日本代表と対戦するセレソン、W杯予選で“最高成績”もブラジル人記者が不安な理由【現地発】

日本代表と対戦するセレソン、W杯予選で“最高成績”もブラジル人記者が不安な理由【現地発】

ネイマール(左)やヴィニシウス(右)など好タレントが揃うセレソンが日本と対戦する。(C)Getty Images



 ブラジルはワールドカップにおいて多くの記録を保持している。
 
 最多優勝(5回)、1930年大会からこれまでのすべての大会に出場、最多勝利数(73勝)、最多ゴール数(229ゴール)、平均ゴール数(2.1ゴール)、選手レベルで言えば3つのW杯で優勝したのはブラジルの英雄ペレだけだ。

 予選ながら、それに新たな記録が加わった。南米予選における最多勝点だ。最終節のボリビア戦に勝利したことで、ブラジルは勝点を45とした。これまでの記録は2002年日韓W杯予選でアルゼンチンが挙げた43ポイントだったが、ブラジルは1試合少ないにもかかわらず、その記録を抜いた(アルゼンチン戦が試合途中で中断された)。

 W杯の南米予選は過酷だ。10か国と数は少ないが、総当たり戦で、世界チャンピオンの割合も10分の3と、どの地域よりも高い。2位のアルゼンチンに6ポイント差をつけての首位通過は立派なものだ。

 17試合の内訳は14勝3分け、その引き分けもアルゼンチンと3位のエクアドル、ホームで強いコロンビアが相手だったのだから許容範囲だ。
 
 ブラジルはこの予選の中で進化してきた。その分岐点となったのが2020年の11月のベネズエラ戦だ。試合にはロベルト・フィルミーノが67分に挙げたゴールで1−0と勝利したが、最下位だったベネズエラに終始苦しめられていた。内容もジョゴ・ボニート(美しい試合)を愛するブラジル人にとって許すことのできないプレーだった。

 チームは非難に晒され、過激な意見ではチッチ監督を更迭してマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラを後任に据えようというものまであった。

 チッチもそのままではだめだと思ったのだろう。この試合後に若い世代を多くセレソンの中心に据えるようにシフトしていく。しかし、それには時間が必要だった。それから約半年は変遷の期間であり、紆余曲折の末に、ブラジル開催となったコパ・アメリカではアルゼンチンに決勝で敗れたりもした。

 その変革に大いなる光をもたらしたもの。それが東京オリンピックだった。東京で金メダルをとったチームは、決してスター軍団ではなかったが、それでもジョゴ・ボニートを見せ、多くの優秀な若手が育っていることを教えてくれた。

 そして今、多くの若手がA代表に定着している。アヤックスのアントニー、リーズのラフィーニャ、ネクスト・ロナウジーニョの呼び声高いアトレティコ・マドリードのマテウス・クーニャ、ニューカッスルのブルーノ・ギマラエス、若手で最も評価の高いレアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオール、その同僚のロドリゴ、エバートンのリシャルリソン、リヨンのルーカス・パケタ、アトレティコ・ミネイロのギリエルメ・アラーナ……。

 チッチは実に100人近くの選手をこの予選で試してきた。それがこの記録にもつながり、若くポテンシャルのあるチームが出来上がったと私は思う。課題だったネイマール依存からも脱出したのだ。

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 ただ記録を喜ぶ一方で、ブラジル人はある不安を抱えている。ブラジルには、予選での結果と本大会の結果が反比例するというジンクスがあるのだ。

 例えば、1950年の自国開催のW杯。ブラジルは大会予選で南米最高の成績をだしたが、本大会ではウルグアイに決勝で敗れた。いわゆるマラカナンの悲劇だ。ブラジル人は大きなショックを受け自ら命を絶つ者までいた。

 94年のアメリカ大会予選。ブラジルは出だしで躓きエクアドルに引き分け、ボリビアに負け、規律違反でメンバーから外されていたロマーリオに懇願しチームに戻ってきてもらい、彼のゴールでようやくW杯行きを決めた。だが、本大会ではロベルト・バッジョを擁するイタリアを破って優勝したのは皆さんもご存じだろう。

 ところが予選を戦わなかった次の98年大会は、決勝でフランスに0−3の大敗を喫してしまう。

 2002年の日韓大会の予選では、W杯連続出場記録が途絶えてしまう可能性さえあった。最終戦のベネズエラ戦で柏レイソルのエジウソンがゴールを決め、やっと出場権を手に入れたのだ。しかし箱を開けてみれば、ブラジルは本大会で優勝を果たした。
 
 これはただの迷信や都市伝説ではなく、根拠があるものだと私は考える。良くも悪くもブラジル人はとてもエモーショナルだ。感情に流されやすい。予選で良い戦いをすれば、自分たちは強いのだと尊大になり、悪い結果を出せば「なにくそ」とやる気を出す。

 先にも述べたが南米には10か国しかない。互いのことは知り尽くしている。予選はその中で行われる。言うなれば井の中の蛙だ。南米の中でいかに強くとも、世界でどれだけ強いのかはわからない。W杯となると、ヨーロッパの強豪やあまり情報のないアジアやアフリカのチームとも対戦しなくてはいけない。

 若手を多く抱えた現在のブラジル代表も、未知数だ。自分たちは強いと信じこんできたチームが、ヨーロッパの強豪と当たって出鼻をくじかれた時、選手たちのメンタルはかなり打撃を受けるだろう。14年のW杯でドイツに1−7で敗れたのもそれと関係がなくはない。

 ブラジルが入ったグループGはスイス、セルビア、カメルーン。奇しくもスイス、セルビアとは前ロシア大会でも同グループだったが、どちらも確実に強くなっている。前者は実質的に予選でイタリアを葬り去っているのだ。

 ブラジルの人々は、このグループを非常に危惧している。どこのチームもブラジルを倒せば、決勝トーナメントへの可能性が高くなる。人生を懸けて向かってくるだろう。もしそんな中でミスを起こせば致命傷になりかねない。その時若い選手たちはメンタルを立て直すことができるか。それが一番の心配である。

 チッチ監督は、W杯までに南米以外の強豪国との対戦を臨んでいたが、相手は韓国と日本となった。歴史を繰りさえなければいいのだが。そう思っているブラジル国民は少なくないのだ。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

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