中国最大の体育大会で全国優勝!成果を見せ始めた「岡田メソッド」、YouTubeコンテンツ化に踏み切った岡田武史氏の想いに迫る!

中国最大の体育大会で全国優勝!成果を見せ始めた「岡田メソッド」、YouTubeコンテンツ化に踏み切った岡田武史氏の想いに迫る!

FC今治のオーナーを務める岡田氏。今回岡田メソッドをYouTubeコンテンツにした想いや意図を語った。(C) FC.IMABARI



――2019年12月に書籍として出版された『岡田メソッド』(英治出版)が、昨年12月からYouTubeのコンテンツ『岡田メソッドTV』として展開されるようになりました。「岡田メソッド」という呼び方はキャッチーで、スッと入ってくる印象です。そもそも、どういういきさつでこの名前に落ち着いたのですか?

「出発点は、主体的にプレーする自立した選手を育てなければ、日本はワールドカップでベスト8以上に行けないという危機意識でした。そういう選手を育てるためにプレーモデル、プレーの原則集を作ろうとなったとき、僕の知り合いが『バイオリンのスズキ・メソード(※)のようなものですね』と言ったんです。それで、『なるほど、そうかもしれんね。じゃあ、こちらは岡田メソッドだ』と。あまり深く考えずに決めた気がします(笑)」

(※20世紀の音楽家・鈴木鎮一によって確立され、世界に広まった音楽指導法)
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――始まりは2014年、当時、FCバルセロナのアカデミーでメソッド部長を務めていたジョアン・ビラ氏との出会いだったそうですね。

「ブラジル・ワールドカップが終った後でした。僕はザッケローニの日本代表は、ものすごく強いチームだと思っていたんです。彼と友だちだということを抜きにしてもね。

 ところが初戦のコートジボワール戦で1-2と逆転負けすると、ガタガタッと崩れてしまった。Jリーグができて、外国から指導者もやってきて、選手の判断も重視されるようになりました。それなのに、日本を代表する選手たちですら土壇場になると崩れてしまう。

 なぜなんだろうといろいろ思っていたときに、日本サッカー協会から『ジョアン・ビラという人物が来日していて、岡田さんに会いたがっている』と連絡が入ったんです。会ってみると、やたら理論の話ばかりする。最初はピンと来ませんでした。しかし彼が『スペインにはプレーモデル、プレーの原則があって、16 歳までに落とし込んで、後は自由にプレーさせる』と言ったのを聞いて、がぜん興味がわいてきました。

 日本は逆だったんですよ。選手に判断させなきゃいけないから、子どものうちは教えすぎるな、と。高校生くらいから、ようやく戦術という形で対応策を教えることになる。

 もしかすると、ここが大きな違いなんじゃないかと考えたんですね。日本もプレーモデル、原則を16歳くらいまでに落とし込み、その後は自由にさせるやり方をしたら、主体的にプレーする自立した選手が出てくるんじゃないか。そう、思い始めたわけです。

 思い始めたら、どうしてもやってみたくなった。いろいろなところで言っているうちに、複数のJクラブから『岡田さんに全権を任せるから』と言ってもらえたんです。

 しかし、やるからにはすでに出来上がっている育成組織、指導体制を、一度まっさらにしなければなりません。それは、これまでやってきたことを否定することでもある。そういうネガティブなことにエネルギーを費やすくらいなら、10年かかってもいいから一から作りたいと考えていました。

 ちょうどそんなとき、早稲田大学時代の先輩に『面白い。うちでやってみろ』と紹介されたのが、先輩が持っておられた当時は四国リーグアのマチュア・チーム、FC今治だったんです。『ただし、株式の51パーセントを取得しろ』ということで、気がつけばオーナーになっていました。

 当初は1年で作る予定だった岡田メソッドですが、結局、4年かかりました。ジョアン・ビラをアドバイザーに迎え入れ、1年でいったんはそれなりのものができたんですが、結局はバルサのコピーでしかなくて。それで壊しては作り直し、また壊しては作り直し…という作業を繰り返して、ようやくできたんです。

