【喜熨斗勝史の欧州戦記|第11回】“日本らしさ”とは? 考えさせられたFIFAからの言葉「スタイルを持ち続けているのか」

【喜熨斗勝史の欧州戦記|第11回】“日本らしさ”とは? 考えさせられたFIFAからの言葉「スタイルを持ち続けているのか」

日本代表は3月24日にオーストラリア代表と対戦。勝てばワールドカップ出場が決まる。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)



 セルビア代表のドラガン・ストイコビッチ監督を右腕として支える日本人コーチがいる。“ピクシー”と名古屋でも共闘し、2010年のリーグ優勝に貢献した喜熨斗勝史だ。

 そんな喜熨斗氏がヨーロッパのトップレベルで感じたすべてを明かす連載「喜熨斗勝史の欧州戦記」。第11回は、FIFA主催の『タレントディベロップメントスキーム』会議について語ってもらった。
 
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 いよいよJリーグが始まりました。その前の1月下旬には、日本代表が中国とサウジアラビアに勝利して7大会連続のワールドカップ出場に王手。セルビアの知人にも「カタールで友達に会えそうだな」と言われましたが、次の敵地オーストラリア戦で勝利して決めてくれることを願っています。

 オーストラリア代表が日本代表をどう見ているのかは分かりません。ただ、構図としては我々セルビア代表とポルトガル代表に似ているのかな、とも思います。昨年11月、我々は欧州予選の最終節でポルトガルと敵地で対戦しました。試合前の状況は同勝点ながら得失点差でポルトガルが首位。私たちは勝たないとワールドカップ出場はできませんでした。

 日本代表は現在勝点18で2位。オーストラリア代表は同15で3位。残り2試合で、つまりオーストラリア代表は欧州予選最終節前のセルビア代表と同様に絶対に勝たないといけない。追うほうがフォーカスしやすく、覚悟も固めやすい。「失うものがない」と思えるチームは強いのです。

 ただ、日本代表はサウジアラビア戦で素晴らしい戦いを見せたので、それを続けていってもらえればとは思います。

 私自身の話に戻せば、1月27日から2月6日までの短期間でセルビアに行っていました。就労ビザの延長やその他手続きのためでしたが、セルビアサッカー協会からの派遣でFIFA主催の『タレントディベロップメントスキーム』という会議にも参加させてもらいました。

 その名の通り「育成」「教育」についての会議です。FIFAが各国に様々な方面(例えば施設、心理的サポートの有無、育成年代の選手の継続的なデータ採取など)のアンケートを取って、それをアナライズ(分析)した結果報告です。他国と比べながらそれぞれの国が抱える改善点や継続点を浮き彫りにしてサッカーのレベルを世界全体で上げていこうというもので、実に有意義な時間を過ごすことができました。
 FIFAの方に言われたのが「セルビアはスタイルを持ち続けているのか」ということでした。オランダの育成理論『ダッチビジョン』は有名ですが、ベルギーもトップチーム以外は4-3-3、そしてゾーンシステムを採用している、と例を出して説明してくれました。

 ベルギーにはトライアングルの作り方や動き方、ポジションの取り方、そして各年代で何を習熟させるか、どこに注意するかということが細かく明記されている文書があるというのです。「セルビアも作っていかないといけない」と言われたのは胸に響きました。

 その意味で日本はどうなのだろうか、とも考えました。よく“日本らしさ”という言葉を耳にしますが“らしさ”とは何なのだろうか、と。

 日本はJグリーン堺や夢フィールドなど施設が充実しています。人口もセルビアよりも断然多く、その分、サッカー人口も多いです。

 ただ、まだ明文化できるだけの自分たちのスタイルを確立はできていないのではないでしょうか。サッカー人口が多いということは、逆に言えばひとつにまとめあげるのが難しくなることと理解していますが、今後、日本サッカー界全体で見つけていくことがサッカー文化浸透の促進につながると思います。
 
 そしてFIFAの方も仰っていましたが、やはり育成年代の選手の成長を促すのは「厳しい環境に身を置くこと」。ミスター(ドラガン・ストイコビッチ監督)も「若手には苦労をさせないといけない」と口にしていますが、ミスターの現役時代は旧ユーゴスラビア代表で現在の7か国が22人(当時)の枠を争う時代でした。旧ユーゴスラビアが強かったというのは、熾烈な争いがあったことも一因でしょう。

 現在は世界中がコロナ禍で、島国の日本は育成年代の海外遠征も少なくっています。決して海外がすべてではないですが、日本にいながらでも視線や意識はより厳しい世界へ向けていく必要性も改めて感じました。

 最後にセルビア代表の話ですが、3月にはハンガリーとデンマークとの親善試合を行なう予定です。6月に開幕するネーションズカップ、そして11月のカタール・ワールドカップに向けてトップ選手と若手の融合を測る絶好の機会です。日本代表がオーストラリアに勝利してワールドカップ出場を決めてくれると信じつつ、我々も11月への準備を進めていきます。

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PROFILE
喜熨斗勝史
きのし・かつひと/1964年10月6日生まれ、東京都出身。日本体育大卒業後に教員を経て、東京大学大学院に入学した勤勉家。プロキャリアはないが関東社会人リーグでプレーした経験がある。東京都高体連の地区選抜のコーチや監督を歴任したのち、1995年にベルマーレ平塚でプロの指導者キャリアをスタート。その後は様々なクラブでコーチやフィジカルコーチを歴任し、2004年からは三浦知良とパーソナルトレーナー契約を結んだ。08年に名古屋のフィジカルコーチに就任。ストイコビッチ監督の右腕として10年にはクラブ初のリーグ優勝に貢献した。その後は“ピクシー”が広州富力(中国)の指揮官に就任した15年夏には、ヘッドコーチとして入閣するなど、計11年半ほどストイコビッチ監督を支え続けている。
指導歴
95年6月〜96年:平塚ユースフィジカルコーチ
97年〜99年:平塚フィジカルコーチ
99年〜02年:C大阪フィジカルコーチ
02年:浦和フィジカルコーチ
03年:大宮フィジカルコーチ
04年:尚美学園大ヘッドコーチ/東京YMCA社会体育保育専門学校監督/三浦知良パーソナルコーチ
05年:横浜FCコーチ
06年〜08年:横浜FCフィジカルコーチ(チーフフィジカルディレクター)
08年〜14年:名古屋フィジカルコーチ
14年〜15年8月:名古屋コーチ
15年8月〜:広州富力トップチームコーチ兼ユースアカデミーテクニカルディレクター
19年11月〜12月:広州富力トップチーム監督代行
21年3月〜: セルビア代表コンディショニングコーチ

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