【アナリスト戦術記】柏レイソルの下馬評を覆す要因となった守備戦術。「見る」ではなく「奪いに行く」優位性

【アナリスト戦術記】柏レイソルの下馬評を覆す要因となった守備戦術。「見る」ではなく「奪いに行く」優位性

11試合を消化し、勝点19で3位の柏。直近の広島戦は先制を許す展開も、2−1の逆転勝利を収めた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)



 サッカーの奥深き世界を堪能するうえで、「戦術」は重要なカギとなりえる。確かな分析眼を持つプロアナリスト・杉崎健氏の戦術記。初回となる本稿では、柏レイソルの守備戦術をディープに掘り下げる。

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 毎年恒例となっている開幕前の順位予想。今季のJ1リーグは「ストップ・ザ・川崎フロンターレ」となると誰もが予想し、その対抗馬として、昨年のリーグ戦で上位となった横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸、鹿島アントラーズらが軒並みそれぞれの有識者の予想覧で上位を陣取った。

 ところが、その内の神戸だけが、10試合を行なっていまだ1勝もできず、最下位に沈んでいる。これは予想しづらい展開だが、それもサッカーであり、強いチームや有名な選手が多く揃っているからといって必ず上位にくるわけでもない。

 1試合1試合の積み重ねが順位表に表われるが、その都度、どれだけ準備し、挑み、修正できるかである。このサイクルが循環しなければ、世界的に有名な選手を擁していても結果は出ない酷な世界だ。

 一方で、軒並み「下位予想」となったチームもあった。それは昨年の結果に加え、選手の移籍等を踏まえて考察されたはずで、どの有識者もおおむね似たような予想をしていた。ただ、上位予想が最下位になることもあるように、下位予想を覆すチームもある。

 何を隠そう、私も柏レイソルを下位に予想していたので、ファン・サポーター含む関係者に謝罪しなければならない1人だ。

 毎年、この手の驚きは起こる。昨年で言えば、7位フィニッシュとなったサガン鳥栖や、8位となったアビスパ福岡がその例として挙げられるだろう。もちろん両チームのサポーターたちは、はじめから上位予想していたはずだが、あくまで相対的な意見の範疇だ。

 いずれにしても、この両チームの戦績は素晴らしく、今季も期待するサッカーファンは増えたはずである。
 
 さて今回のコラムで対象とするのは、現状、その予想を覆そうとしている柏レイソル。執筆段階では11試合を行なって6勝1分4敗となっており、勝点は19で3位に位置している。特筆すべきはその守備力。試合数にばらつきがあるものの、9節終了時点での6失点はリーグで3番目に少なかった。10節の鳥栖に4失点を喫し、11節ではセットプレーから1失点を喫したため現在は失点数が増えたものの、それまでは堅守が売りになっていた。

 では、彼らの守備はいかにして構築されているのか。柏の守備戦術に特化して紐解いてみようと思う。

 彼らの守備陣形の基本は、1−5−3−2か1−5−2−3。ウイングバックが下がって5バックになるのは共通としながら、中盤や前線では、相手の特長に合わせて若干の変化がある。右サイドを任されることが多いマテウス・サヴィオが下がれば3センターハーフ化するし、その際は左の小屋松知哉が前に出て2トップ化する。M・サヴィオが上がれば3トップ化されてドッジと戸嶋祥郎の2ボランチ化となるなど、この中盤は形にこだわりすぎず相手の前進をけん制しているように見える。

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 特に敵陣での守備では、左の小屋松が前に出て2トップ化して相手のセンターバックへのマークとコースを切りながら、細谷真大と連係して限定しようとする。ここに3センターが次を予測し、さらにはウイングバックや3バックが全員前向きでインターセプトを狙う。

 この後方の5人がキーで、前線だけで行かせないよう非常にアグレッシブに奪いに行くのが特長だ。柏の守備戦術をひも解くうえで、「奪う守備」は1つのテーマであるように感じる。チームによっては、行き過ぎて間や後方を空けるのを避けるため「見る守備」をする場合もあるが、柏は比較的そうではなく、奪いに行くことが多い。

