「全部やっちゃおう」と吹っ切れた天野純。韓国で未経験の“優勝”を手にし、堂々のJ凱旋を期す【インタビュー】

「全部やっちゃおう」と吹っ切れた天野純。韓国で未経験の“優勝”を手にし、堂々のJ凱旋を期す【インタビュー】

韓国の蔚山現代で活躍中の天野。現地メディアは「今季Kリーグ最大の補強」と絶賛するほどだ。写真提供:蔚山現代



 日本を離れ、海外に活躍の場を求めて戦い抜く――己の信念を貫き、独自のキャリアを刻むサムライの生き様をディープに掘り下げる。韓国のKリーグで研鑽を積むレフティ天野純は、いかなる想いで海を渡り、将来を見据えているのか。

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 古くはパク・チソン、最近ではファン・ウィジョ(ボルドー)のように、Jリーグ経由で欧州へ飛躍する韓国人選手は少なくないが、Kリーグ経由で欧州へ羽ばたく選手はほんの一握り。「日本から韓国へ行くのは都落ち」といったネガティブなイメージはいまだに根強いものがあるかもしれない。

 それを変えようと目下、奮起しているのが、蔚山現代に所属するレフティMF天野純だ。

「自分は30歳を過ぎているので、再び欧州へ行ける可能性は低いと思いますけど、このまま終わるつもりはない。Jリーグに戻ってもうひと花咲かせたいと思って韓国に来ました。

 シュンさん(中村俊輔/横浜FC)や(中村)憲剛さん、家長(昭博)さん(川崎)も30代半ばでMVPを取っているし、自分もそういう選手になりたい。今は蔚山で結果を残すことだけに集中しています」と貪欲に高みを目ざし続けているのだ。

 横浜F・マリノスのアカデミー出身で、順天堂大を経て、2014年に横浜でプロキャリアをスタートさせた天野は「日本屈指の技巧派MF」として名を馳せてきた。
 
 森保ジャパン発足直後の2018年9月のコスタリカ戦で代表デビューも飾っており、19年夏にベルギー2部のロケレンへ赴いた際には「彼なら十分にやれる」と前向きに評されていた。

 ところが、同シーズンに23年ぶりの2部降格を強いられたロケレンは深刻な経営難に直面。成績も振るわず、コロナ禍突入後の20年4月には破産宣告という最悪のシナリオが現実になった。

 もちろん選手も影響を受け、天野は志半ばで横浜へ復帰。Jリーグで再出発したが、20年、21年ともに絶対的なレギュラーを掴めず、試合に出たり出なかったりという状況が続いていた。

「出番が少ないまま30歳を過ぎたこともあり、『このまま行ったら右肩下がりになる』という危機感が強まりました。だからといって、Jではマリノス以外に行くつもりはなかった。

 蔚山からオファーを受けたのは、まさにそんな時でした。日本をよく知るホン・ミョンボ監督が自分を欲しいと言ってくれたのは嬉しかった。行くべきか残るべきかでかなり悩みましたけど、『日本に居続けると甘えが出る。新しい環境でチャレンジしたほうがいい』という結論に至り、韓国行きを決断したんです」と偽らざる胸中を口にする。
 

 韓国に新天地を求めた天野。さらには、かつて横浜で働いていた池田誠剛フィジカルコーチの蔚山入りも決定。日本人スタッフは3~4人に増え、天野は手厚いサポートを受けられるようになった。

「誠剛さんは僕がジュニアユースにいた頃、追浜まで指導に来てくれた人。面識はありました。自分のことを知っている指導者が近くにいるのは全然違う。

 ロケレンの時は環境やチームのスタイルへの適応に苦しみ、自分のプレーを出せない時期が半年以上続いたので、言葉の通じるスタッフにサポートしてもらえることを本当に有難く感じた。ベルギーでメンタル的にも苦労した経験もあって、何かあっても『このくらいなら問題ない』と楽観視できたのも大きかったと思います」

 本人もしみじみ語るように、日本同等のコンディション維持が可能になったのは大きかった。加えて、ホン・ミョンボ監督らスタッフが天野の高度な技術や創造性を生かした戦術やスタイルを採ってくれた。

