東京Vに下剋上を許し天皇杯も早期敗退。リーグ王者・川崎が苦戦する背景

東京Vに下剋上を許し天皇杯も早期敗退。リーグ王者・川崎が苦戦する背景

まさかの敗戦となった川崎。雨の等々力で涙を飲んだ。写真:塚本凜平(サッカーダイジェスト写真部)



[天皇杯・3回戦]川崎0-1東京V/6月22日/等々力陸上競技場 

 歓喜に揺れるグリーンと、雨に沈むブルー。そのコントラストをより際立たせたのは、片やJ2で苦戦し監督交代(堀孝史監督から城福浩監督)を決断したばかりのチーム、片やJ1を連覇中のチームという背景とともに、かつては同じ川崎の町を本拠地にした歴史的背景もあったのかもしれない。

 ヴェルディは試合終了のホイッスルとともに歓喜の輪を作り、フロンターレはピッチでうな垂れた。

 天皇杯3回戦で等々力陸上競技場を舞台に相対した両チームは、東京Vが前半に佐藤凌我の目の覚めるようなミドルで奪ったゴールを、90分通じたアグレッシブな姿勢で生かし、J1王者を下してみせたのだ。

 一方で川崎にとっては厳しい敗戦となった。歴史上で鹿島しか成し遂げたことのないリーグ3連覇を目標にしている今季は、同じくクラブの悲願であったACLでまさかのグループステージ敗退を喫し、この日で天皇杯のタイトルも消滅。早くも狙えるトロフィーはリーグとルヴァンカップのふたつに絞られたのだ。

 ACLに関してはマレーシアのジョホールバルで開催されたグループステージのレギュレーションに泣いた部分もあったが、今回は約2週間のインターバルでチームの状態を整え、4日前にはリーグ戦で札幌に5-2の逆転勝利を収めて勢いに乗ったかに思われていた矢先での敗戦。それだけに、なんともショッキングな敗戦になったと感じる。

 2021年は1月に守田英正、夏に三笘薫、田中碧、年末に旗手怜央が海外挑戦を決め、2020年限りでレジェンドの中村憲剛が引退。一方で今オフの即戦力補強はチャナティップ(←札幌)と瀬古樹(←横浜FC)に止め、5人のルーキーを迎え入れた。流通経済大から入団した佐々木旭は登里享平の怪我もあって左SBの定位置を掴んだが、現状のチームはポジティブに捉えれば“新時代への序章”、ネガティブに捉えれば“過渡期”ということになるのだろう。
 
 前述の札幌戦から中3日で迎えた東京V戦へ、川崎はスタメンを9人変更。右SBには大卒のMF松井蓮之、インサイドハーフには移籍1年目の瀬古、2年目の小塚和季を起用するなどフレッシュなメンバーを送り出した。

 しかし試合後、鬼木達監督が「負けに対する悔しさしかない、そういうゲームになってしまったと思います。自信を持ってボールを動かし続ける、ゴールへ向かうところをもっと出さなくちゃいけなかったと感じます。単純に自信だとか、それにともなう技術が必要で、気持ちのところでもっと強気でいかないといけなかったと思います」と振り返ったように、39分に先制を許した前半はミスが重なり、リズムを生み出せず。

 後半開始から橘田健人、 脇坂泰斗、遠野大弥を投入して攻撃のテコ入れを図ったが、最後まで1点が遠かった。

 東京Vの素晴らしいパフォーマンスがあったとはいえ、なぜリーグ王者は自信を持ってボールを動かせなったのか。その質問に指揮官は試合後にこう答えてくれた。

「少し前半戦のスタートのところで、イージーミスが散見されて、リズムというところで、自分たちのなんて言いますか、本当にプレッシャーが来ているかどうかで、まだそこまできていないところで、ミスが重なり、少し安全なプレーになってそれがまたミスにつながってプレッシャーを受ける。そういうことが少し繰り返されたかなと思います

