【長崎】なぜ昨季の功労者、松田監督が解任されたのか? ブラジル人新監督に託されたJ1昇格

【長崎】なぜ昨季の功労者、松田監督が解任されたのか? ブラジル人新監督に託されたJ1昇格

J1昇格への道半ばで解任となった松田前監督。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)



 昨年5月に途中就任し、低迷するチームを再生させた功労者は、就任から約1年で現場を離れることになった。

 6月12日、リーグ折り返しとなるJ2第21節を終え9勝4分8敗で5位のV・ファーレン長崎は、松田浩監督に代わり、コリンチャンスなどで指揮を執ったブラジル人のファビオ・カリーレ新監督の就任を発表した。

「(J1昇格が)できると信じていなければ実際に昇格はできないし、少し前から選手たちにも、そう信じられる選手だけで戦うと話しています。好都合なことに混戦でまだまだ昇格の可能性がある。メンタルのところでミスすることなく、戦い抜いていきたい」

 解任が発表される前、リーグ戦に向けて松田前監督はこう語っていた。J2有数の戦力を擁し、優勝候補にも挙げられていた長崎にとっては、なかなか昇格圏に届かない現状は容認できないものがあった。指揮官の解任の可能性は常に漂っていたし、納得できない決断ではなかった。

 2018年からアカデミーダイレクターとして育成組織の再編や強化に尽力してきた松田前監督は、当時から監督業への思いは強かった。その名前がトップチームの監督候補として上がり始めたのは2020年末。手倉森誠監督の退任後からである。

 だが、このときの松田前監督は第一候補というわけではなく、あくまで名前が挙がっただけに過ぎなかった。その後、吉田孝行監督が率いたチームはポゼッションスタイルの向上を目指したが、開幕から躓き、11節を終わって11位という状況で、クラブはJ参入後初となるシーズン中の監督交代を決断。時間的・人材的に外部招へいが難しいなかで松田前監督に再建を託すことになった。同氏にとっては栃木SCを率いた2013年以来、8年ぶりの監督復帰である。
 
 就任後の指揮官は攻撃に意識が向かい過ぎていたチームの方向性を修正。守備の約束事を徹底し、トレーニングで求めるプレーができない選手は躊躇わずにスタメンから外し、チームを再編。安定した守備を軸に接戦を手堅く勝つことで調子を上げ、相手のスカウティングに苦戦する時期も若手の台頭で乗り切り上位に進出。惜しくもJ1昇格は逃したものの4位に食い込み契約を更改してシーズンを終えた。

 続投した前監督の目標は当然J1昇格。希望に添って栃木時代の教え子、クリスティアーノというJ1経験豊富な大物も獲得した。だが前年11月に「自らが来季の編成にかかわらないほうがチームにとって良いと判断した」として竹元義幸強化部長がシーズン終了を待たずに退任した影響もあってか、チーム強化がバランスを欠き、開幕からチームは波に乗りきれなかった。

「開幕から思っていたようには波に乗れず、指揮官として責任を感じております。選手・スタッフはそんな中でもここまでしっかりついて来てくれました。心から感謝しています。ここからチームが奮起して、必ずJ1昇格できることを祈っております」

 監督交代のリリースにはこう書かれ、同時にブラジル人の新指揮官就任も発表された。

 開幕から不安定な戦いを見せていたチームに対し、クラブは安易な監督交代を行なわない方針だったとされるが、開幕直後の3月には降格圏直前の20位に沈む。4月を3勝1分1敗とし、いったんは立ち直ったかに見えたが、5月は2勝1分3敗と負け越したことで監督交代の可能性が浮上、後任のリストアップも進められたと見られている。なかでも影響が大きかったと思われるのが5月25日の18節・千葉戦だ。

 千葉戦でチームは連戦を考慮し先発を8名入れ替えて戦い、千葉の5バックを崩すことができぬまま、ロングキックとサイド攻撃で効率良く攻めた相手に2失点。先発したクリスティアーノ、カイオ・セザールといった主力外国籍選手も力を発揮しきれずに敗れてしまった。この試合後に関係者が一室に集まる様を見て、その雰囲気から監督交代の可能性を感じた者もいたという。
 

 昨年にあれほど機能した松田サッカーが、これほどに苦戦した理由は複数ある。

 ひとつは前述した補強バランスの悪さだ。昨季の序盤は、秋野央樹、ルアン、富樫敬真、フレイレ、徳重健太といった選手中心のポゼッションで戦い、途中から米田隼也、加藤大、江川湧清、鍬先祐弥、都倉賢といった選手中心の堅守速攻へ方針転換。さらに相手のスカウティングが進んできた終盤は植中朝日、加藤聖、ウェリントン・ハットといった選手が台頭している。実質2.5チーム分と言えるほど戦力的な幅があったのだ。

