負傷離脱中に届いた驚きのオファー。鹿島内定の頭脳派CB津久井佳祐が夢のプロ入りを掴むまで。「まさかアントラーズからとは…」【インタビュー】

負傷離脱中に届いた驚きのオファー。鹿島内定の頭脳派CB津久井佳祐が夢のプロ入りを掴むまで。「まさかアントラーズからとは…」【インタビュー】

DF津久井の鹿島内定が決定。昌平高にて入団内定会見が行なわれた。写真:安藤隆人



 強豪・鹿島アントラーズが、関川郁万以来となる高卒CBの獲得を決めた。

 昌平高3年のCB津久井佳祐は、身長は180センチと大柄ではないが、鋭い読みと寄せの技術が高く、ガツガツ奪うというよりクレバーに奪う印象。的確なカバーリングと正確なビルドアップも魅力で、戦況を読んでハイラインにしたり、深みを取ってコースを限定したりと変化をもたらし、ボールを持てば、1列前に運んでからのフィードや縦パス、サイドチェンジができる。

 フィジカル的に見ると細さはある。だが、それはこれからでも身につくし、津久井には近代CBに必要なスキルがある。鹿島のスカウトが目に留めたのも、まさにこの部分だった。

 9月27日、昌平高で入団会見が行なわれた。今年2月の段階で早くもプロ入りを発表したMF荒井悠汰(→FC東京)との合同で実施された会見で、津久井は決意を口にし、ユニホーム姿も披露。その翌日、津久井に改めてプロへの思い、鹿島への思い、そして自身が持つ思考について聞いてみた。

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「Jリーグにはいきたいと思っていたのですが、まさかアントラーズからとは…と驚きました」

 この経緯は後に触れるが、中学時代から昌平高の下部組織にあたるFCラヴィーダでプレーしていた津久井にとって、プロは夢であったが、内心は厳しいのではないかという思いが強かった。

 中学時代からチームメイトの荒井のほうが圧倒的に有名な存在だった。「悠汰はもう当時からスーパーで、特出してうまかった。まさに別格だったんです。一方で僕は県トレにも入れなくて、一度だけチャンスが来たのに怪我で逃してしまって…。高校に入ってからも悠汰は1年から大活躍をして、どんどん有名になっていって、僕はずっと1年生チームのまま。差が開いていく一方でした。悠汰みたいな選手がプロに行くんだなと思いましたし、自分が対峙しても止められないだろうなと思っていました」と本人もそれを認めている。

 だが、そんな津久井に転機が訪れる。中1、中2まではSB、中3から高校の途中まではボランチをやっていたが、昨年の新チーム立ち上げ時に藤島崇之監督から、CBへのコンバートを提案されたのだった。内心はボランチをやりたかったが、当時のボランチは激戦区だったのもあり、どうしても試合に出たかった津久井は、コンバートを受け入れた。

「最初はずっと点を取りたいと思ってサッカーをやってきたので、攻めることができないし、守備ばかりでつまらないなと思うこともありました。でも、やっていくうちにセンターバックの楽しさが分かっていったんです」
 

 自分の冷静な読みが、カバーリングや寄せの部分で生かせるのが分かった。相手が狙っているスペース、通そうとしているパスコースを予測して、素早くポジションをとる。狙い通りにボールを奪った瞬間に顔を上げると、一気に世界が広がって見えた。

「思った以上に多くの選択肢が持てるポジションだなと思いました。特にドリブルで相手フォワードのプレスを1枚、2枚剥がしたあとは、さらにパスコースやドリブルコースが増えて、ボランチの時と同じ感覚でプレーすることができる。だんだんセンターバックが楽しくなってきて、ゴールに関しては『セットプレーで取れればいいや』と思うようになりました」

 CBとしてぐんぐん伸びていった津久井に、さらに大きなきっかけが生まれた。それは荒井のFC東京加入内定だ。

「身近な人がプロに行く。悠汰はプロに行くのは当然だと思いますし、だんだん『僕も高卒でプロになりたい』と強く思うようになりました」

 これまで心の中にあった大学経由でのプロ入りという考えは、一度頭の外に置いておくと決めた。そして、津久井の中で最も価値のあった出来事は、荒井とひたすら行なった1対1の自主トレだった。

 プロ入りをする荒井との真剣勝負。そこで津久井が完全に封じ込めるシーンもあり、自分の中で小さな自信が積み上げられていった。さらに日本高校選抜U-17で、守備の要としてチームの中軸を担ったのも大きな自信となった。
 
 今年のプリンスリーグ関東がスタートし、好調を維持するチームにおいて、津久井は守備の要、攻撃の起点、そしてセットプレーからの得点と、存在感をフルに発揮していた。だが、プロからの声はどこからもかからなかった。

