「ジーコが嘆いた『恐れ』はもう微塵もない」“王国”で生放送された日本代表戦をブラジル人記者はどう見た?「カタールW杯はまぐれではなかった」
2023年04月05日 20時34分サッカーダイジェストWeb

ウルグアイ戦は1-1のドローに終わった。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)
日本代表は3月の代表ウィークを、ウルグアイと1-1、コロンビアと1-2の1分け1敗で終えた。
初戦の相手だったウルグアイは、まるっきり新しくなったチームだった。カタール・ワールドカップで屈辱的なグループリーグ敗退を喫し、刷新を図った。もう年齢の高いくたびれたチームではない。スピードがあって危険で攻撃陣を擁し、なによりW杯の苦い経験から、リベンジを果たそうとするモチベーションの高いチームだった。
同じ暫定監督が率いるチームでもブラジルとは大違いだ。日本はそんなチームに引き分け、いや勝つことも不可能ではなかった。
カタールでドイツとスペインを破った日本は今や世界でも注目のチームだ。この試合は少なくとも50か国で中継され、ブラジルでもなんと地上波で生放送された(コロンビア戦はケーブルやストリーミング配信だった)
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試合はそのままカタールでの日本の好印象を思い出させてくれた。それにホームの熱いサポーター、新生ウルグアイの闘志が加わり、FIFAのテクニカルデパートメントの分析によると、今回行われた親善試合の中でも(ヨーロッパのEURO予選は含まない)ウルグアイ対日本は最も興味深い試合だったという分析が出ている。
ウルグアイのゴールをマークしたフェデリコ・バルベルデは世界トップレベルのMFと言われているが、その彼も全力だった。シュートがゴールバーを叩いてもあきらめず、リバウンドのボールを懸命に追いかけた。親善試合ではなかなか見られない必死さだ。彼らは本気で勝ちに来ていた。
昔、日本代表は国外のチームと対戦する時、いつもピッチに恐れを持って立っていた。元指揮官のジーコもいつもそれを嘆いていた。しかし今の選手たちにはみじんもそれが見えない。カタールW杯でドイツやスペイン相手に勝てたのも、それが大きかったろう。そして大舞台で強豪を破ったことは、何か大事なことをチームに与えた。自信、そして戦い方。すでに強かった日本というケーキの上にイチゴを乗せてくれた。
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ただ、メンバーを入れ替えたとはいえ、ウルグアイに勝てたのにコロンビアに負けたのは納得いかない。コロンビアは、その歴史の中でも最も悪い時期を過ごしている。カタールW杯は予選敗退で出場できず、現在では南米でも4、5番手だろう。実力からいえば簡単に勝てるはずだった。
この結果はW杯のコスタリカ戦を思い出させる。ウルグアイとの互角の戦いで疲弊してしまったのか、それとも緊張の糸が切れてしまったのか。日本はブラジルと違う、精神的に弱くはないチームだ。原因を探りしっかり対応をしていってほしい。
だが親善試合とは、こうした問題を再確認し、是正していくためにあるものだ。この試合を教訓にこれからに生かしていけばいい。
ただコロンビア側のモチベーションも韓国戦(2―2)とは違ったかもしれない。ブラジルにとってサッカーは宗教だが、コロンビアでは生死にかかわる。それが決して比喩でないことは、かつてのワールドカップでオウンゴールをした射殺されたアンドレス・エスコバルの事件からもわかるだろう。
1戦目に韓国に勝てなかったコロンビアは、もう絶対に負けられなかった。カタールでドイツやスペインを下した日本に勝てたことは、コロンビアにとっては大きな意味を持つ。コロンビアの新聞はこの勝利を大々的に報じ、「コロンビア復活」などのタイトルで喜んだ。つまり日本とはサッカー界にすでにそんな存在、多くのチームにとって日本を破ることは大きな成功なのだ。
これからの日本はやはり楽しみだ。カタールW杯がまぐれではなかったことを今回の親善試合でも教えてくれた。まぎれもなく世界のトップ20には入るチームだ。
同時にこれからの日本代表はある問題に悩まされるだろう。多くの強豪と同様「勝利したら大喜び」ではなく「勝利して当たり前」になる。勝てなければサポーターもメディアも世界も満足しなくなり、そのプレッシャーはより大きなものになっていくだろう。
文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。
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