てきている森保監督の判断に委ねている部分はあると思います。

 もちろん、今の先発メンバーでずっと行きましょうという提案をしているわけではなく、やはり新しいメンバーが馴染むには時間はかかるというのが感想です。
 

 中山選手も同様ですね。サイドバックはウイングとの相性も間違いなく必要で、特に近年の日本代表では、東京五輪も含めて左ウイングのポジションが流動的です。

 彼の個人能力だけを見れば、左利きで、長短のパスも出せる。サイズもあって、フィジカル的な強さ、ユーティリティー性もあるので、周囲との連係を高められればレギュラー争いに食い込んでいく可能性も十分です。

 そういう意味でも、次の1月末から2月にかけて行なわれるホーム2連戦は注目です。時期的に国内組のコンディション問題が浮上するからです。

 Jリーグのシーズンが終わり、通常ならば新シーズン前のキャンプを実施する期間。公式戦がないなかではコンディションを維持することがベースとなるでしょう。

 オマーン戦で出場していた国内組はGKの権田選手、左右のSB、長友選手と山根選手、最前線の大迫選手の4人です。

 海外組が同様の時期に当たる9月のシリーズではコンディション不良に苦しんでいたことも踏まえれば、このタイミングで選手の入れ替えをするという可能性もありそうです。

 ずっとやっているメンバーだから強みもあるが、マンネリ化するデメリットもある。変えることによる新鮮さがある一方で、連係が整わないデメリットもある。それぞれのコンディションを見ながら森保監督がどんな決断をするのか、注目したいと思います。
 

【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献した。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍中。

◇主な来歴
ヴィッセル神戸:分析担当(2014〜15年)
ベガルタ仙台:分析担当(2016年)
横浜F・マリノス:アナリスト(2017年〜20年)

◇主な実績
2017年:天皇杯・準優勝
2018年:ルヴァンカップ・準優勝
2019年:J1リーグ優勝

【W杯アジア最終予選PHOTO】オマーン0-1日本|期待の三笘の突破から伊東が決勝点!貴重な勝利を手にし、豪州をかわして2位浮上!

【PHOTO】敵地・オマーンで日本代表を応援するサポーターを特集!
 

関連記事(外部サイト)