森保監督“続投”の期待と不安――わずかな期間で全てを分析・検証できたのか。悲願のW杯8強へ課題山積
2022年12月29日 13時40分サッカーダイジェストWeb

続投が決まった日本代表の森保監督。「ボールを奪って主導権を握りながらゲームを決めに行く」と意気込み。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)
「ベスト8の『新しい景色』を見るために、一番ふさわしい監督であるということ。そこが一番のポイントになりました」
日本サッカー協会の田嶋幸三会長が太鼓判を押した通り、森保一監督の続投が12月28日の臨時理事会にて全会一致で決定した。
日本代表監督のワールドカップ(W杯)後の“延長”は史上初。期間は2026年北中米ワールドカップまでの3年7か月で、「次を目ざす監督として、世界的に見ても相応しい金額」という田嶋会長のコメントにもあるように、年俸は2億5000万円以上と推定される。まさに異例の大型契約ということになるのだ。
それだけカタールW杯でのドイツ、スペイン撃破とグループ1位通過、日本国内での盛り上がりが高く評価された形。確かにW杯優勝経験のある両大国を世界の舞台で倒したインパクトは大きく、「森保監督続投は当然」という意見が国内外で高まっていた。
指揮官と主要選手の信頼関係もすでに構築されており、「良い守備から良い攻撃」という基本コンセプトも浸透している。それをゼロに戻すことなく、積み上げていけるメリットは確かに少なくない。
権田修一(清水)も「また一から作り直すことをやらなくていいのが、監督続投の最大の利点」と語っていただけに、カタールW杯を戦ったメンバーにとっては朗報に他ならないだろう。
ただ、既存メンバー以外の選手にとっては、代表入りへのハードルが高くなる恐れがある。森保監督とあまり折り合いが良くないと目される面々にしてみれば、なおさらだ。
「いつもはワールドカップ後に監督が代わることで選手がリセットされ、フラットになり、新たな競争が生まれていた。継続する今回はそこをどうやって作り出すのか。自分はそこに注目したい」と岡崎慎司(シント=トロイデン)もSNSで発信していたが、同じ陣容にこだわってチームが停滞することだけは避けなければならない。既成概念にとらわれないメンバー選考や新たなトライを森保監督には改めて強く求めたいところだ。
それを実行するめにも、新たなコーチの人選は非常に重要になってくる。長年、共闘してきた横内昭展コーチが磐田の監督に就任することが決定。同氏とともに攻撃面を主に担ってきた上野優作コーチも岐阜の監督になるため、彼らの後釜探しを含めたスタッフの入替というのは急務の課題だ。
「速攻・遅攻であれ、我々がボールを奪って主導権を握りながらゲームを決めに行くことをできるようにしなければいけない。それを具現化できるコーチに来ていただきたい。横内、上野コーチが抜けたポジションを補充しつつ、全体的に考えていきたい」と森保監督は会見で説明。2人のみならず、斉藤俊秀コーチや下田崇GKコーチらも代わる可能性がありそうだ。
それだけ新コーチ陣との信頼関係の構築は早急のテーマということになる。次世代の代表を託せる若手指導者も加える可能性も高いだけに、指揮官の負担も増えそうだ。
特に横内コーチの離脱は痛手と言っていい。長い間、二人三脚でやってきた彼との「阿吽の呼吸」をすぐには作れないからだ。2010年南アフリカW杯を指揮した岡田武史氏も複数コーチを置いていたが、本田圭佑の1トップ起用といった秘策を、98年フランスW杯からの腹心である小野剛氏と主に話し合っていたと言われる。森保監督はいかにしてコーチ陣の能力を最大限に活かすシステムを築き上げるのか。そこは大いに気になる点だ。
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そのうえで、反町康治技術委員長から「攻撃能力の高いセンターフォワードの発掘に力を入れないといけない。攻撃に違いを作れる選手もまだまだ多くない。ドイツ・スペインには受動的なサッカーをせざるを得なかったが、今後はもっと能動的なサッカーを目ざす。そこに力を注いでもらいたい」と注文を受けた課題にも取り組まなければいけない。
特にFWに関しては、日本が98年フランスW杯に初出場してから20年以上にわたって指摘され続けている問題。2016~2021年にかけては大迫勇也(神戸)が1つの解決策になっていたが、現在はそういう確固たる存在が不在と言える。
カタールW杯のグループステージ2節のコスタリカ戦で結果を出せなかった上田綺世(サークル・ブルージュ)、本大会では出番なしに終わった町野修斗(湘南)ら20代前半のFW陣の成長は必須。森保監督には彼らを良い方向へ導いてもらう必要があるだろう。
課題を解決しつつ、W杯8強という結果を残すのは本当に大変な作業だ。過去4年間を見ても、2019年アジアカップ準優勝、東京五輪4位、今回のラウンド16敗退と森保監督は大舞台でことごとく目標をクリアできていない。W杯最終予選序盤の大苦戦も含め、苦しんできたのは間違いない。
PK戦の末に敗れた5日のクロアチア戦から3週間程度という短時間で、過去の全てを分析・検証できたのかどうか分からない。が、3月の新体制発足時にはあらゆる課題を洗い出し、一から取り組める環境を作っておくことが肝心だ。森保監督自身の欧州での勉強の必要性も指摘されているが、やるべきことは本当にたくさんある。
ドイツ・スペインに勝ったからといって、全てがOKというわけではない。そこだけは今一度、再認識したうえで、覚悟を持って新たなスタートを切ってほしいものである。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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