「残りの9〜10人のレベルをいかに高めるか」元代表監督トルシエが語る、森保ジャパンの欠点。W杯本大会までに必要なことは――

「残りの9〜10人のレベルをいかに高めるか」元代表監督トルシエが語る、森保ジャパンの欠点。W杯本大会までに必要なことは――

トルシエ氏は、森保ジャパンでは若手の突き上げもあったが、伊東など替えの利かない選手も多く、選手層は心もとないと指摘する。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)



 7大会連続7度目の出場を決めた日本は、カタール・ワールドカップのグループEでドイツ、スペイン、コスタリカまたはニュージーランドの大陸間プレーオフの勝者と同居した。組分け抽選を終えて森保一監督は「目標は変わらない。ベスト8以上を目指している」と改めて公言している。

 目標を達成するには何が必要なのか。2002年の日韓ワールドカップで日本を初のベスト16に導いた元代表監督フィリップ・トルシエ氏が、森保ジャパンに提言する。

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 ドイツ、スペインと同居することになった日本のグループステージの組分けを、私はポジティブに捉えています。初戦でドイツと戦い、第2戦(コスタリカまたはニュージーランドの勝者)を挟んで、最後にスペインと当たる対戦順は、実は悪くはないのです。厳しい組に入ったのは事実ですが、ドイツと初戦で戦えるこのスケジュールに、私はむしろ光明を見出しています。

 ワールドカップの初戦は、どの国も難しい戦いを強いられるもの。ドイツにとって日本戦は、国民の期待やメディアからのプレッシャーもあり、絶対に勝たなければならない試合です。当然、攻勢に出てくるはずで、スペースが生まれ、日本にカウンターのチャンスが訪れるでしょう。

 なにより今の日本代表には、ドイツのブンデスリーガでプレー経験のある選手が少なくありません。ドイツ側は彼らを警戒するでしょうし、日本の選手たちは、ドイツというネームバリューやランキングにさほど威圧されずに、堂々と自分たちのサッカーができるはずです。

 日韓ワールドカップのフランス対セネガルを思い出してみてください。初戦で大波乱を起こしたセネガルは、多くの選手がフランスのリーグでプレーし、相手を知り尽くしていました。今回の日本も、そういう点で重なります。1試合目は失うものがありませんから、思い切ってプレーしてほしいと思います。

 そこで重要になるのは、ドイツに対してどの位置からプレスをかけるか、その選択でしょう。日本は高い位置でブロックを築き、連動した組織的な動きでボールを奪いに行くことができるチームです。ドイツが相手でも、これまでの経験や、今後の徹底したトレーニングで、それは可能なはずです。
 
 ただ私は、ドイツ戦ではむしろ、相手の攻撃を受け止めて、そこからスピードに乗ったカウンターを仕掛けるほうがハマると考えています。

 高い位置でプレスをかけるには、ハイラインを維持し、ブロックをコンパクトに保つ必要があります。“トルシエジャパン”のフラット3は、常に高い位置を保っていました。それは、ディフェンスラインの3人で徹底的にトレーニングして築いたシステムがベースにあり、さらに森岡隆三がスピード対応よりもオフサイドトラップの駆け引きに秀でていたからこそ可能でした。

 今のメンバーは明らかに特徴が違うので、必ずしも全員で高い位置からプレスをかける必要はないと感じます。実際、アジア最終予選のオーストラリア戦では、最終ラインを統率する吉田麻也が、時間帯によって高い位置を取るのを嫌がる場面も見受けられました。

 また、予選を通じて、日本は常にボールを支配する戦いをしてきました。ボールを保持し、自分たちのサッカーを貫く戦いです。一方で、世界の強豪と戦うときには、その立場が逆転します。この状況は、私が指揮していた当時から20年間、大きく変化していません。

 そのため、私なら今のチームでハイプレスを仕掛けるのは望ましい選択ではないと考え、ドイツとのグループステージ初戦では、必然的に守って速攻という戦いを選択をするのではないでしょうか。

【独占動画】元日本代表監督フィリップ・トルシエが語る「日本代表への提言」
 

 手本となるのは2018年、ロシア大会のグループステージ3戦目で、韓国がドイツを破った一戦です。当時の韓国代表は球際に強く、組織的な守備から一気に攻め上がり、アディショナルタイムに2ゴールを挙げて完封勝利を収めました。

 今の日本代表にも、球際の強さと攻撃時のスピードがあり、最終ラインの4人は高い技術レベルを備えています。ですが、どちらかと言えば個の力というよりも、チームとしての守備に、より魅力を感じます。5人のブロックで守り、前の5人のスピードを生かして攻め上がる戦いは、ドイツにも有効でしょう。

 日本が組み込まれたグループEを突破するには、最低でも勝点4が必要だと考えます。そのためにも、コスタリカかニュージーランド(恐らくコスタリカになるでしょうか)との第2戦、ここは勝点3が欲しいところです。それが前提になりますが、ドイツとの初戦で勝点1が得られれば、4ポイントに届きます。