 5バックで後方を固めてリトリートするのではなく、ラインの設定もハーフウェーラインから10〜15メートル前後でコントロールしているシーンが多く見られ、引きこもりすぎるわけではない。

 例えば、前線の5枚でけん制しながら圧力を強めていくなかで、どうしてもサイドに出るのが遅れるケースがある。そこには必ずウイングバックが出て引っ掛けるのを狙ったり、時にそれを飛ばされて中央を使われても、3バックの中央の高橋祐治が出て対応したりするなど、全員の前への意識が強い。自陣に移される前に回収できるのはストロングと言えるだろう。

 あるいは敵陣で「攻撃」をしている時、当然ながら失った後のトランジションでひっくり返される可能性もあるわけだが、この時のリスクマネジメントで力を発揮する選手が多いのも特長か。3バックに加えてアンカーやボランチを務めることが多いドッジは典型で、遅らせる意味のディレイではなく、回収しきってしまうケースも多く見受けられる。

 まずはこの敵陣での守備がストロングだが、もちろん今後は、これらを逆手に取るチームが出てきたり、上記の選手が日程や怪我の影響で不在の試合も出てくるだろう。そうなるとまた違った側面が見られるはずだ。
 
 少し目線を落とし、自陣での守備の戦術面を見ると、前に奪いに出るのは変わらずも、やはりその反動で裏を狙われるケースが出てくる。その際に5バックがスライドとカバーの意識が強いため、かわされたり相手のスルーパスに対して修正することが多い。

 この質が高く、相手からすれば2トップ、3センターを外せてもウイングバックが出てきたり、その背後をカバーされたりと、要は最終ラインの背後まで到達するのが困難となるのだ。

 特にサイドの守備の圧力は、ネルシーニョ監督が現役時代にサイドバックだったこともあり、洗練されているように感じる。ウイングバックは前に出るのか、ステイか、出るなら後ろはどうカバーするかなど。

 鳥栖戦を除けば大崩れしていないのは、こうしたディテールの落とし込みだと推測できるが、同じ方法で乗り切れるほどJリーグは甘くない。それは過去の監督の実績も含めて理解しているはずなので、今後の変化にも注目したい。

【PHOTO】敵地・エディオンスタジアムに集結した柏レイソルサポーター!
 

 さらに言えば、最後の砦である韓国代表のキム・スンギュの話をしないわけにはいかない。ボックス内でフリーでシュートを放った川崎戦の遠野大弥のボレーをストップしたり、名古屋戦の金崎夢生のヘディングをギリギリでかき出したりと、まさしく“壁”となっている。彼の存在によって5バックはチャレンジ&カバーを広範囲に行ないながら、距離感を保って守れている時は堅牢を作れている。

 守備が固いチームの典型は、全員が引いてスペースを埋めて守るリトリートが挙げられがちだが、彼らの守備戦術はそれではない。ボールを握ることを放棄しているわけでもなく、ボール支配率はリーグで9位である。

 リーグ戦において無得点で終わってしまったのも11試合を終えて鹿島戦と川崎戦と京都戦の3つだけ。3つは少ないとは言えないかもしれないが、相手はリーグ王者だったり現在でも上位陣の顔ぶれ。それだけ攻撃面でも力を発揮できているからこそ、3位という成績である。今回は守備戦術に特化するため攻撃面の詳細は避けるが、ぜひ柏の試合を見たことがない方はチェックしてみてはどうか。

 あまり外からウイークの話を多くすべきではないと思うが、試合を重ねるごとに相手も研究を重ねてきて、特にウイングバックとセンターバックの外から裏を狙うチームは増えていると感じる。これによってカバーに出てくることを利用し、中央や逆サイドを狙うチームは増えるだろう。

 今後は、そういった相手への対策をチームとしてどう打っていくのか。知将と呼ばれる監督以下、スタッフたちの修正力も問われるだろう。“下馬評を覆した”と言うと、スタートが下からとなってしまうが、あえて期待を込めてそう記した。上位争いを繰り広げ続けてくれる存在となるかどうかも見届けたい。
 
【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスで、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍している。Twitterやオンラインサロンなどでも活動中。

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