「大人しすぎる」主将として批判を浴びた遠藤航が“自身の流儀”で伝説となった日。「ワタルは僕らの象徴」【現地発】

「大人しすぎる」主将として批判を浴びた遠藤航が“自身の流儀”で伝説となった日。「ワタルは僕らの象徴」【現地発】

最終節に劇的な決勝弾を叩き込んだ遠藤。(C)Getty Images



 アディショナルタイムでの逆転ゴールがクラブを瀕死の状態から救う。劇的という言葉でも足らないくらいの衝撃的な得点でシュツットガルトを1部残留へ導いたのが、日本代表MF遠藤航だ。

 33節終了時でシュツットガルトは2部3位との入れ替え戦に回る16位。15位ヘルタとは得失点差で有利に立ってはいるものの、勝点差は3。つまりヘルタが負け、シュツットガルトが勝利するしか、逆転での1部残留の可能性はなかった。

 前半のシュツットガルトは1点を奪い、その後も何度もビックチャンスを作り出せていた。だが、どうしても2点目が奪えない。遠藤もボアナ・ソサからのクロスにフリーで合わせた33分とコンスタンティノス・マブロパノスのシュートのこぼれ球に反応した35分とで続けざまにゴールチャンスに絡んだが、どちらもバーを直撃した。
 
 ペジェグリーノ・マテラッツォ監督も「前半のうちに2点目を決めておかなければならなかった」と振り返っていたが、チャンスをいかせずにいると、どこかで相手にゴールを許すというのはサッカーにおける不文律だが、まさに何でもないところから同点ゴールが生まれてしまった。

 サイドからのクロスをGKフロリアン・ミュラーがまさかのキャッチミス。点取り屋アンソニー・モデステが素早く反応してゴールを決めたのだ。他会場のヘルタはドルトムントと同点をキープ。終盤までシュツットガルトは入れ替え戦の準備に動き出さなければならないような状況だった。

 だが、サッカーは何が起こるかわからない。特にリーグ最終節では本当に思いもよらない展開が現実のものとなる。まずヘルタがドルトムントにリードを許す報が入った。スタジアムの大型モニターに映し出された「ドルトムント2-1ヘルタ」をみた超満員のスタジアムは大きくどよめき、歓声が上がり、チームへの声援ボルテージが何倍にも上がった。1点取って勝てば残留というとても分かりやすい図式になったわけだ。

 とはいえ、相手のケルンも勝てばヨーロッパリーグ出場権獲得の可能性を残している。真っ向勝負の激しい戦いはどちらも最後の決め手を欠きながら終盤へ突入する。

 アディショナルタイム2分、左サイドからのCKに合わせて高く飛んだのがまず伊藤洋輝だ。ボールをうまくファーポスト際に流すと、混戦のペナルティエリア内を抜けてきたボールに反応し、ヘディングで飛び込んできたシュツットガルトの選手がいた。次の瞬間ボールはゴールへと流れ、そしてスタジアムのいたるところでファンの狂喜乱舞が始まった。

 記者席にいた僕には、最初誰がゴールを決めたのかわからなかった。監督のペジェグリーノ・マテラッツォ監督も「ゴールの瞬間はわからなかった。あのゴールは選手が最後まで信じ続けたことが報われた証だ。あの瞬間の思いを言葉にすることはできない」と興奮気味にインタビューに答えていた。

 記者席の後ろでファンが叫んでいる。「エンド―――――!ありがとう!!!!」

 モニターに映し出された映像には、ケルン選手が足をあげてブロックしようとするがそんなことお構いなしに飛び込んできた遠藤の姿が映し出されていた。もみくちゃにされながら、何度も喜びの感情むき出しで叫んでいるその姿は、まさにチームを引っ張るリーダーそのものだった。

【動画】伊藤のフリック→遠藤航が執念のヘッド!日本人コンビで奪った残留を決める劇的弾
 結果で答えを出す。背中で引っ張る。

 そう口でいうのは簡単だ。でもそれを具現化するのはだれにでもできることではない。それこそ遠藤もキャプテンとして批判にさらされていた時期がかなりあった。

 曰くキャプテンとはチームメイトを叱咤激励できる存在でなければならない。曰く、ピッチ上には他の選手を怒鳴りつけるようなカリスマ性がなければならない。曰く、遠藤は大人しすぎる。

 そんなことを言われつづけていた。地元紙から直接そのことを質問されることも。それでも遠藤は「僕は僕のやり方でチームのためにプレーで引っ張っていく」と答えていた。

「ピッチ上で怒鳴りまくるようなタイプではない。それぞれのキャプテンにはそれぞれのスタイルでチームを導くやり方があると思う。僕は僕のパフォーマンスで周りの仲間に何をしなきゃいけないかを見せていくこと」

『ビルト』紙のインタビューにはそんな風に話していた。そしてそんな遠藤だからこそ、シュツットガルトはキャプテンに任命したのだ。

 マテラッツォ監督は「あのゴールはエンドウの意志の力だ。素晴らしいリーダーだ」と話し、スベン・ミスリンタートSDは「僕らの象徴であるワタルがゴールを決めてくれた。彼は、僕らみんなのスピリットなんだ」とかみしめるように言葉を絞り出していた。

 僕らみんなのスピリット――。

 チームの求めることを誰よりもプレーで表してくれる。どんな時でもあきらめず、泣き言を言わず、文句を言わず、自分の全力を出すために取り組み続ける。うまくいかないときには誰でも弱気になったりするものだ。でもそんな素振りすら見せずにピッチで誰よりもユニホームを汚しながら戦う男を見て、心が揺さぶられないわけがない。だからこそ、遠藤はチームの象徴なのだ。
 
 試合後、シュツットガルトの選手たちはゴール裏のファンと一緒に喜び合っていた。記者席から眺めていたら、伝説を作った3番がそっと輪から離れ後ろに下がりながら仲間とファンとの宴をそっと眺めている様子がみえた。

 成し遂げたことの大きさをかみしめているのだろうか。長い、長いシーズンがようやく終わったのだ。これ以上ない幸せな瞬間とともに。

取材・文●中野吉之伴

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