【川崎】ワンサイドゲームから一転、悔しきドロー。“アンカー・大島僚太”システムに見えた収穫と課題

【川崎】ワンサイドゲームから一転、悔しきドロー。“アンカー・大島僚太”システムに見えた収穫と課題

この日もアンカーとしてフル出場した大島。攻守に働いた。写真:徳原隆元



 悔しいドローとなった。

 J1の18節、ホームの等々力で磐田と対戦した川崎は、前半は相手を敵陣に押し込んでワンサイドゲームを展開し、33分には右SB山根視来のゴールで先制に成功した。しかし、後半を含めてチャンスを仕留め切れなかったツケを試合終盤に払わされる。

 85分に磐田の遠藤保仁のCKをCB伊藤槙人にニアで上手く合わされて失点。1-1のドローで試合を終えたのだ。3日前には同じく等々力でJ2の東京Vにアップセットを許し、天皇杯は3回戦で敗退する悔しさを味わったばかりだった。だからこそ必勝を期して臨んだ磐田戦だったが、首位の横浜が快勝した一方で悔いの残る足踏みとなってしまった。

 それでも前述したように前半は素晴らしい出来だった。川崎が最も苦手とするハイプレスを磐田が行なってこなかったこともあり、大半の時間を相手陣内でプレーし、ゴールに迫ったのだ。

 特に目を引いたのが、中断明けとなった1週間前の17節・札幌戦で久々に戦列復帰した10番の大島僚太である。この日も札幌戦同様、4-3-3のアンカーで先発すると、ボールを自在に散らしながら、縦パスや自らのフリーランで攻撃を活性化。彼がいると川崎らしいリズミカルな攻撃が蘇るのだから不思議なものだ。
 大島が不在だった今季の前半戦は、クラブの悲願であるACLで早期敗退するなど想像以上に苦しんだ。それはここ約1年半で守田英正、田中碧、三笘薫、旗手怜央が海外移籍し、2020年シーズン限りで中村憲剛が引退したことも影響しているだろう。

 中盤の構成力が課題に挙がり、得点数も例年に比べて減った。勘違いしていけないのは確かな力を持ったタレントたちは揃っている。ただ、チームとして軸を担ってきた選手が多く抜けたからこそ、“川崎らしさ”を表現できる指標となる選手が必要だったのだろう。その期待を背負うのが、かつて中村や大久保嘉人、風間八宏前監督らから薫陶を受けてきた大島だった。

 彼にしか表現できないプレーがチームの基準となる。怪我の多い選手であるが、戦列復帰戦となった札幌戦で早速先発で起用し、リーグ2試合連続でフル出場させている鬼木達監督も、大島をピッチに立たせることで、チームの“基準”をより明確にしようとしているのだろう。札幌戦の数日後に指揮官に話を訊くとこんな答えが返ってきた。

「彼だけではないですが、僚太があそこのポジション(アンカー)をやってくれたからこそ、札幌戦はチームのボールの動かしであったり、自信をもって前進していくことを表現できたゲームになったと思います」

 そして本来であれば最終ラインの防波堤としての役割も担うアンカーに大島を起用する意図も明かしてくれる。

「アンカーは攻撃でも守備でも両方の肝になるところなので、しっかりビジョンを持った選手であり、多くボールを触ってゲームを動かすことができる選手になります。彼はマークに付かれても、他の人に意図を持ってスペースを開けたり、そういうことができるだろうという想いもあります。

 そして(大島は)守備に関してもすごく整理されている子なので、運動量は他の選手のほうがあることはありますが、逆に違うところで違う選手がカバーできますし、怪我明けというところもあって、インサイドとアンカーの強度の部分も含めて、色んな意味で上手に起用できていければなと思います。彼はたくさんボールを触ることが重要なのかなと感じますね」

【J1第18節 PHOTO】川崎 1-1 磐田|試合を支配した川崎に落とし穴が待っていた。終盤の85分に失点し引き分けに終わる

 大島が復帰した効果の大きさは周囲の選手たちも感じている。

 CBを担う車屋紳太郎に訊けば「常に前が見えているというか、常に前への意識を持ってプレーしてくれますし、それだけで後ろの選手には楽になる。攻撃のスイッチを入れてくる」と称す。

 インサイドハーフを務める脇坂泰斗も反省を口にしながら、収穫を語ってくれた。

「僚太くんが入ってくれることで、僕もひとつ前で関われると言いますか、真ん中の3枚で余裕が出てきます。前節の札幌戦、その前のトレーニングマッチを含めて、手応えもありました。ただ札幌戦と違って今節は先制をできたのでより勝ちにもっていかないといけないゲームでした」