 周りの選手が大学進学を決めていくなかで、「最後まで絶対に諦めたくない」と大学を決めず、必死でアピールを続けた。自分が出ている試合は毎試合必ずチェックをして、どのプレーが良かったか、逆にどの判断が甘かったか、ほかに選択肢はあったのかなど、1つずつ確認をして自己分析を欠かさなかった。

 そして迎えた今年のインターハイ。「チームとして初の日本一はもちろん。個人としても勝負だと思っていて、ここでプロを決めようと思っていた」が、チームが準々決勝まで勝ち上がるなかで、納得するプレーはあまり出来なかった。

「初戦の生駒戦(3-0)、2回戦の星稜戦(3-1)までは手応えがあったのですが、3回戦の日章学園戦(6-2)で2点も決められたのが悔しくて、特に2失点目は1発で僕が抜かれてしまったので、かなり落ち込みました。この出来じゃ無理だなと思いました」
 

 さらに追い討ちをかける出来事が起こる。プレミアリーグWESTに所属する大津との準々決勝(1-0)。「プレミア勢を倒せば評価も上がるし、勢いもつく。全てをかけるつもりで臨んだ」が、21分にCKに飛び込んで右足で着地をした瞬間、ボキッという大きな音が響いた。その場にうずくまり、一瞬足を見ると、右足がありえない方向に曲がってしまっていた。

「もうプロは無理だ。終わった」

 ショックに打ちひしがれながら、津久井はピッチの外に出され、そのまま救急車で病院に直行をした。診断結果は、右足首の脱臼骨折と靭帯断裂で全治3か月の重傷。1日間入院をし、翌日の帝京との準決勝はベンチで松葉杖を抱えて試合を見つめた。

 試合は熱戦となり、津久井も松葉杖をつきながら水を渡すなど、チームを支えたが、0−1の敗戦。目標だった日本一には届かなかった。
 
 大会開催地の徳島から、埼玉に帰る車の中で津久井はもう一度、自分の意思を確認した。

「サッカーが出来ない分、休むことで『もしかしたら背が伸びるかもしれない』と思ったり、手術が終わったら、筋トレなどでコンディションを上げていこうとプラスに捉えることができたんです。『これはマイナスばかりではないな』と思えたからこそ、高卒プロの夢は持ち続けようと思った」

 ギリギリまで絶対に諦めない。そう心に決めた津久井のもとに、思わぬ電話がかかってきた。埼玉の病院へ通院するために親の車で向かうなか、藤島監督から着信があった。出てみると、「佳祐、ビッグクラブから興味を持たれているぞ」と知らされ、驚きを隠せなかった。

 ビッグクラブとはどこだろうとは思ったが、それ以上に「Jのチームが見てくれている」という素直な喜びを胸に、津久井は手術と治療に励んだ。そして、手術から10日間の入院を経て、退院したその日に、ふたたび藤島監督から着信があった。
 
「佳祐、ついに正式オファーが届いたぞ。びっくりするぞ、鹿島アントラーズだ」

 一瞬、電話を持つ手が震えた。

「正直、僕が予想していたクラブではなく、全く予想をしていなかったアントラーズと聞いて、もう驚きしかありませんでした」

 驚きの次には「アントラーズのイメージは球際がバチバチで、常に気迫を持って戦うクラブ。しかも、勝たなければいけない軍団ですから、そこに自分が入ってやっていけるのかという思いが出ました」という不安が沸き起こった。しかし、冷静な津久井は、藤島監督と会話をしながら、いま自分の周りで起きている状況を客観的に整理した。
 

「これだけの怪我をしても取ってくれるということは、それだけ期待されているということだと解釈した」という津久井は、20分程度の通話の最後に藤島監督にこう伝えた。

「わかりました。僕、アントラーズに行きます。高いレベルで勝負をしたいです」

 即決だった。即決は即決でも、一度家に持ち帰ったり、両親に相談するなどのケースが多いなかで、津久井は自分の意思ですぐに回答をした。

「両親からはもともと『佳祐の好きなように決めていいよ』と言われていたので、自分で決めて、後から伝えようと思いました」
 
 こうして夢だった高卒プロは、Jリーグ屈指の常勝軍団への加入内定という形で実った。

「内定をもらってからが勝負。しっかりと治して、怪我する前よりも強くなった自分を見せたいし、チームに貢献して、アントラーズのサポーターに認めてもらえるような選手になりたいです」

 怪我からの復帰まであと少し。復帰後は鹿島内定選手として注目されるが、6年間お世話になった昌平のために、現在首位のプリンス関東とプレミア参入戦を制して、後輩たちにプレミアリーグの舞台をプレゼントする。そして、昨年は出場できなかった選手権に出場し、夏に果たせなかった初の日本一を掴み取る。その先に鹿島での挑戦の日々が待っている。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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