「何も答えが浮かばなかった」。西野朗・前日本代表監督がロシアW杯で味わった“キツかった経験”

「何も答えが浮かばなかった」。西野朗・前日本代表監督がロシアW杯で味わった“キツかった経験”

ロシア・ワールドカップ、森保ジャパンについて丁寧な言葉で語ってくれた西野氏。写真:サッカーダイジェスト



 久しぶりの取材日、西野朗・前日本代表監督は日焼けし、「年齢は関係ないだろう!」と、怒られるに違いないが、67歳とは思えぬ絞った身体を、ジャストサイズのスーツで包んで現場にやってきた。毎日10キロから15キロのランニングを、「外での運動は控えるように」と、これだけ熱中症への注意喚起がされている時期に、昼間、欠かさないという。  

 「だから、こんなに焼けちゃったよ」と、楽しそうに笑う。それは焼けますよ、そんなに鍛えて、追い込んで、どうするのでしょう?と聞くと、サッカー以外で掲げる今の目標が「70歳までに、何とかフルマラソン完走」。難しくはなさそうだ。    

 18年ロシアW杯でベスト8をかけた「ロストフでの死闘」(7月3日)の末、ベルギーに敗退。今回の取材日は、西野と、当時コーチだった森保一・現日本代表監督(53歳)、代表選手たちがロシアから帰国してから4年となる日でもあった(7月5日到着)。    

 ベスト8に手をかけながら、ベルギーの強烈な超高速カウンターで2-3と打ちのめされた直後、西野はテレビのフラッシュインタビューで「日本代表がベスト8に入るために何が足りなかったと思いますか?」と質問を受けた。Jリーグ監督として最多勝利となる270勝をあげ、同時にリスクや試練を味わってきたはずの「百戦錬磨」の名将が、呆然とした表情を隠さず、しばらく言葉を失っていた様子が印象に残っている。そして「何が足りないんでしょうね……」と、ようやく言葉を振り絞った。    

 「何も答えが浮かばなかったよ。それまでの試合だったら、Jリーグでも国際試合でも、もうちょっと態勢を整えて、何を話せばいいか、どんなやられ方をした試合だって何とか考えられるものでしょう。それがあの敗戦の瞬間から、頭が止まっちゃった。あんなにキツかった経験、インタビューって、今でも忘れられない」と、取材の冒頭、厳しい表情を浮かべた。  

 「何が足りないのか」──ロストフのピッチに残してきた答を探すリレーのバトンは、森保と、ピッチで涙にかすんだ空を見上げた選手たちにつないだ。西野はバトンを渡した後も減速せず、タイ代表を率いる(21年秋帰国)チャレンジへと走り出した。  
 

  改めて、11月21日に始まるW杯カタール大会に向けた日本代表の現在地、託したバトン、4年間の率直な思いを聞いた。

「カタールW杯の難しさは、これまでのような合宿期間が取れず、集合してすぐに大会が始まるところにあると思う。だから森保監督は6月の4連戦(パラグアイ、ブラジル、ガーナ、チュニジアで2勝2敗)で移動や、戦術のミーティングもいつ行なうか、スケジュールもかなり実践的にしていたんではないか。本番の準備時間がない分、最終予選や今回の6月シリーズで試した形を、これから洗練させて行けば通用するんじゃないか、というところまでは来ているんだろう。

 最終メンバーの選考も、ロシアの時とは全く違う。森保監督には、岡田監督や僕も経験していない4年間もの、ものすごく充実した蓄積があって、その財産が彼の自信でもあるし、ブレない根拠なんじゃないかな。選手との会話、どういう対応をしたとか、オリンピックもありましたから、その量も質も計り知れないし、この信頼関係が、これまでの代表監督とは全く違う一番の強みになるんだと僕は思っている。だから、彼は肝が据わっている。監督の質ってそれぞれだが、僕のそれとは違うんですよ、ポイチ(森保監督)の資質は」

 4年前は、本当に「ロシアW杯限定」としたチームを短い時間で作り、毎試合、ドラマチックな展開でベスト16入り。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が解任されるスクランブル体制のなか、何とか「ミニマムの目標」(西野)は達成したが、そのメンバーを選ぶうえで西野が大事にしたのは、ブラジルW杯からどんな思いで、ロシアに賭けて来たのか、だったという。将来的に有望な若手も確かに育ってはいたが、チーム全体を短期間で融合させるのを最優先し、経験値をもっとも大事な選考基準に据えた。  
「ブラジルでコロンビア戦(グループリーグ最終戦)に負けて、寝転んだ芝生くらい不愉快な感触ってなかっただろうし、あそこまで座り心地の悪いベンチだってないだろう。あの不愉快な感触、世界一座り心地が悪いベンチを忘れず、ロシアにかけた選手の思いを信じた選考だった。ケガをしていたオカ(FW・岡崎慎司)、本田圭佑を入れた理由で、選手には先発かバックアップかそういう話も伝えていた。