 それも追い風となり、天野は全く違和感なく新天地に適応。開幕から主力として活躍し、「今季Kリーグ最大の補強」と現地メディアにも絶賛された。

 今季のACLではグループステージ突破は叶わなかったが、天野の一挙手一投足は鮮烈な印象を残した。日本代表の森保一監督も天野の代表復帰を問われて「候補には入っています」と明言したほど。
 
 7月のE-1選手権には惜しくも参戦できず、「日韓戦を戦いたかった」と本人も悔しさを吐露したが、代表候補として名前が出るところまで再浮上したのは確かだ。

「ACLで川崎フロンターレに1勝1分と普通に戦えるところを見せられた通り、蔚山は個々のレベルがシンプルに高い。チームとしても戦術的。しっかりつなぐサッカーもできますし、マリノスに近い感覚もあるので、やっていて楽しいですね。

 Kリーグは上位と下位の差が激しいと言われますけど、アウェー戦は常にタフですし、簡単な試合は1つもない。タイトなマークも受けますし、厳しさは感じます。今は2位の全北現代に勝点9差をつけて首位にいますけど(27節終了時)、タイトル獲得は簡単じゃない。ここから10月末までが本当の勝負になると思います」と今一度、気を引き締める。

 天野自身の成績は22試合出場で8ゴール。同じ助っ人FWのレアンドロが10点なのだから、かなりの好成績に映る。

 しかしながら、「今年はアシストも少ないし、圧倒的な存在には成り切れていない」と自分に厳しい。「ゲームメイクも得点も守備も全部できて、誰にも止められない頭抜けた選手になる」という高い目標を持ち、突き進んでいくつもりだ。
 

「Kリーグは外国人選手を見る目が日本以上に厳しいので『結果を残せなければいらない』と言われてしまう。僕も加入前は批判的な声があったようですし、やっぱりゴールという目に見える数字が必要だと覚悟して今季を戦っています。

 ただ、あまりにも前がかりになりすぎると、本来の長所である、ボールに触りながらリズムを作る仕事、攻撃を組み立てる仕事ができなくなる。そのあたりのバランスがすごく難しいんです。後半戦に入った頃から、そこに悩むようになりました。

 最終的に行きついたのが『全部やっちゃおう』ということ。吹っ切れた状態で8月13日のテグ戦に挑んだら、良い感覚を掴めたし、点も取れた。この調子で理想形を見出せればいいと思ってます」

 今の天野はとにかくポジティブだ。それだけ蔚山での日々が充実しているということだろう。過去には豊田陽平(金沢)やエスクデロ競飛王、現在も齋藤学(水原三星)、小川慶次朗(FCソウル)といった日本人選手がKリーグに挑んでいるが、大活躍する選手はほんのわずか。

 しかもMFで傑出した実績を残した例は皆無に近い。だからこそ、今季の天野のパフォーマンスは特筆すべきものがある。この調子で日本人の地位を高め、自身の飛躍につなげられたら、最高のシナリオだ。
 
「一般論として日本では韓国に行くことを、都落ちみたいなイメージを持たれることが多いかもしれませんが、実際に来てみたらそんなことは全く感じない。それはKリーグが日本であまり知られていないだけで、韓国から欧州へステップアップする選手もいますし、日本人にとっても飛躍の可能性のあるリーグだと実感しています。

 もちろん、上へ行くためにはチーム選びが一番大事。僕も蔚山じゃなかったら、ここまでやれなかったと思います。ロケレンで苦労や挫折も経験しましたけど、やはり自分を生かしてくれる監督やコーチ、環境がないと海外での成功は本当に難しいんです。

 本当に良いクラブに来ることができた今、自分がやるべきなのは、シーズン二桁得点とリーグ制覇。実は、僕はプロ人生で一度も優勝したことがないんです(苦笑)。ここでタイトルを取って、ベストイレブンとかを取れたら本当に嬉しいし、堂々と日本に戻れる。そうなるように全力を尽くして頑張ります」

 爽やかな笑顔をのぞかせた天野。30代を迎えて輝きを増す彼にはベストイレブンにとどまらず、MVPを目ざしてほしい。隣国でシーズン終盤に大ブレイクするファンタジスタの一挙手一投足が楽しみだ。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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