欧州サムライ戦士の“最高到達地点”は？ 三笘薫がプレミア席巻中の今、足跡を振り返る。一瞬の輝きに焦点を当てれば小野伸二だが…

　ブライトンは、三笘薫の違約金を3100万ユーロ（約42億円）に設定したという。当然獲得に乗り出せるチームも絞られ、アーセナルの優勢が伝えられている。また、現在アーセナルでは冨安健洋がレギュラーに近い状況で優勝争いを繰り広げており、このクラスのチームの主力として継続的に活躍できる選手が複数出てくるようなら、日本サッカーも新たな時代を迎えるのかもしれない。
　
　ただし、こうして日本代表の大半を欧州組が占めるようになるまでには歴史的な蓄積があり、現在の選手たちと先駆者たちの足跡を同列には語れない。特に奥寺康彦がケルンへ移籍したのは、日本サッカーがどん底の低迷にあえいでいた時代だ。幸いケルンを指揮するヘネス・バイスバイラーが、日本代表の二宮寛監督と懇意で自身の慧眼への確信もあり獲得を決めたが、当時世界最高水準のブンデスリーガで優勝を狙うチームの外国人枠をアマチュアの国の助っ人に託したわけだから、常識破りの冒険だったことは間違いない。
　
　しかし25歳でプロになった遅咲きの奥寺は、いきなり最初のシーズンでリーグ、カップを制し、翌シーズンには欧州制覇に肉薄した。リーグ王者のみに参加が許されたチャンピオンズカップ準決勝で、ノッティンガム・フォレストと対戦。最初のアウェー戦では終盤に自ら同点ゴールを叩き込んで３－３の引き分けに持ち込み、決勝進出へは視界良好だった。

　ところが折り返しのホームゲームでは、０－１でまさかの敗戦。もし準決勝を制して優勝していれば（決勝の相手はスウェーデンのマルメだった）、欧州と南米両大陸の王者が東京で雌雄を決する第１回のトヨタカップが待っていただけに、非常に悔やまれる惜敗だった。
 
　奥寺の凄みは、ドイツで「第２章」を築き上げたことだった。ケルンでは主にウインガーとして活躍したが、後に移籍したブレーメンでは「ほとんど全てのポジションを経験し」オールラウンダーとして３度も準優勝を果たしている。現在ほどバイエルンの独走が顕著だったわけではないが、ドイツでの計９シーズンで４度も優勝争いを演じた濃密な長寿ぶりは伝説と言える。万が一、ここに欧州制覇の勲章が加わっていれば、今でも匹敵する日本人選手は見当たらなかった。
　
　また道を切り拓いたという点で、非常に大きなインパクトを残したのが中田英寿だった。日本からの欧州移籍はしばらく空白が続き、「ドーハの悲劇」を経て三浦知良がジェノアへの挑戦で風穴を開けるも１シーズンで帰国。日本代表のワールドカップ初出場を牽引した中田は、フランス大会を終えた1998年に、セリエＢから昇格したばかりのペルージャのシャツに袖を通した。

　開幕戦の相手は２季連続してチャンピオンズリーグのファイナリストになっていたユベントスで、遥か彼方の格上だったが、中田はビッグネームたちに臆することなく２ゴールを奪う鮮烈なデビューを飾る。これでトップ下として不可欠の存在になりチームを残留に導くと、翌シーズン途中でローマへとステップアップした。

【動画】スクデットを手繰り寄せる衝撃の一撃！中田英寿がユベントス戦で決めたスーパーミドル弾

　同じセリエＡでは、後に長友佑都がインテルに、本田圭佑はミランで10番をつけることになるが、中田はセリエＡが最も注目を集めていた時代に、しかもイタリアの至宝フランチェスコ・トッティのサポート役としてスクデット獲得に貢献。優勝の決め手となったユベントス戦では、交代出場で２点のビハインドを跳ね返す立役者となった。地上波（フジテレビ）がコンスタントにフォローしていたこともあり、この間の中田は日本サッカーの右肩上がりを象徴する存在として一身に注目を集め続けた。
　
　成功には、いくつかの定義がある。一瞬の輝きに焦点を当てれば、20歳での加入当初からオランダ屈指の名門フェイエノールトをUEFAカップ制覇に導いた小野伸二には、天井知らずの可能性が広がっていた。一方対照的に長谷部誠は、長く安定した貢献で信頼を勝ち取り、39歳の現在もピッチに立ち続けている。ヴォルフスブルク時代にはリーグ制覇、フランクフルトではヨーロッパリーグの優勝も経験しており、現役を退いた後には監督転身の可能性も見えている。欧州でのフットボールライフという総合的な観点からすれば、最高の成功者と見ることもできる。
　
　だが結局、欧州で最も成功した日本人選手というシンプルな問いには、香川真司以外の回答は見当たらない。2010年南アフリカＷ杯への選考に漏れた直後にドイツへ渡った香川は、ドルトムントでユルゲン・クロップ監督の英断でトップ下のポジションに据えられ、クラブでも語り継がれる最盛期を牽引する。

　それからの２シーズンは、機敏なターンやステップワークで常に対戦相手を翻弄し続け、違いを創出する突出した個として輝き続けた。
 
　ライバルのバイエルンを抑えてのリーグ連覇や、２年目の二冠達成は紛れもなく香川を軸に到達した境地で、日本でも無名に近かった存在が瞬く間にドイツでは誰もが知るスターへと変貌。クラブでの最後の試合となるドイツカップ決勝では、次の移籍先になるマンチェスター・ユナイテッドの名将アレックス・ファーガソンが見守る前で、やはりバイエルンを相手に１ゴール１アシストの大活躍で５－２の勝利へ導き、掉尾を飾った。

　残念ながら香川も小野と同様に早いタイミングでハイライトを迎えてしまったが、それでもプレミア初挑戦のマンチェスター・ユナイテッドでもリーグ制覇を経験。３シーズン連続して欧州トップリーグでの優勝にメインキャストとして貢献という金字塔は、今のところ他の追随を許さない。
　
　おそらく今後は、個のレベルでの評価を急速に高めている三笘や、前例のない道筋でハイレベルに到達した久保建英らが、継続的な成功で凌駕する可能性を追求していくことになるはずである。（文中敬称略）

文●加部究（スポーツライター）

【PHOTO】三笘の１ミリ、ブラボー、ボノ連続PKストップ…カタール・ワールドカップの名場面を厳選ショットで紹介！

【PHOTO】日本代表を応援する麗しき「美女サポーター」たちを一挙紹介！