【西野朗の独占告白】消極的な賭けの話題になると、表情が一気に曇り…。「自分は許しがたいと思っている」

【西野朗の独占告白】消極的な賭けの話題になると、表情が一気に曇り…。「自分は許しがたいと思っている」

ロシア・ワールドカップ、森保ジャパンについて語ってくれた西野氏。写真:サッカーダイジェストTV編集部



 史上初めて11月と秋開催となったカタール・ワールドカップでグループリーグを勝ち抜くために、西野朗・日本代表前監督(67歳)は、「1より3より2が大事」と試合順を示し、2試合目のコスタリカからの勝点3を、トーナメント進出への絶対条件にあげる。    

 西野監督は、ワールドカップがシーズン中の11月の開催となるため、これまでのように、合宿期間を使って短期集中型の準備ができない点を日本にとって不利ではないかと指摘した反面、森保一監督(53歳)が、西野自身も、またW杯で2度指揮を執った(98年フランス、10年南アフリカ)岡田武史・元監督(65歳)も経験していない4年もの長期にわたる準備期間で得た、選手たちとのコミュニケーションの蓄積を「計り知れない財産」と、プラス面にあげた。  

 Eグループは、過去W杯優勝を果たした8カ国のうち、ドイツ(4回)、スペイン(1回)と2つの優勝国が入った激戦組に。初戦のドイツ(11月23日)、3試合目のスペイン(12月1日=日本時間2日)と、強豪国との戦い方に目が向くが、勝負師でもある代表監督をW杯で経験した西野は、6月のプレーオフでニュージーランドを破ってグループに食い込んだコスタリカ戦(11月27日)にあえて焦点を強く当てる。7大会連続出場の日本代表が、初戦で欧州勢と対戦するのは、2002年の日韓大会ベルギー戦以来わずかに2度。それが優勝経験国となればウエイトが大きいのは間違いない。同時に、過去の第2戦で南米勢と当たるのは今回が初めてで、さまざまな想定が必要となってくるはずだ。

「日本の過去のW杯でも、初戦にヨーロッパの国が入ったのはあまりないでしょう。強いスプリット(精神力)を持ってチームを統一して来るドイツだけに、これまでの南米やアフリカとの初戦とはちょっと違う。準備も、戦い方でも、別の要素がいるんだと思う。ただ今大会で大事なのは、2つ目(コスタリカ)を確実に取る点で、(強豪国の)名前だけで判断するからか、あまりコスタリカが出てこないけれど、それは危険だ。

初戦は、グループリーグを突破するのにもちろん重要だけれど(過去6大会で、初戦に勝点を獲れなかった大会ではトーナメント進出はしていない)、カタールではこれまでの流れとは少し違い、2試合目でいかに確実に、勝ち点3を取るかが大事になる。そうすると、次(スペイン)への可能性をつなげるから。スペインも強豪であるのは間違いないが、去年は東京五輪で対戦して最後まで粘った試合をしているし(延長後半のゴールで0-1の敗戦)、勝った経験もある(12年ロンドン五輪)。小国のように戦ってはこなかったし、森保監督も3戦の流れをどう組み立てるか、これまでとはまた違う難しさや想定が必要になるが、緻密に考えていると思う」  

【動画】元日本代表監督・西野朗氏が語る「森保ジャパン

 18年ロシア大会では、結果的に勝点4、フェアプレーポイントの差でセネガルを上回ってベルギー戦へ臨んだ。3戦目のポーランド戦では、攻撃を仕掛けずにボール回しに終始した終盤での戦いに、スタジアムでもブーイングを浴び、「消極的な賭け」と、西野采配に批判が集まった。

 勝点を奪えば突破を決められた日本だったが、ポーランドにリードを許し、セネガルもコロンビアに先制された。そのまま試合が終了すると、ともに、グループリーグで順位を決める(1)勝点、(2)得失点差、(3)総得点、(4)当該間チームの勝敗、全てで並び、フェアプレーポイントに持ち込まれる。イエローカード、レッドカードによってマイナスされる方法で、日本はこのポイントでセネガルを上回ろうとリスクを避け、ボールを回して時間を稼いだ。
 