 だが、昨年のレギュラー格だったウェリントン・ハット、毎熊晟矢、名倉巧の3人をはじめ、ポゼッションを志向した選手の多くが去り、堅守速攻に適応する選手主体となった結果、今季の戦力の幅は狭まった。特に守備の約束事を徹底できないウェリントン・ハットを守備でフォローしつつ、10アシストを記録した毎熊の離脱は大きく響いた。

 もともとポゼッションを志向していたチームが守備の約束事を取り入れるより、守備のチームがポゼッションを高めることは難度が高い。守備には約束事があるため、規律を持ち込めばある程度は理論で対応できるからだ。だが個やひらめきといったものに左右される攻撃はうかつに持ち込めば守備の約束事を壊すこともある。

「新戦力が多いなかで試行錯誤の前半戦だったと思います。個の力は強いと言われるチームなんですが、個の力を中心にチームを作ったら勝てると思ったし、スタイルを変えないと対策されると思ったんですが、安定した力を発揮できなかった。そこは誤算でしたね」

 後に前監督も認めたとおり、チーム状態や戦術と個の融合を見誤った結果、不安定な土台の上に攻撃を積み上げることになったチームは、昇格レースを牽引するような思うような結果を残せずにいた。前監督も3月末頃から守備の再編に取り組んだが、故障者の問題もあって得点力不足に陥り、連戦のため修正に時間をかけられないという不幸が重なった。
 
「サッカーは人生を投影したようなスポーツ。あまりにも思うようにいかないことが起こる。だから、世界で一番愛されているスポーツなんじゃないですかね」

 監督交代発表の2週間ほど前、囲み取材の中で前監督はそう語った。昨シーズン、クラブの苦境を救った功労者の2シーズン目は5位だったが、首位争いに絡めず、クラブが想定していた結末とはならなかった。

 新たにチームを率いるファビオ・カリーレ監督は、コリンチャンス、サントス、アル・イテハドなどブラジルや中東で指揮を執り、2017年シーズンにはコリンチャンスでカンピオナート・ブラジレイロ(ブラジル全国選手権)の優勝も経験。基本とするシステムは4−2−3−1や4−4−2のほか、4−2−4や3バックで戦ったこともあり、コリンチャンス時代は、4−2−3−1のシステムから堅守速攻でタイトルを獲得しており、長崎のスタイルが劇的に転換されることはないだろう。

 一方、ポゼッションにも対応できるとされていることからチーム状態が安定してくれば、堅守速攻とポゼッションの併用に向かうと思われる。またポルトガル語で日常会話ができた前監督も外国籍選手との意思疎通は十分にできていたが、カリーレ監督就任でよりカイオ・セザール、エジガル・ジュニオ、カイケ、クリスティアーノといったブラジル人選手との意思疎通はスムースになるはずだ。南米での実績があることで、調子に波があるビクトル・イバルボにも良い刺激を与えられる期待もある。

 ビザの都合などでカリーレ新監督が公式戦の指揮を執るのは7月の甲府戦からで、それまでのリーグ戦2試合と天皇杯3回戦は長崎U-18の原田武男監督が暫定的に指揮を執るという。新監督就任までの間、前監督に指揮を執ってもらうことも可能だったかもしれないが、功労者の前監督に交代前提で指揮権を委ねたくはないというクラブの側の敬意と配慮の表われとも言えるだろう。原田監督はアカデミーダイレクターだった前監督と一緒に仕事をする機会も多かったことから、前監督のスタイルをベースにしながら、新監督へバトンを引き継いでくれるに違いない。

 10月でシーズン終了となる今季では、カリーレ新監督が今シーズン戦える時間は実質4か月となる。7月はベガルタ仙台、アルビレックス新潟といった上位との直接対決も待つ。ここで敗れればJ1昇格の可能性はかなり低くなる。チームは上位追撃を目ざしFWを軸に夏の補強を行なうと予想され、カリーレ監督の意向次第ではさらなる選手獲得を進めることもあり得る。カリーレ監督にとってはリーグを戦いながらチーム再編を進めるという難しいミッションへのチャレンジとなるが、指揮官交代が決断された以上、与えられた条件の中で長崎は立て直しへ全力を注がねばならない。

 今回、5位という順位をどう判断するのか。状況的に判断が難しいなかで、あくまでもJ1を目指すために監督交代という苦渋の選択を先延ばしにしなかったクラブの決断力は評価したい。だがあくまでもその成否が判断されるのは、新監督の出す結果にかかっていることは忘れずにいたい。

取材・文●藤原裕久(サッカーライター)

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