マドリーを過小評価するのは愚か。なぜプレーコンセプトが存在しなくても勝てるのか?【現地発】

マドリーを過小評価するのは愚か。なぜプレーコンセプトが存在しなくても勝てるのか?【現地発】

リバプールを下して14度目のCL戴冠を果たしたマドリー。(C)Getty Images



 昨シーズンのレアル・マドリーのチャンピオンズ・リーグ制覇は壮大なストーリーの完遂であり、その伝説を肥大化させた。どうしてこのような不可解なことをやってのけるのか理解できないアンチ・マドリディスタは呆然と立ち尽くすしかなかった。

 パリ・サンジェルマン、チェルシー、マンチェスター・シティ、リバプールと決勝トーナメントで顔を合わせたいずれの相手にもマドリーは劣勢を強いられた。試合内容では負けていた。何もこれは私だけの意見ではない。多くの識者が同調し、スタッツがその事実を裏付けている。しかし、マドリーはそのすべてに反論にした。そしてそれこそがアンチ・マドリディスタを困惑させ絶望させている要因でもある。

 いずれにせよ、マドリーを過小評価する愚を犯してはならない。なぜならフットボールを過小評価することにもなるからだ。それはスタイルを巡る論争よりももっと深淵なことである。

 マドリーの秘密は、フットボールを形作っている素材を知り、それを例外なくすべて、複雑化することなく、ルールの範囲内で使いこなせる点にある。ある時は試合を動かすために、ある時は瀬戸際で踏ん張るためにその時々で道具箱の中から関心があるものを探し当てる。そしてマドリーはその過程において、決して諦めることはない。

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 確かにファンは選手たちに絶対的な献身とともに、スペクタクルなプレーを求めている。だからこそビッグイヤーを1度も手にしなかったキンタ・デル・ブイトレは今なお人々の脳裏に生き続け、ジネディーヌ・ジダンのボールコントロールにサンティアゴ・ベルナベウは感嘆の声に包まれた。同じようにチェルシー戦でロドリゴのゴールをお膳立てしたルカ・モドリッチのアウトサイドキックによるアシストは、永遠に我々の記憶に残るはずだ。

 しかし、諦めないことがクラブの鉄の掟である以上、カリム・ベンゼマという芸術家がジャンルイジ・ドンナルンマに猛然とプレッシャーをかけ、パリ・サンジェルマンに巨大な嵐を巻き起こしたこともまた我々は決して忘れないだろう。
 マドリーが何か一つに特化することなく、すべてを使いこなすチームであることは決勝のリバプール戦でも確認することができた。勝利へのシナリオを「逆転」から「先行逃げ切り」に置き換えた点を除けば戦い方はそれまでと同じで、カゼミーロが封じ、ダニエル・カルバハルが戦い、テクニシャンたちが奔走し、そして何よりティボ―・クルトワが飛んだ。

 フットボールは無限の可能性を持ったゲームだ。そんな中、マドリーが実践しているのは余分なものをそぎ落とすことだ。マドリーには“これ!”と決めたプレーコンセプトは存在しない。選手の特性から派生する生態的バランスが競争力の源泉になっている。 

 シティ戦で空中で止まったかのような高い打点からヘディングシュートを叩き込んだロドリゴの得点センスも、ピストン運動のように脚を上下に動かし、チームにエネルギーにもたらすフェデリコ・バルベルデの運動量も、ゆったりしたテンポでチームを動かすトニ・クロースのゲームメイクも最大限に生かせばいいという考え方だ。

 もちろんタイムリーなタイミングでボックス内に侵入し、“デシモクアルタ”(14回目のCL制覇)をもたらすゴールを決めたヴィニシウス・ジュニオールの嗅覚また然りだ。マドリーは創設120年の歴史を誇る。

 その伝統を形成してきたのが、クラブの背後にあるカルチャーであり、その過程において要求レベルの高さ、競争心、プライド、ファンとの結びつき、対戦相手を敬う気持ちといったものが醸成されていった。いずれも勝つことが使命であるマドリーを語るうえで欠かすことができない要素だ。
 
 勝つとは崇高な目標だ。感動、幸福、抱擁に繋がる行為だ。昨今、社会的ニーズが複雑化し、若者のフットボール離れが進んでいると言われる。しかしそんな彼らですら今回、マルセロが生涯のクラブに別れを告げる姿を目の当たりにして、親と一緒に涙を流した。

 何が起こったのか完全に理解できない人々の称賛を得た。であれば、勝利した甲斐があったということだ。加えてカルロ・アンチェロッティという相手に歩み寄り調和を重んじ、揉め事に対し拒絶反応を示す、ロールモデルとなる監督のタクトによって達成したのだからなおさら価値がある。

 マドリーは幸運に恵まれていた? もちろん答えは「イエス」だ。運もフットボールを形作る素材の一つであり、人生と同じように、運に見放されるよりも味方されるほうがいいに決まっている。我々はマドリーとともにエキサイティングな旅を経験した。これほどの感動を呼び起こすことができるのがフットボールの魅力であり、それを神がかり的な形でやってのけるのがマドリーの真骨頂なのである。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79〜84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。


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