 当時の話になると、4年が経過した今も表情が一気に曇った。  

「あんな試合をするために選手が厳しい練習をしてきたわけではない。でも、試合中も選手がベンチから、このままで(フェアプレーポイントで抜ける)試合をするという指示を徹底してやり抜いてくれた。もし、経験がなくて、W杯への思いがバラバラだったら、あんな指示を徹底するような難しい局面は乗り切れなかったと思う。カザン(キャンプ地)に帰って翌朝のミーティングで、選手に、あんな戦術を取って本当に申し訳なかった、と謝った時に、彼等から、謝る必要なんてありません、先に進むためにやってきたんだからと言われた。  

今でも、あぁいうやり方を取った自分は許しがたいと思っている。結局、監督っていう仕事は、常にリスク、リスクの連続で、それとどう向き合うか。W杯はその覚悟を試されるんだろう。そこを逃げずに、避けずにやれるかどうか。森保監督は、絶対に逃げないでやってきたでしょう。彼は「ベスト8」に必ず応える。    

W杯の雰囲気を4年前にコーチとして味わってもらえたのは良かったと思っているし、よく2人でも、岡田(元監督)と3人でも話をしてきた。6月には激励会もやりましたよ」
 

 日本代表監督を退任し19年7月、これまで一度も経験していなかった他国の代表の指揮を執るため、タイに渡った。タイでは、国際舞台での活躍できる代表チームに期待が高まっており、東京五輪を目指すU-23と2チームの監督として滑り出しは好調だった。20年、タイで行なわれたU23のアジア選手権では、グループリーグで敗退した日本に対し決勝トーナメントに進出した。    

 しかし、この年に始まった新型コロナウイルスによるパンデミックにより、タイ代表の活動は大きく規制され、その間にも代表チームでクラスターが発生するなど、アクセルを踏むタイミングを失い、昨年帰国した。  
「J1で長く監督もし、W杯も経験させてもらったけれど、W杯の後、なかなか自分が前に進めなかった時に、まだやっていない挑戦でもあった異国で、新たなチャンスをもらったのはとても有難かった。ただ、コロナの制限は厳しくて、リーグも止まり、代表の活動が停滞してしまったのは本当に残念でした。僕は、日本代表と試合をするのを目標にし、そこでタイ・サッカーの現在地、立ち位置は知りたかったし、選手たちにとって日本代表との対戦は夢だったんじゃないか。あそこで(20年のアジア選手権で)対戦できれば、ひとつの目標は果たせたけれど、日本がね(グループリーグ敗退)……。

ただ、タイ人のコーチたちと仕事ができて、目標はインターナショナルにあるんだと伝えられたとは思う。代表をいきなり強くして、主要大会で勝たせる、といった強化もあるが、そうではなくて、国内リーグで、育成世代からじっくりやらなければダメなんだよ、と示したかった。自分と仕事をしたコーチが、そういう考え方を組んで、地方に自前で小さなスタジアムを作っちゃった、と地域のサッカーの発展に実際に乗り出したと連絡をもらって、嬉しかった。

日本人監督はいい仕事をするようだ、とあやふやな評価で自分は仕事を始めたのかもしれないが、あえて、自分が一番やりやすいチームで乗り込んで成果を急ぐ仕事をしなかったからか、日本人監督への評価も、実際にこんな形で、こういう仕事をする、と具体的に変わったのなら、それも良かった。

タイで活躍する日本人の監督も、日本で十分に実績を築いた優秀な監督ばかりだが、タイ国内では日本人と仕事をするのも普通になってきている。1部リーグにも、手倉森(誠)や、石井(正忠)がいるし、2部も含めるとさらに増える。代表監督としては悔いが残るが、タイサッカーがASEAN(東南アジア諸国連合)をライバルにして、そこでの勝利を目標にするだけではなく、W杯(26年は出場枠が48に拡大)の可能性もあるし、選手一人ひとりの技術もとても高い。日本をはじめ、様々な国でプレーできる。自分たちへの自信みたいなものをもっと意識していけばいい、と伝えたつもりなので、インターナショナルな舞台を目指す国であって欲しいね。

もし現場復帰を切実に願っていてもかなわないケースはあるだろうし、あまり思っていなくてもチャンスは巡ってくるのかもしれない。岡田は、指導者ライセンスを返上したけれど、あれは、今治のオーナーとしてチームを育てる覚悟の証だから。

まだやっていない挑戦? でも、一度やったからといってもう一度やっても悪くないでしょう……これは自分の思いだけではどうにもならない。とにかく、カタールを楽しみにしていいますよ」

取材・文●増島みどり(スポーツライター)

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