 今回は、長友(佑都)、麻也(吉田)も落ち着いてW杯に合わせて来るはずだ。あのベルギー戦、ピッチでもベンチでもどうしようもない居心地の悪さを味わった選手たちが、どんな思いでやってきたかは僕も見てきた。

 選手起用を伝えると、森保監督は、『(西野)監督の真意は……』と、選手と自分の間に入って、細かなコミュニケーションを取ってくれて……選手の気持ちを優先する雰囲気を持っている監督で、カンがとても優れている。広島の監督時代も、ある程度決まった形で戦術的な交代をしていたので、あらかじめ、選手とコミュニケーションを取っていたんだろう。そのうえで緻密さ、正直に、4年をかけて、何だったら、3チームでも4チームでも作れるような競争力を保って代表を見てきたわけでしょう。選手が信頼しないはずがない。

 カードだって、オプションだって、過去とは比べものにならないほど持っている。まぁ、それはそれで選び切れない難しさもあるだろうね。それを、ぜい沢な悩みというんだけれどね」

 「小国の戦いをする必要はない」と、西野は言う。18年に、W杯常連国を相手に貫いた攻撃的なスタイルは、今回も日本の特徴として発揮するべきで、そのためには、ここまで改善されていない攻撃の課題も指摘する。    

 最終予選の全得点は12点にとどまった。加えて本来、日本がバリエーションを持つべきセットプレーは、今回の最終予選中も、現在も決まっていない。  

 過去6大会の成績を振り返ると、西野が選択した「小国ではない戦い」の中身が分かる。98年フランス大会は、中山雅史の1ゴール(対ジャマイカ)のみで3連敗に終わる。02年の日韓大会は5得点で初めてトーナメントに進出。アジア予選中には、攻撃力が自慢だったドイツW杯も、グループリーグで2点にとどまった。    

 10年の南アフリカ大会は本田圭佑、遠藤保仁のFKを含み4点でトーナメントへ。期待が大きかった14年ブラジル大会も2点で敗退した。ロシアでは、香川真司のPK、CKからの大迫勇也のゴール、引き分けに持ち込んだ2試合目のセネガル戦も2得点をあげ、ベルギー戦も2点と、過去W杯最多となる6得点を挙げた。トーナメントに進出を果たした3大会はいずれもグループリーグで4点以上を(02年のみ5点)奪った。
 
 W杯で必要なゴールを前提に、現在の代表は足りない。ドイツやスペインといったW杯優勝国、コスタリカと対戦するうえで、チャンスを確実に得点にする決定力と、セットプレーは必須要素だ。

「6月に選ばれた28人に、あとはケガから戻ってくる選手、サコ(大迫勇也)も力を出すだろうし、ここから新しいメンバーが入ってくるよりも、4年間で非常に高いレベルで競争を続けてきたメンバーの、最後の争いが熾烈になると思う。吉田、航(遠藤)らを中心にした守備のスタイルは4年で一層安定し、試合で計算できるレベルに持ってくるはずだ。

 ただ、攻撃はもう少し爆発力を持ったタレントが多く出てくると期待していた。彼らがヨーロッパでプレーをして、間違いなく4年前よりテクニックのレベルはあがっているのに、決定力が飛躍的に上がった、というわけではないのが寂しい。南野(拓実)、鎌田(大地)、スピードで守備を突破する前の選手たちも、決定力をもっと向上できれば。攻撃陣全体的に、もう一段上がって、11月の選考に向かって行って欲しいところはある。

 久保(建英)も、本当にパンチのあるプレーをするようになった、と見ていたけれど、ケガもあって、成長が難しい時期かもしれない。セットプレーも、課題だろう。ロシアでは大迫がコロンビア戦の2点目、CKから決めている。過去には本田、遠藤がFKを決めているし、綿密な連携をはかり、合わせるのは日本が得意な部分。今回、トレーニング期間がないまま大会に向かうのは、こういうところで、じっくりチームを作ってきた日本に、マイナスにならないように準備しておくのが重要になるんじゃないか」

取材・文●増島みどり(スポーツライター)

【動画/衝撃告白】元日本代表監督・西野朗氏のロシアW杯回顧
 

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