FIFAも“想定外”だったイスラエルのU-19欧州選手権準優勝。アマチュア軍団のU-20W杯出場が「頭痛の種」になる理由

FIFAも“想定外”だったイスラエルのU-19欧州選手権準優勝。アマチュア軍団のU-20W杯出場が「頭痛の種」になる理由

決勝でイングランドに敗れたとはいえ、U-19欧州選手権で躍進したイスラエル。(C)Getty Images



 先日までスロバキアで行われていたU-19ヨーロッパ選手権。決勝ではイングランドとイスラエルが対戦し、前者が3−1で勝利した。しかしこの試合は、ただのファイナルではなかった。その背景にはいろいろなニュースや問題が隠れている。

 まずなにより、まさか誰もイスラエルがここまでやるとは思わなかった。例えば彼らが決勝で戦ったU-19イングランド代表のメンバーは、ほとんどがすでにプロ契約をしている。時には有名選手の傍らでもプレーし、最高の施設やサポートを得ながら日々トレーニングをしている選手たちだ。

 一方、イスラエルU−19は全員がアマチュアだ。5人だけはイスラエル国内チームの下部組織に属しているが、いまだプロ契約はしていない。あとは全員が兵役中だ。イスラエルでは心身に問題がない限り18歳から男女全員が兵役につき、男子はその期間が3年とされている。

 イングランドの選手はすでに高い給料をもらっているというのに、イスラエルの選手は練習の行き帰りのバス代に困る者もいるという。そのチームがディフェンディングチャンピオンのセルビアや優勝候補の最右翼だったフランスを抑え、決勝にまで勝ち上がって来たことは、それ自体すでに快挙である。
 
 決勝でもかなり善戦した。先制したのはイスラエルだったし、90分間では1-1だった。ただ延長に入ると両者の違いが浮き張りになってしまった。イスラエルの選手はイングランドに比べると、やはりフィジカル面が不足している。目に見えて疲れてきて、延長後半たった8分間のうちに2ゴールを奪われてしまった。

 もう一つ注目したいのは、これがU−19ヨーロッパ選手権であることである。こうした各大陸のユース大会はU−20ワールドカップの予選も兼ね備えている。そのため、国際サッカー連盟(FIFA)はそれまでU−19だった各大陸の大会の年齢をU−20に変更して、自分たちに足並みをそろえるよう各連盟に望んできた。南米、北中米・カリブ海、アフリカ、オセアニア、の各連盟はそれに倣い、アジア(AFC)も今年から U−20アジアカップに変更された。

 だが欧州サッカー連盟(UEFA)だけはその年齢を変更しようとはしない。彼らはその理由をこう主張している。

「U−20という年齢では、もうほとんどがトップチームで活躍しているプロとなる。これでは本当のユースの大会にはならない」

 UEFAとFIFAは数多くのことで対立している。例えばFIFAが提唱するクラブワールドカップの32チーム制、W杯の2年ごとの開催にUEFAは反対している。FIFAは権力に逆らうものに我慢できず、UEFAは自分たちが世界で一番レベルの高い大会をできることを自覚しており、自説を曲げない。例えばこのU−19ヨーロッパ選手権は世界141か国にTVもしくはストリーミングで配信された。
 そもそもこの決勝で一番に疑問を感じるのは、なぜイスラエルがヨーロッパ選手権に出場するかだろう。地理的に言えば、イスラエルはアジア、もしくは少なくとも隣接するアフリカに属するべきである。とにかくヨーロッパの国ではない。これには複雑な歴史と政治が絡んでくる。

 もともとイスラエルはA代表も含め、AFCに属していた。64年にはアジアカップを開催して優勝したこともあるし。70年のメキシコW杯にはアジアの代表として出場したこともあった。だが、その後パレスチナ問題が激化し、中東戦争が起こると、アジアの主にイスラム圏の国がイスラエルと対戦することを拒否。1974年に行われた投票の結果AFCから除名処分となった。

 その後イスラエルは長い間どこのサッカー連盟にも属さず、放浪が続く。ある時はヨーロッパのチームとして、ある時はオセアニアのチームとして扱われ、W杯予選を戦った。そして1992年になってやっとUEFAの正式メンバーに落ち着いた。

 イスラエルがUEFAに加入できたのは、ただヨーロッパが彼らを受け入れたという理由だけからではない。強豪ひしめく欧州に所属すれば、まずW杯には出場することが不可能だと認識されたからだ。
 
 例えば、今回のカタールW杯にイスラエルが出場していたら? カタールはイスラエルと国交がない。もしくはW杯でイランと対戦することになってしまったら? 何が起こるかわからない。FIFAは「サッカーに政治は関係ない」と言っているが、それは大嘘である。

 ところが今回困ったことが起こってしまった。先にも述べたようにU−19ヨーロッパ選手権はW杯予選も兼ねており、上位5チームは自動的に2023年のU−20W杯の出場権が得られる。つまりイスラエルが世界大会に出てしまうのだ。

 しかも開催地はイスラム国のインドネシア。かつてイスラエルのAFC追放を願った国である。いったいそこで何が起こるのか、誰にも予測できない。FIFAにとっても正直頭痛のタネだろう。

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文●リカルド・セティオン(text by Ricardo SETYON)
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。
 

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