 一方で大島へ依存することの危険性を話すのはキャプテンでCBの谷口彰悟である。

「ボールが落ち着くし、効果的なパスを出せるので、ああいった選手がいるとだいぶ違うなと、みんな感じていると思いますが、そこに依存すぎるのもダメなので、他の選手は逆に僚太を利用するようなことができれば、より迫力のある攻撃ができると思います」

 3-4-2-1のシステムを組む磐田は後半、後方からの配球役であった川崎のCBコンビ、アンカーの大島をよりケアするために5-3-2のような形に並びを変えた。

 これがひとつ試合の流れに影響を及ぼしたとは感じるが、それでも川崎のポゼッションをがんじがらめにするものではなかったと個人的に思う

 現に谷口も「(難しくなったかというと)そんなイメージはなかったですし、(磐田の)プレッシャーのかけかたは変わりましたが、はがしていける、チャンスを作れると思っていました」と振り返っている。
 一方で「前半は距離感もすごく良かったですし、距離感が良いから、取られてもすぐに回収できて、すごくやりやすかった」と語るCFの小林悠は後半の課題を次のように挙げる。

「前半みたいに押し込めなくなって、ボールが前に入らなくなったので、自分が下がって顔を出せたら良かったのかなとも思いました。

 ただ引っくり返せば、一気に相手の中盤のラインを越せるのでチャンスになります。相手が前から来た分、そのあたりのビルドアップの立ち位置などは後半戦の課題かなと」

 そこは指揮官も「目を揃える」という言葉を使いながら指摘した。

「僚太のところも、かなりケアしてきて、そういった時により背後が空いてくる。そこはみんな頭で分かっているはずですが、そこを見つけられるかどうか。(後半)少し距離が延びてしまったり、あとは(相手が)いても(パスを)つけていく。前半はマークがいても前の選手につけていっていたので、そうするとだんだん入れ替わりなんかもありました。

 それが後半、少し少なかったかなというふうに思います。ただ、そこも全員が相手を見られる目を持ってやっていかないといけないと思いますし、全員、サブも含めて同じ目を持てるようにしていくことが必要です」

 大島が復帰したことでポゼッションの質は上がっている。ただ、状況、相手の動きに合わせて臨機応変に攻め筋を変えていく、柔軟な振る舞いができてこそ、より安定した試合運びをできるようになっていくのだろう。そこはチームとして改善していかなくてはいけない部分である。

 脇坂も語る。

「映像を見返してみないと分からない部分もありますが、(後半は)自分たちが受けてしまったというか、(相手は)来ていましたが、そこまでハマるような守備ではなかったのかなと思います。そこで慌てず、もう少し相手を横に揺さぶる必要があったのかなと感じます。

 リードを上手く利用する。相手は前がかりになってきたので、間が空くはず。そこで強引に前を向くのか、前向きな選手を活用するのか、判断のところ、受けにいく姿勢、関わり合う部分を考える必要があるのかなと。相手を囲って数的優位を作って前に運んでいくところは、後半戦少し足りなかったかなと思います」

 鬼木監督はメンバーを大きく入れ替えて敗れた天皇杯の東京V戦後、個々の特長をより引き出すためにも、“個人戦術”の必要性も説いていた。

「(東京V戦は)チームのためにという想いと、チームのためにと思ったら自分の良さを出していくんだという、両方の想いを表現できれば、より良かったのかなと思います。同じ絵を描くことと、同じ絵を描けなかった時に何ができるか。そこが個人戦術のひとつの重要なところだと感じます」

 一方で磐田戦のゴールは素晴らしい崩しだった。相手を押し込んだからこそ、大島からの横パスを受けたCB谷口が相手陣内で余裕を持ってボールを持つことができ、右SB山根の背後の走り込みに対し、絶妙なフィードを通してゴールに結びつけている。

 山根が折り返しを選択した場合でも、ゴール前でフリーになっていた小林は「背後を良いタイミングを取る。これからの攻撃の良いヒントになる」と自信を覗かせる。
  
「こういう試合で勝てないと優勝はない」(小林)、「もう一回覚悟をもってやっていかないとダメだなと感じる」(谷口)と、目標のリーグ3連覇へ修正が必要なドローとなったことは事実だ。それでも選手が入れ替わったなかで、チーム力を改めて高め直す最中にいるチームにとっては、少なくない収穫もあったと言えるのではないか。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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