Jクラブ初の挑戦。川崎がベトナムでサッカースクールを開校させた理由

Jクラブ初の挑戦。川崎がベトナムでサッカースクールを開校させた理由

ベトナムでJクラブ初のサッカースクールを開校させた川崎。新たなプロジェクトをスタートさせた。写真提供:川崎フロンターレ




 2021年も圧倒的な成績でJ1を制し、連覇を果たした川崎。王者としてJリーグを引っ張るクラブは先日、海を越えた場所で新たなプロジェクトをスタートさせた。

 12月6日、ベトナムでJクラブ初のサッカースクールを開校させたのである。

 川崎は元々、現地クラブや人々と交流を深めてきた。2013年に「東急ビンズンガーデンシティカップ2013」でトップチームがビンズンFCと対戦(1-1のドロー)して以降、翌2014年にはサッカークリニックを現地で開催。同年から17年まで川崎U-13はベトナムに遠征し、さらに2018年から2020年には川崎U-13を含め日本からも数チームが参加した「ベトナム日本国際ユースカップ U-13」の企画、運営なども行なってきた。

 そのほかにも2015年から19年の国際交流基金アジアセンターサッカー交流事業(現地クラブへの指導者の短期派遣、日本への招聘など)や、2017年から19年のダナン越日文化交流フェスティバル(サッカークリニック、国際ユースカップへの川崎U-12の出場)、2018年から20年の児童養護施設への訪問(ベトナムダナン市・ビンズン省)など活動は多岐に渡る。


「これまでフロンターレとして現地で多くの活動をさせていただき、次の事業をと考えた時にスクールをやってみようという話になったんです」

 そう語るのは海外事業推進プロジェクトを担当する池田圭吾氏である。池田氏は前述した「ベトナム日本国際ユースカップ U-13」の開催などにも尽力し、今回のサッカースクール開校を進めてきた。

 プロジェクトが本格的にスタートしたのは2020年の秋頃だという。そこから約1年で実現に漕ぎつけたが、本来の開校は今年9月を予定していた。もっとも舞台となるベトナム最大の商業都市ホーチミン市の隣に位置するビンズン省は、新型コロナウイルスの感染拡大によって今年7月半ばから2か月ほどロックダウン。そのために3か月後ろ倒しにした12月に開校する運びとなったのだ。

 それでもこれだけスピーディに事が運んだのは、クラブとしてベトナムでの活動の積み重ねがあったからこそで、今年5月に基本協定を締結した東急株式会社の子会社であり、ビンズン新都市の開発を行なうBECAMEX TOKYU CO.,LTD.(ベカメックス東急)のサポートがあったからこそである。

 現地で理想的な街作りを目指すベカメックス東急とは、ベトナムでのサッカーの普及、質の高い選手の育成、サッカーを通じた地域貢献、ビンズン新都市の未来を担う子どもたちの成長を支える場を提供するという目的を共有。タッグを組んでいる。

 さらに現地チームのベガメックス・ビンズンFCとも協力関係にある。同チームはアカデミー組織は有しているが、スクール活動は行なっていない。そのため両者の動きが重なることもなく、川崎のスクールで発掘した人材をベガメックス・ビンズンFCのアカデミーへ輩出する流れも今後、築けるかもしれない。
 


 では、川崎としては、なぜベトナムでの新事業に乗り出したのか。それは現地での高いサッカー熱を鑑みて新たな海外市場を開くためであり、クラブとして培ってきたノウハウをより広く伝えるためでもある。改めて池田氏も説明する。

「サッカー熱の高さ、経済的な発展の可能性などを総合的に考え、フロンターレとしてもベトナムで事業を本格的にやっていこうと機運が高まったのがここ2、3年でした。ただフロンターレの名前はまだベトナムの方々に広く知られていません。それだけにビジネスとして成功していくのはもちろんですが、まずはベトナムの方々にフロンターレを知ってもらう認知拡大から始めています。個人的な想いとしては、将来、スクール生からフロンターレのアカデミーやトップチームに選手を輩出する。ベトナム代表で活躍する選手を輩出できば嬉しいですね」

 Jリーグを観戦する文化はまだ根付いていないというベトナムだが、プレミアリーグなど海外リーグの視聴率は高く、サッカー人気は目を見張るものがある。現に2019年のアジアカップやカタール・ワールドカップのアジア最終予選でベトナムと対戦した日本としては、サポーターの熱狂ぶりを目の当たりにしている。今回のグラスルーツの活動や、ACLでの成績、懸け橋となる選手の登場などをキッカケに、ベトナムでの川崎人気を高められるチャンスは眠っていると言えそうだ。

 スクールの活動には日本から西亮太氏と吉田健太郎氏のふたりのコーチを派遣。現地の通訳兼コーチのふたりとともに、5歳から12歳の人材の指導に当たっている。コーチのふたりは現地の言葉を覚えながら、試行錯誤して日々子どもたちと接しているという。

 募集人数の目標は1年目で100人、そして2年目で200人。少しずつ活動の幅を広げ、事業として軌道に乗せることが、直近のテーマになるだろう。

 近年では三笘薫や田中碧ら有能なタレントを生み出してきた川崎の育成術はJリーグトップレベルと言える。そのノウハウを生かし、ベトナムでどんな選手が育つかは実に興味深い。今後は状況を見ながら川崎のアカデミー生と現地の生徒の触れ合いも予定しており、国際交流を通じて両者ともに貴重な経験を得られるだろう。

 さらに現地では人材育成だけでなく、サッカーを通じた地域発展につなげたいとの想いも強い。ベカメックス東急と協力し、サッカーを中心とした理想的な街づくりの実現も大きなテーマになってきそうだ。それはかつて川崎がコツコツと歩んできた道のりでもある。その再現を異国で、できるとなれば、サッカーで笑顔を届けるというクラブの指針をよりグローバルに表現できる機会となり、新たなビジネスにもつながるだろう。

 ベトナムの地でクラブとして得られる経験値、財産は多分にあるはずで、地域の盛り上げ方など還元できるものもあるに違いない。国内にとどまらないこうした“開拓精神”は川崎をさらに上のステージへ押し上げるのかもしれない。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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