 ただ、すばらしいものができたというより、作ったけれど、やってみないと分からないぞ、というのが正直なところでした。それでもFC今治、提携している中国の杭州緑城で岡田メソッドを使い始めると、効果が出始めたんですね。『これは行けそうだ』となったとき、『知的財産としてキープするためにも、本にして出版した方がいいですよ』とアドバイスされて、2019年に書籍化したんです」

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――それから2年後の昨年12月、YouTubeの『岡田メソッドTV』が開設されました。これによって、より広く、オープンに触れられるようになったわけです。

「書籍を出版したときの反響も大きかったのですが、僕たちは原則をマスターするための年代別のトレーニング方法も作っているんです。それも知りたいという声をたくさんいただいて」
 
――書籍には、具体的なトレーニング方法までは詳しくは含まれていませんからね。

「最初はサブスクリプション的に、有料の会員制でやろうかという話も出ました。でも、もともと日本のサッカーを強くする目的でやっているのだから、ここは一度、オープンにしていいんじゃないかということで、トレーニング方法を含めてYouTubeを始めたんです。いろいろな人の声を取り込みながらブラッシュアップしていくことで、より良いものになれば、それでいいじゃないか、と」

――『岡田メソッドTV』は5分から10分くらいの動画を週に1〜2本更新し、およそ100回を想定されています。

「やり始めて実感したのですが、YouTubeだと15分くらいの動画はちょっと長いんですよね。そうなると、練習メニューまで含めると100回では終わりそうにない。150回を超えるんじゃないかな。

 戦術的な部分に踏み込む専門原則の練習メニューまでとなると、あまりにもわれわれの核心部分になってしまうので、そこは出せないです。それでも、一般原則の練習メニューを5分くらいにまとめるだけでも回数は増えるでしょう」

――FC今治トップチームの橋川和晃監督が進行役を務めるところも『岡田メソッドTV』の特徴です。橋川監督は昨年9月、布啓一郎前監督の後任としてトップチームの監督に就任しましたが、それまではアカデミーメソッドグループ長でした。16歳までにプレーモデルを落とし込み、自立した選手を育てたい岡田メソッドについて、クラブの中で最も精通した中心人物だったわけです。

「これまでトップチームは外部から監督を呼んできましたが、去年、1年に2回監督を変えるという荒業をやった(5月にリュイス・プラナグマ監督に代わり布監督が就任、9月に布監督に代わり橋川監督が就任)。『そんなことをするのは、ヴィッセルの三木谷浩史会長か岡田くらいだ』と言われますよ。

 なぜ、それをやったかというと、監督が新たに来るたびに違う考えでやっていると、何も積み上げられないし、残っていかないんだということに改めて気づいたからなんです。監督には、それぞれポリシーや考え方があります。僕も簡単には口を挟めないところがある。

 そうこうするうちに、岡田メソッドは大人にも効果がありそうだというエビデンスが、中国でも出始めたんです。だったら育成を含め、岡田メソッドを知っているコーチの集団指導体制にしてみてはどうだろうと考えた。育成の監督がトップの監督になり、トップの監督が育成の監督になる。僕も仲間のひとりとして議論に参加できます。そういうことができるのは、日本で唯一、うちだけじゃないかな。

 それで去年、2度目の監督交代のときに橋川を監督にしたところ、成績が上向いたのもありますが、何より内容が劇的に良くなった。サポーターのみなさんにも『試合が面白くなった』と言っていただいたし、順位も下なのに来場者も増えました(昨季の今治の最終順位は15チーム中11位)。

 じゃあ、新シーズンもこの体制で行こう、と。それで今シーズンも、橋川が引き続きトップチームの監督を務めることになりました。

 今、選手たちは頭の中が大変だと思いますよ。ミーティングでもトレーニングでも、岡田メソッドを徹底的にたたき込まれているから(笑)」
 

――集団指導体制は、どういうものなのですか?