 自信という言葉で片づけたくないですが、ボールを動かす部分はメンタル的なところが大きい。もちろん立ち位置だとかそういうところは重要ですが、プラス良い位置に立っていても、そこに入れられるかどうかというところもあるので、そこはもう一回、誰が出てもできる環境を作るのが自分の仕事だと思います。そこを自信を持ってやり続けさせることが、今日のゲームに必要だったと感じます」

【天皇杯3回戦PHOTO】川崎0−1東京V|ヴェルディがジャイキリ!佐藤凌我の決勝弾で川崎を下し、ラウンド16へ進出
 

 自分たちでボールを握り、ラインを高く押し上げ相手を押し込む。常に能動的に動くのが川崎の真骨頂だが、相手の守備陣形を崩すような、攻撃の局面を一気に加速させるような、鋭い縦パスや仕掛けは、技術力、ポジショニング、自分たちで描く共通の絵に、自信があってこそ表現できるものだろう。

 カウンターのリスクを常に背負いながら、それでも強気にボールを動かし、勝負するからこそ、観る者の想像を超える魅力的な崩しが実現できる。そのベースにあるのは、止める・蹴る、局面を見て判断する“目”への自信であったはずだ。

 最後の切り札として71分に送り出されたFW小林悠の言葉にも今のチームの状況が表われているように感じる。クラブと長年、苦楽を共にしてきたストライカーは自身もチームの助けになれなかったことを悔しがりながら、試合後、紡ぎ出すように話してくれた。

「前節(札幌戦に)勝って、良い流れでいけるかなと感じたんですが、今日は相手のほうが良いサッカーをしていたと思います。もう少し相手陣地でボールを持っている時に、相手を動かすこと、攻めるタイミングを合わせていく必要があるかなと。

 なんて表現すれば良いか難しいですが……相手コートで回して、押し込んでタイミングを見て背後を取る。でも、今は選択肢がなくなったところで攻めていると言いますか、自分たちでコントロールして攻めているというよりも、自分たちで回して出すところがなくなって、勝負球を入れるしかない状況で入れて取られるシーンが多かったと言いますか……、自信を持って相手コートに入って、ボールを握るところ、そこをやり直さなくちゃいけないのかなと、今日の試合では感じましたね。

 やっぱり成功体験を積み重ねていかないと、どれが正解だと分からないと思いますし、必要なのはやっぱりゴールだと思うんです。ゴールを決めていくことで、こうやってやればゴールは決まるんだなと成功体験を積み重ねていく。それにチャレンジしている段階ですが、ゴールが決まってくれば、一気に自信をもって崩せるようになると思いますし、良い攻撃につながるはずなので、やっぱりゴールにつなげたいですね」
 
 そして、そう口にした後に小林が「次、勝てるようにやっていきたい」と切り替えたように、指揮官もこの敗戦を糧にしなくてはいけないと話す。

「タイトルのかかった、またACLにつながる大会なので、重要視していました。ただこの世界は結果が白黒出てしまう。そういう意味でいうと、失ったものも大きいですが、それ以上にここから飛躍するしかない。それがチームが強くなっていく一番必要なことだと思います。負けをしっかり受け止めて、次につなげていかないと意味のない敗戦になってしまう。そこは自分もそうですし、選手に伝えて、(中2日でのリーグ戦。ホーム・)磐田戦にしっかり勝利したいです」

 後半開始から登場した脇坂泰斗も前を向いた。

「自分も勝ち切るために仕事をしたかったですが、そこが結果的にゼロだったので申し訳ないです。雨に関わらず多くの方に応援に来ていただいたのに、ホームでひとつのタイトルを落とすのは非常に情けないと言いますか……。

 それでもまたすぐにホームでリーグ戦がありますし、監督も話していましたが、サッカーの悔しさはサッカーで晴らすしかない。僕たちには狙えるタイトルがあと2つあるので全力で掴みにいくために、次の磐田戦を勝ちにいきたいです」

 メンバーが入れ替わり、今季は新たなサッカーを作り出すための助走期間――そう個人的には感じている。だからこそ我慢の戦いは続くのだろう。それでも栄光を掴むためには生みの苦しみは必須である。天皇杯での敗戦が再びチームを高みに導く経験になることを今は信じたい。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
 

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