プロ育成を標榜する相生学院高が女子サッカー部を創設。実績十分の熊田監督は「早いタイミングで結果が出る」と展望

プロ育成を標榜する相生学院高が女子サッカー部を創設。実績十分の熊田監督は「早いタイミングで結果が出る」と展望

来年度から始動する相生学院高女子サッカー部を率いる熊田監督。独自のコンディショニングや強化方法を駆使して新しい挑戦に乗り出す。写真提供:相生学院高



 プロ選手育成を標榜し一期生から2人のJリーガーを輩出した兵庫県相生学院高校が、女子サッカー部も創設し来年度から始動することになった。

 通信制の相生学院高校男子サッカー部は、3年前に神村学園淡路島学習センターとしてスタート。サポート校では全国高校選手権に出場できない制度上の問題が発覚したため、相生学院に全部員が転校する形でプロジェクトを継続させて現在に至っている。

 一期生は全国大会の経験もない無名の選手ばかりだったが、最終学年を迎えると激戦の全国高校選手権兵庫県予選で決勝まで進出。12名の最初の卒業生の中から日光揮がヴィッセル神戸と契約を交わして早くもACLでデビューし、また福井悠人もすでに在学中からカマタマーレ讃岐の一員としてJ3でプレーした。

 天然芝5面や屋内外の人工芝の練習場が使用可能で理想の環境を整えた相生学院は、基本的に午前中にトレーニングを済ませ、午後は人間教育に力点を置きセミナーや地域活動などを積極的に実践している。

 監督にはアーセナルで15年間の指導歴を持つ元アイルランド代表GKのジェリー・ペイトン氏、コーチにも清水エスパルスで天皇杯制覇の経験を持つゼムノビッチ・ズドラブコ氏を擁し、さらに選手主体のボトムアップ理論を導入して広島観音高校時代に全国制覇を達成している畑喜美夫氏がGMとして加わるなど、ハード、ソフト両面でプロを凌駕するような内容が特徴で、豪華スタッフはそのまま女子部もサポートしていく。

 プロジェクトを発案し実現した上船利徳総監督が、女子部創設の狙いを語る。

「もちろん男子と同じくWEリーグに輩出していきたいと考えていますが、それ以上に世界基準でリーダーシップを発揮し活躍できる女性の育成を目ざしたいと考えています。そのためにも学生ミーティングや地域貢献活動を増やし、全員が活発に意見を言い合える主体性の高い文化を築いていきたいですね」

 卒業後は米国の大学進学をサポートする「With you」との提携も決まり、英会話などのカリキュラムも充実させていく予定だ。
 
 そして初代女子監督には、ミャンマー代表を率いてU-19ワールドカップのアジア予選を勝ち抜きASEAN最優秀監督の受賞歴を持つ熊田喜則氏を招聘。同監督は10年以上も女子の指導歴を重ねており、独自に研究し編み出したコンディショニングや強化方法を駆使して新しい挑戦に乗り出す。

「最初に日本で女子の指導をしたのがINAC神戸でした。その時、多くの選手たちがベタ足で、小刻みにステップを踏まないとターンができないことが不思議でした。後に明治国際医療大学(京都)で学び、女性は骨盤が後傾しているからどうしても踵が地面についてベタ足になることを教えられます。ただし反面上体を前傾させようとすると、関節が緩い女子選手は膝が内側に入ってしまい前十字靭帯が切れ易くなることも知りました」

 こうして熊田氏は、周囲の関係者たちの協力を得て日本の女子選手のベタ足矯正への道を模索していく。

「まず準備運動でピラティスを導入し、骨盤の位置を強制していくエクササイズを作りました。次にコーディネーションとアジリティのトレーニングで膝、足首、骨盤を補強しブレない体幹を作りあげ、さらにパワーポジションの作り方を教えていきました」
 

 結局、明治国際医療大学で指導した3年間で、前十字靭帯を断裂する選手はひとりも出なかった。また同時に女性特有のコンディション調整法も検証してきた。

「チームを生理のタイミングで3つのグループに分けます。最も生理から遠い選手がA、整理が近づいてきている選手がB、生理に入っている選手がC。Cはトレーニングの強度を完全に抑えてしまい、次戦はAとBで臨む。こうしていくと総体的に良いコンディションを保つことができました。結局サッカーは最低でも15人以上良い選手を揃えないと勝てません。こうした繊細な気遣いが必要になってくると思います」

 もちろん女子ならではの難しさも熟知している。

「男性は頭で理解する前に、まず行動する傾向がありますが、女性は理解してから行動します。サッカー選手としてどこへ導くべきか、どのような精神状態でサッカーをさせることができるかという点で男女に差異はありませんが、手法は少し変える必要があるでしょう」

 一方、熊田監督を支えるヘッドコーチには、なでしこリーグの湯郷Belleで活躍してきた道上愛子氏が着任している。

 改めて熊田監督が今後の展望を語る。

「関西には日ノ本学園高校、大商学園高校、大阪学芸高校、大阪桐蔭高校など強豪高校がひしめき、むしろ強化に好都合だと思います。当然、男子の実績を見れば、女子も早いタイミングで結果が出てくると思いますよ」
 
 2011年にワールドカップを制して以来、日本の女子サッカーは世界の波に呑み込まれつつある。

「なでしこジャパンは持久力と足もとの技術に磨きをかけてパスサッカーを展開し、世界の頂点に立ちました。これは女子サッカーの黎明期を象徴する『パワーサッカーの終焉』を意味していたのかもしれない。 私はやがて男女でスタイルの違いがない日がくると思います。そのためにも日本は初心に戻り、技術、スピード、体力、体格、戦術、戦略等を磨き、独特の速いパスサッカーを展開する代表チームを創り上げる必要がある。そこで活躍できるような選手を育成していくことが私の役割だと思っています」

 男子で旋風を巻き起こした相生学院だけに、女子も斯界の起爆剤としても注目を集めそうである。

取材・文●加部 究(スポーツライター)

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