 最終節で戦うスペインは非常に厄介な相手です。選手層も充実していて、どんな戦況でも勝利への道筋を描いてきます。スペインが勝点6で3戦目を迎えた場合は、決勝トーナメントに向けて控え選手を多めに出してくることが想定されます。その場合、投入された選手たちは自分をアピールすべく、必死に戦って来るはずです。逆に、日本に勝たなければならない状況なら、全身全霊で向かって来るでしょう。日本にとって相性が良いとは言えないスペイン戦に期待するのは禁物です。
 
 そう考えるとやはり、今回の対戦順は悪くはないのです。初戦はそもそも難しく、格下が相手だと必要以上にプレッシャーがかかり、なかなか思うような試合運びができないものです。日本と戦うドイツも例外ではないはずです。そこでなんとか踏ん張り、チーム状態が上がってから迎える2戦目を勝ちに行く。第3戦は最も難しい相手なので、まずは初戦、2戦目で実力を出し切り、その後に状況に応じた戦い方を考えれば良いでしょう。

 開催地のカタールは、日本にとって、過去3大会よりも戦いやすい場となるはずです。例えば、ブラジル大会のように試合間の長い移動や気候差がなく、南アフリカのような、治安への不安や未知数な要素もそれほどありません。

 もちろん、暑さなど懸念される要素もありますが、日本には、予選で中東を経験したというアドバンテージがあります。まだ準備段階ながら、現地の様子を見聞きする限り、スタジアム内のエアコンは機能し、キャンプ予定地や練習場、ピッチコンディションも良さそうです。日本にとってネガティブなサプライズは少なくなるのではないでしょうか。
 

 今の日本代表の欠点を挙げるとすれば、選手層にさほど厚みがない点でしょう。ワールドカップのメンバー登録は23人(26人に拡大可能性もあり)。そのうち世界基準のトップクラスの選手は13〜14人ほどしかいません。言い換えると、スタメンの11人からレベルを落とさず入れ替えられるのは、2〜3人程度です。

 最終予選の最後のベトナム戦が、それを物語っています。この試合は、それまで出場機会の少なかった選手たちが中心となりましたが、連係、連動が不十分ななかでの戦いとなりました。それほど期待できる状況ではなかったとはいえ、それでもやはり、カタール行きを決めたオーストラリア戦のメンバーとは、差があると感じました。

 もっとも、そうしたデメリットはメリットにもなり得ます。最終予選で森保監督は、1勝2敗と出遅れたにもかかわらず、同じ選手たちを信頼し、チャンスを与え続けました。その結果、選手たちは自信を掴み、いまやチームとしてかなりの完成度を誇っています。

 今回のワールドカップでは、5人の交代枠が使えます。層の厚さでは間違いなくドイツとスペインが日本を上回っています。膠着状態になっても、いろんなオプションを持っている彼らのほうが優位に試合を進められるでしょう。

 ワールドカップまでの残り期間で、森保監督が信頼を寄せるその13〜14人以外の残りの9〜10人の選手のレベルをいかにして高めていくか。私なら、出場機会の少ない欧州組の選手や、Jリーグ勢の国内組に、実戦の場を与えます。
 
 欧州組を呼んでベストメンバーでチーム作りをするのは、9月のインターナショナル・マッチウィークからでも十分間に合います。最終的に、大会直前の合宿でチームを完成させれば良いのです。

 つまり、本大会までに日本がすべきことは、まずは主力と考えている欧州組をしっかりと休ませることです。今回のワールドカップは、欧州リーグが新シーズンになってから開催されるため、クラブを移籍する選手や、チーム内での立ち位置が変わる選手が出てくるかもしれません。そのため、主力と考えている欧州組の選手たちを夏場の代表活動には呼ばず、ヨーロッパの所属チームに専念させる。そうした配慮が必要だと考えています。

 6月、7月の代表活動は、チーム全体の底上げを視野に、国内組、そしてヨーロッパで出場機会に恵まれていない選手たち中心で行ない、思い切って試してほしいと思います。

 いろいろと課題なども指摘しましたが、昨今の日本サッカーは、本当に誇るべきレベルだと思います。

 今後は、ファンの皆さんにも大事な役割が待っています。応援で日本代表の選手を後押し、愛されている、期待されている、彼らがそう感じられるような強い絆を築いてください。ファンに支えられているという実感は、揺るぎない自信、そしてハイパフォーマンスの源になるはずです。応援にもさまざまな形があると思いますが、本大会に向けて、みんなで日本チームを支えて行きましょう。

【著者プロフィール】
フィリップ・トルシエ/1955年3月21日、フランス生まれ。98年に日本代表監督に就任。同時にU-23、U-20代表監督も兼務し、00年のシドニー五輪でベスト8、02年の日韓ワールドカップではベスト16に導く。03、04年には今秋のワールドカップ開催地、カタール代表監督も経験した。

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