退団騒動、出場なしに激怒…アセンシオがブーイングを拍手喝采に変えたプレーとは?【現地発】

退団騒動、出場なしに激怒…アセンシオがブーイングを拍手喝采に変えたプレーとは?【現地発】

今夏は去就に揺れたアセンシオ。(C)Getty Images



 チャンピオンズリーグのレアル・マドリー対ライプツィヒ戦(マドリーが2-0で勝利)で起こった出来事の一つがマルコ・アセンシオとサンティアゴ・ベルナベウの和解だ。

 アセンシオが後半ロスタイムにダメ押しの2点目を挙げてそれは決定的になったが、最初のきっかけになったのがその約20分前に自陣ペナルティエリア付近で見せたスライディングだ。そこからマドリーはフェデリコ・バルベルデを起点とするカウンターを繰り出し、ヴィニシウス・ジュニオールがゴール前で詰め、その跳ね返ったところをアセンシオがループシュートで得点を狙った。

 ボールはバーの上を越えていったが、アセンシオのボール奪取がもたらした決定機だった。そのプレーを境に、64分にピッチの登場したときにスタジアム全体から起こったブーイングが拍手喝采に変わった。
 
 確かにFKからトニ・クロースがセットしたボールを左足ダイレクトで合わせてネットを揺らしたゴールは、欧州屈指と名高いシュート力をまざまざと見せつけた一撃だった。しかしそれはアセンシオにとってはいわば想定内のプレーであり、事実、ここ数か月間、より完成された選手になるには、これまで以上に戦う意識を持ってプレーしなければならないと周囲からアドバイスを受けていた。

 アセンシオの実力は誰もが認める。しかし同時に彼が身を置いているのは世界最高峰のレベルだ。マドリーでレギュラーに定着し、2か月後に開幕するワールカップの最終メンバーリストに名前を連ねるには、センスや才能に依存しない新たな選手像を構築する必要があることを関係者は指摘する。

 アセンシオはカルロ・アンチェロッティ監督の構想においてロドリゴとバルベルデに先を越され悔しい思いをした。周囲が働きかける意識改革とこのチーム内での序列の低下はもちろん無関係ではないが、さらに状況を複雑にしているが去就問題だ。

 来年6月にマドリーとの契約が切れるアセンシオは、4月に長年連れ添ってきたオラシオ・ガッジョーリと袂を分かち、ジョルジュ・メンデスにエージェント業務を託した。マドリーが契約延長のオファーを提示しない中での大物代理人の登場で俄然、移籍の機運が高まった。

 アセンシオはキャリアの岐路を迎えていた。さらに6月のスペイン代表帯同中に行った発言は挑発的と受け止められ、近しい関係者にも波紋を広げた。「契約延長か移籍の二者択一あります。どちらを選ぶつもりですか?」。記者にこう質問されると、アセンシオは、「いいや、3つの選択肢があると思う。このまま残る選択肢もある。マドリーとの契約は1年残っているわけだからね」と、来夏フリーで退団する可能性を示唆したのだ。

 その6月の代表入りは、昨シーズン終盤、マドリーで存在感を発揮できなかっただけに予想外の出来事だったが、関係者との献身性に磨きをかける一連の取り組みを後押しする効果もあった。ルイス・エンリケは戦う姿勢を要求し、アセンシオは応えた。
 
 しかしマドリーにおいては、状況は好転しないまま移籍市場が開き、ジリジリした夏を過ごした。バルデベバス(マドリーの練習場)で日々アセンシオと接していたクラブ関係者によると、ずっとフワフワした様子で、移籍期間終了2日前にアンチェロッティに残留を告げた後も正しい決断を下したかどうか半信半疑のままだったという。

 そんなアセンシオが最初に不満を示したのが、交代枠5人を使い切ったにもかかわらず、自身には出番が回ってこなかったUEFAスーパーカップのフランクフルト戦だ。試合後、自らの希望でアンチェロッティ監督と話し合いの場を持ち、気持ちを伝えた。指揮官は、「マドリーに残るなら、戦力の1人として計算する。でもまずは市場が閉まるまで動向を見守らなければならない」と答えたが、同じく来年6月に契約が満了し、去就が宙ぶらりん状態にあるダニエル・セバジョスがそうであるように、アセンシオの退団はチームにとって痛手になると考えていた。

【画像】ビブスを投げつけて、ペットボトルと蹴り上げる!アセンシオがブチギレた衝撃シーン
 結局、残留を選択したわけだが、マジョルカ戦でひと悶着起こした。開幕以来、ベンチを温める試合が増える中、アセンシオはウオーミングアップして出番に備えていた。しかしルーカス・バスケスが負傷し、アンチェロッティは急遽ダニエル・カルバハルを投入。これでマドリーは交代機会3回を使い切った。

 チームメイトの負傷の煽りを受ける形となったアセンシオは、ベンチに戻ると怒りを露わにした。指揮官は、試合後、気持ちは理解できると擁護したが、去就問題に加え、新たに騒動が発生し、ライプツィヒ戦でベルナベウからブーイングで“歓迎”されるに至ったのだった。

 しかしそれも身を挺してピンチを阻止したプレーが帳消しにした。近しい関係者は、自ら移籍を匂わすような言動をせず、ライプツィヒ戦のようなプレーをこれからも続けていくことが、契約延長への最短ルートになると強調する。

 ベルナベウとの決定的な和解は、ゴールを決めた後に起こった。アセンシオはピッチに倒れ込み喜びを表現すると、観客席に視線を向けて手を叩いた。クラブの関係者はこう証言する。

「マドリディズモを知っている。ファンにゴールを捧げたんだ」

文●ダビド・アルバレス(エル・パイス紙レアル・マドリー番)
翻訳●下村正幸

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