「例えば試合のハーフタイム中、ロッカールームの議論に僕も育成のコーチも加わるようになったんです。

 今、どこに問題があるんだろう? キャスティング(自陣から、安定したボール保持の状態で、相手陣にボールを運ぶ段階)なのか、ウェービング(人とボールが動いて、相手の守備組織を揺さぶり、ゴールに向かって進入するコースを作る段階)なのか。キャスティングが問題だよね。じゃあ、何で問題なんだ? 第1エリア(直接ボールに関与するエリア)に人がいないじゃん。あ、そうか、と。

 それで戦い方を修正したら、後半状況がガラッと変わって優勢になる。そういうことが起こり始めました。

 キャスティングやウェービング、第1エリアというのは岡田メソッドの用語です。ある意味、それまでは監督1人の頭脳に頼っていましたが、岡田メソッドという同じベースを持った者で知の共有ができるようになったわけです。やはり、それはとても大きいですね」
 
――中国で表れ始めた岡田メソッドの効果というのは?

「現在、今治から杭州緑城のアカデミーに9人のコーチを派遣しています。岡田メソッドという一つの基準があって、それに沿ってみんなで議論することで知の共有がこれほど進み、成長するのだというのを実感しているところです。

 去年、中華人民共和国全国運動会で、杭州緑城のU-20チームが全国優勝したんですよ。これは4年に1回開催される中国で最大の総合体育大会で、省単位で競われるとても重要なものなんです。なぜならその成績によって、共産党内での各省の体育局の出世が決まってくるから。だから、ものすごいプレッシャーだし、注目を集めるんですね。

 浙江省には杭州緑城しかサッカークラブがないので、U-20チームが省を代表して出場したのですが、岡田メソッドをずっと積み上げて全国優勝を果たしたということで、大評判になりました」

――岡田メソッドを導入して、どのくらいになるのでしょう?

「8年です。12歳のときから導入した彼らが、去年ようやく20歳になった。杭州緑城における岡田メソッドの一期生ですね。それ以外にも二つの学年で全国優勝して、こんなふうに地道に続けているチームは中国にないですから、ものすごく評判になった。

 いくつかの中国のプロクラブから、『自分たちも取り入れたい』とオファーが来たのですが、杭州緑城と独占契約しているので、他のクラブとはできないんですよ。他に中国サッカー協会、中国の体育連盟からも話が来ています。こちらは独占契約に引っ掛からないので、どちらか一つは今年やろうと思っています。ビジネスとして広げていくためにも」
 
――コロナ禍の状況でなければ、岡田メソッドを学びたいというコーチが海外から集まってくることも起こり得ますね。

「ただ、僕らは岡田メソッドをライセンス化して、勉強会をするようなところまでは考えていなくて。それではまるで日本サッカー協会のライセンスに対抗しているようだし。そんなことをしていいのだろうか、大したものではないのに、という話をみんなでしています。

 僕が日本サッカー協会にいたときそうだったのですが、メソッド的なものを作りたいという思いは、多くの人が持っていたんです。しかし、協会の技術委員会はいろいろな考え方の人たちが集まっているから、どうしてもコンセンサスをまとめる形になる。そうなると、当たり障りのないものになってしまうこともあるわけです。

 でもうちのクラブでは、僕が『こうだ』と決めたらそれに決まるので、とがったものができる。いろいろなクラブが、それぞれにとがったものを作って、個性のある選手が出てくる。そういうのがいいんじゃないかと僕は思うんです。

 僕たちだけがすばらしいだなんて、そんなことは全然、思っていないんですよ。だから、僕らがオフィシャルのコーチングスクールのようなものをやるのは、何か違うんじゃないかという気がします。だけど、学びたいという人には教えてあげようよ、という。そういう議論の中から出てきたもののひとつが、YouTubeの『岡田メソッドTV』なんです」

取材・文●大中祐二(フリーライター)
 

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