自分より小柄な乾貴士に吹っ飛ばされ――大学とプロで二足の草鞋を履く関口凱心、ほろ苦すぎるデビュー戦で得た経験
2023年05月04日 20時31分サッカーダイジェストWeb

山梨学院大で主将を務める関口。複数のポジションをハイレベルにこなすマルチロールだ。写真:安藤隆人
「この選手は一体どこがメインポジションなんだろう」
高校時代からそう思っていた選手が、大学でも、ついにはプロでも同じ印象を抱く選手になっていた。
山梨学院大のDF関口凱心は、24年の大宮アルディージャ入りが内定しており、今季は特別指定選手として、J2第11節の清水エスパルスでJリーグデビューをスタメンで飾った。
この試合、NACK5スタジアム大宮に取材に行っていた筆者は、スタメン出場に驚いただけではなく、ピッチに散らばると右サイドバックのポジションに入ったことで二度驚いた。
西武台高時代、関口は181センチのサイズを持ち、CB、ボランチ、トップ下、FWとセントラルポジションならどこでも器用にこなす選手だった。1対1に強く、かつスピードもある。CBとボランチでは対人能力の高さ、危機察知能力を発揮し、トップ下、FWではスピードを武器に仕掛けていく。
山梨学院大に進むと、1年時からレギュラーを獲得。この時はCBとして固定されており、「このままCBで行くのか」と思っていた。だが、2年になるとボランチ、インサイドハーフなどで起用されるようになった。
最高学年となった今年はボランチとしてのプレーが多くなっていたが、清水戦で関口に与えられたポジションは右サイドバックだった。実は彼にとって右サイドバックは、公式戦では初めてプレーするポジションだった。デビュー戦でいきなりほぼやったことがないポジションで、マッチアップするのは元日本代表の乾貴士。これが前述した驚きの理由だった。
そして20分、関口はいきなり乾にプロの洗礼を浴びた。乾が左ワイドからの横パスを左中央で受けると、切り返しから右サイドのDF岸本武流へ大きくサイドチェンジ。その時、関口は乾の数メートル前におり、乾から展開されたボールを見ていた。
すると岸本がワントラップからインカーブのクロスを上げ、そのボールがファーサイドの関口の元に飛んできた。ヘディングでクリアしようとした瞬間、背後から一気に中に入ってきた乾の姿が。
完全に前に入られてのダイビングヘッドがゴール左隅に突き刺さる。そして関口は自分より小柄な乾に吹っ飛ばされて、倒れながらゴールネットに吸い込まれるボールを見つめることしかできなかった。
【動画】関口が乾に吹っ飛ばされたシーン
この試合、これが決勝点となって大宮は0-3の完敗を喫した。関口自身も62分に交代を告げられるなど、ほろ苦すぎるデビュー戦だったが、彼がこれで得た経験は非常に大きなものだった。
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清水戦から8日後、関口は山梨学院大のユニホームを身に纏い、左腕にキャプテンマークを巻いて関東大学リーグ2部の早稲田大戦のピッチに立っていた。
ポジションはボランチ。早稲田大の攻撃に対して、鋭い読みからの寄せを駆使して中盤で壁を築くと、奪ったボールを素早く前に繋げてカウンターの起点になった。さらに2トップをサポートするために積極的に前に飛び出して、高い位置でのプレーも光った。
関口の幅広い守備網と攻守を繋ぐプレーがチームを活性化させ、昨年まで1部リーグだった早稲田大に2-0で勝利。
「今日の試合は守備をしっかりとするという役割があったので、まずは守備を安定させることを意識してプレーしました」
会心の勝利後、関口がこう口を開くと、改めて清水戦の失点シーンについて聞いてみた。
「乾さんが左に展開したあと、僕は真ん中のチアゴ・サンタナ選手を見ていました。乾選手がファーに来ていることは分かったのですが、完全に僕の死角から入られてしまってやられてしまいました」
この一連のプレーには、乾の巧妙な駆け引きがあった。左サイドに展開したあと、乾はファーサイドを狙いながらも、関口の視野に自分が入っていることを察知して、一度背後のスペースを狙っているように見せかけるために潜り込んでから、クロスが届く手前で一気に前に出てきてヘッドで合わせた。完全に駆け引きで上回られての失点だった。
「あのシーンはボールウォッチャーになってしまう僕の課題が完全に浮き彫りになりました。その後に失点シーンの映像を見て、ボールだけではなく、もっと空間を把握して、身体を開いて乾さんとボールを捉えながら対応すべきでした。でも、あの時の僕はボールが上がった時には乾さんを完全に見失っていました。課題をつかれての失点は悔しいです」
いきなりの右サイドバックというポジションとタスクをきちんと受け止め、言い訳を一切せずに何が足りなかったのか、どうすべきだったのかを考える。これこそが関口の最大の魅力と言えよう。
「どのポジションでも評価されたということは何かがあると思ったので、ポジティブに捉えています」と語るように、関口は常に与えられたポジションで、与えられたタスクをしっかりと把握をして実践できる力を持っている。
彼に「いろんなポジションをやることは楽しい?」と聞くと、「めちゃくちゃ楽しいです」と屈託のない笑顔が返ってきた。
「最初はできないことが多いですが、それができるようになってきた時とか、そのポジションで自分の武器を出せた時ですね。どれも楽しいので、嫌な気持ちでやっていることは一切ありませんし、全て自分のためになると思っていました。どこでも楽しめるのが僕の強みだと思います」
5月3日の第13節・FC町田ゼルビア戦でも、88分に途中出場で右サイドバックに入り、わずかな時間であったが、2度目のプロのピッチに立った。
これから先も大学とプロの2足の草鞋を履き、それぞれに求められたポジションとタスクをこなすことになる。どれも楽しみながら成長していくことは間違いないだけに、また次の機会に何を得られたのかを話すことが楽しみでならない。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
【PHOTO】GWもJリーグ!大宮アルディージャサポーター!!
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