EL出場決定も三笘薫は複雑な表情を浮かべたままで…滲み出る飽くなき向上心と静かな情熱【現地発】

EL出場決定も三笘薫は複雑な表情を浮かべたままで…滲み出る飽くなき向上心と静かな情熱【現地発】

1-1ドローのシティ戦も奮戦した三笘。(C)Getty Images



 ブライトンの三笘薫が、複雑な表情を見せた。

 5月24日に行なわれたマンチェスター・シティ戦で、ブライトンは1-1の引き分けで試合を終えた。勝点1を積み上げることに成功し、クラブ史上最高位となる6位の座を確定した。

 この結果、来季の欧州リーグ(EL)出場権を獲得し、スタジアムは歓喜に沸いた。試合後、本拠地アメックス・スタジアムでは欧州リーグのアンセムが流れ、サポーターはクラブ史上初となる“ヨーロッパ参戦”の祝賀ムードに包まれた。三笘を含む選手たちも笑顔で場内を一周し、サポーターの声援に拍手で応えた。

 選手たちが控え室に戻ってきても、お祭り騒ぎは続く。この日はドレッシングルームの様子が英衛星放送スカイスポーツで生中継され、ロベルト・デ・ゼルビ監督の掛け声を合図に、選手たちがダンス。2022年ワールドカップ・カタール大会でイングランド代表も得点時に使用したダンスチューン「Freed From Desire(欲望からの解放)」(1996年)に合わせ、三笘も身体を揺らして欧州リーグ出場を喜んだ。

 そして、試合終了から約50分後──。三笘が取材エリアに現われた。記者陣は喜びの声を期待し、早速、ある記者が「欧州リーグの出場が決まりましたね。おめでとうございます」と声をかけた。三笘は小さな声で「ありがとうございます」と返す。「強豪の多いプレミアで、欧州リーグ出場を勝ち取りましたね」と問われると、26歳のアタッカーは次のように語った。

「すごく良いシーズンを送ったと思います。でもチャンピオンズリーグも狙える位置につけていたので、そこの悔しさもありますけど。欧州リーグを確定できたのは、すごく良かったです。(記者:CLの意識のほうが強かった?)そうですね。チャンスがあったので。そこはもちろん狙ってました」
 
 このあたりで、筆者は「おや?」と思った。三笘の声は小さいままで、笑顔を見せることもない。ひとつの質問に対し、短く答えるその様子は、まるで敗戦後のようだ。CLはプレミアリーグの上位4チームに出場権が与えられるヨーロッパ最高の大会。その下の位置づけであるELには、今季の場合、5~6位の2チームが出場できる。

 なので、もう少し深く突っ込んで聞いてみた。「試合が終わった後、ELのアンセムが場内で流れた。アンセムを聞き、来季に向けて何か思うことはあったか」。三笘は表情を崩さないまま静かに言葉を続けた。

「うーん…ちょっとCLのほうが嬉しいですけど。ELも素晴らしい大会ですし、あの音楽を毎回聞けるというのは、なかなかないことなので。それは楽しみにしてます。(記者:CLは、やはり三笘選手にとって大きな目標だったのか?)もちろん、そうですね。やれるチャンスがありましたし、そこは常に思ってました」

 ここで、なるほど、と思った。EL出場決定に一定の喜びを示しながらも、プレミア4位まで出場できるCL出場権は逃した。それゆえ、三笘は複雑な表情を浮かべていたのだ。三笘は強い気持ちで、欧州最高峰の舞台を目ざしていたのである。

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 取材ノートをめくって確認すると、ブライトンがCL圏内に最も近づいたのは、4月4日に敵地で行なわれたボーンマス戦後だった。2-0の勝利を収めると、ブライトンは6位に浮上。当時4位のトッテナムに4ポイント差まで迫った。しかもトッテナムより、ブライトンはこの時点で試合数が2つも少なかった。

 そのボーンマス戦後、「CL出場圏が視界に入ってきましたね」と尋ねられると、三笘はこう答えている。

「もちろんそこは狙ってます。ただ、まだ十数試合ある。すぐ順位は転がりますし、上位との対戦が始まれば、もっと厳しい戦いになる。負けないことも大事ですし、直接対決のところで勝っていければ、もっと優位になる。次の試合(=トッテナム)が大事ですね。しっかりと勝ちを狙っていきたい」

 ここからブライトンの戦いは不安定になった。誤審の影響が大きかったトッテナム戦(4月8日)は1-2で敗戦。次節のチェルシー戦(4月15日)は敵地で貴重な勝利を収めたが、聖地ウェンブリー・スタジアムで行なわれたFAカップ・準決勝マンチェスター・ユナイテッド戦(4月23日)は延長の末にPKで敗れた。
 
 中2日の疲労困憊の状態で臨んだノッティンガム・フォレスト戦(4月26日)を1-3で落とすと、その後は勝ちと負けを交互に繰り返す、苦しい戦いを強いられた。

 この期間について、三笘は次のように振り返る。

「直接対決を含め、負け試合だったり、勝ちを引き分けにしてしまう試合もあった。そういうところかなと思います。(記者:その期間の自身のプレーは?)連戦のところで、コンディションを整えないといけないという課題も出ました。パフォーマンスを安定させないといけないところや、アウェーの難しさも感じてます。もっと数字(=結果)を出さないと、とも思ってます」

 三笘は厳しい言葉を繰り返したが、悲観的になる必要はまったくないだろう。ブライトンのクラブ規模は、予算や選手報酬を含めてプレミアリーグ最小クラスである。FA杯において準決勝まで勝ち進んだことでの日程変更で、特に4月からは超過密スケジュールでの戦いを強いられた。

 しかもブライトンは、もともと少数精鋭のスカッドで毎週2試合をこなせるほど選手層が厚くない。実際シーズン終盤は、チーム全体に疲労の影響がはっきりと見て取れた。

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 それだけに「欧州リーグ出場は偉大な功績」と胸を張った、デ・ゼルビ監督の言葉のほうが実情に沿っている。イタリア人指揮官は「ビッグクラブがプレミアで優勝するより、我々のほうがはるかに価値がある」と述べ、資金力のある強豪クラブ、つまりマンチェスター・Cやアーセナル、リバプール、マンチェスター・Uが国内制覇を成し遂げるより、自分たちの欧州リーグ出場のほうが難易度は高いと語った。

 それでも、三笘は自らに高いハードルを課していた。サムライ戦士はシーズン終盤の連戦でほぼ出ずっぱりだったが、そのハードスケジュールでも自身のパフォーマンスを追求すべきと力を込めた。

「左サイド(の選手)があまりいないので、連続出場も承知の上です。そのなかでやらないといけない。そこで、高いクオリティを出せるのが良い選手だと思っている。良い経験になっています」
 
 三笘の表情を曇らせた理由は、それだけではなかったように思う。本人が「全然(だめ)です。相手が強かったですし、なかなかチャンスを作れなかった」と嘆いたように、イングランド代表DFカイル・ウォーカーとのマッチアップで思うような突破ができなかったことにも、納得していない様子だった。

 取材エリアに顔を出したブライトンの選手たちが一様に笑みを浮かべていたなか、三笘が見せた複雑な表情は非常に対照的だった。飽くなき向上心で、CL出場を本気で目ざしていた三笘の静かな情熱がこちらにも伝わってきた。

取材・文●田嶋コウスケ

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