【千葉L】大怪我から復活した千葉玲海菜のシーズン最終戦への想い。周囲への感謝、そしてW杯メンバー滑り込みへ
2023年05月30日 20時57分サッカーダイジェストWeb

昨季の大怪我から復帰を果たした千葉。多くの想いを感じながらピッチに戻ることができた。(C)WE LEAGUE
シーズン佳境を迎えたWEリーグにおいて、試合数の関係(11チーム制の関係で各節、試合を開催しないチームが出る)で、6月4日にひと足先にホーム(フクアリ)でシーズン最終戦を迎えるのがジェフユナイテッド市原・千葉レディースである。
19試合を戦って4勝8分7敗の6位。もっともチーム一体となった攻守での粘り強い戦い方は真骨頂であり、楽しみなタレントたちも数多く在籍。なかでも今夏のワールドカップへ、滑り込みでのメンバー入りが期待されるのがFW千葉玲海菜だ。
それまでも特別指定選手としてプレーしつつ、2022年3月に筑波大を卒業し、正式に千葉Lの一員となった162センチのFWは、自慢のスピードを生かすかのように、一気に階段を駆け上っていった。
秋春制を採用するWEリーグにあって、3月といえばシーズンの半ば。彼女にとってのプロ1年目、2021-2022シーズンは、2022年3月5日の12節・三菱重工浦和レッズレディース戦でデビューを果たすと、3月21日の14節・サンフレッチェ広島レジーナ戦から3試合連続ゴールとなる計4得点をマーク。
すると同年4月に行なわれたなでしこジャパン候補のトレーニングキャンプに追加招集され、6月の欧州遠征のメンバー入りも果たす。そして6月24日のフィンランド戦で初キャップを刻むと、ゴールを奪う華々しいデビューを演じたのである。続く7月のE-1選手権でも3試合で1得点を奪った。
結果的に千葉Lでのデビューシーズンでは10試合・6得点という成績で存在感を放ったのだ。ここからさらにその成長は加速するはず。周囲はそう信じていたに違いない。
しかし、まさに好事魔多し。新たなスター候補に悲劇が降りかかったのは9月24日のトレーニングゲームだった。右膝前十字靱帯損傷。全治8か月と診断される重傷だった。
千葉にとっては選手人生初の大怪我だった。それでも生来のポジティブさがここでも発揮される。
「悔しさはありましたよ。でも、めちゃくちゃショックだったかというと、そうではなくて。何か得られるものはあると信じて、前向きな気持ちでやろうと考えていましたね」
明るい性格は兄と妹に挟まれた一家、そして選手寮で暮らした学生時代で培ったという。真面目な父親と「天然というかいつもボケている」という母のもと、そして常に前向きな仲間たちのなかで、自らの意見をしっかり持ちながら育ってきた。
だからこそ「両親は自分のやりたいことをやらせてくれましたし、周囲の人たちにも感謝しかないですね」と話し、大怪我を負った際にも学生時代にサッカーで前十字靭帯を2回切ったという兄から「俺もやっているから大丈夫」と、メッセージが届いたという。
「自分がしっかりしないと」と、能天気に映ることもあるという千葉家の面々。それでも彼女が深刻になりすぎずに前を向けたのは、そんな家族がいたからこそだろう。
さらに強力なリハビリ仲間もいた。同時期に負傷していた千葉LのキャプテンCB林香奈絵である。
「香奈絵さんがいてくれたのは本当に大きかったです。香奈絵さんはマイペースで、自分はせっかち。お互い声を掛け合いながら、本当にキツイ時もありましたが、ふたりだからこそ乗り越えてきました。
香奈絵さんもすごくポジティブな人なんです。ネガティブなことを絶対に言わないので。その性格にもすごく救われました。ひとりだったらやっぱりしんどかったですよね。
チームが上手くいかない時に、どうしようもできないもどかしさがありました。それを香奈絵さんとだからこそ共有できましたし、復帰したら自分らが頑張ろうと、励まし合いました。香奈絵さんは本当にチームのことを考えているキャプテン。感謝しかないです。私が怪我した時も自分のように悲しんでくれましたから」
そうした多くの支えがあったからこそ、千葉は予定よりも早くピッチに戻ることができたのだろう。
「手術後、最初は膝がまったく動かなくて、『これ本当に治るの?」っていう感覚でした。でも大きな問題なくリハビリを進められて、本当なら6月4日あたりが全治期間(8か月)で、そのくらいに復帰できれば良いかなと考えていましたが、ゴールデンウィークに復帰できた。本当、周囲のお陰で順調に戻ることができました」
元来、緊張をすることは滅多にないという。
それでも復帰戦となった5月3日の16節・日テレ・東京ベレーザ戦は、「この膝は本当に大丈夫なのか」と不安に襲われたという。
周囲からは「玲海菜は無理をしちゃうからまずは70パーセントで良いからね」なんてアドバイスをされながら、出番を待った。
名前を呼ばれたのは0-0のスコアレスで迎えた76分。福島から家族も駆けつけてくれたなか、千葉は大きな一歩を踏み出した。
「復帰して1、2試合目は、まだ感覚が戻らないなという状態だったのですが、今はプレーも続けられて、徐々に戻りつつあるという印象です。
不足していたのは、やっぱりゲーム感。ゴールの場所と大きさ、味方との関係性、リハビリ中では見えなかった光景がピッチの上には広がっていました。一瞬の判断、仕掛けたほうが良いのか、自分の長所をどう生かしていくのかなど、そういう面をすごく考えました。
以前はこういう時にどうしていたっけ? という場面がまだあるんです。そこは練習でたくさんチャレンジするしかありません。いろんな角度からシュートを打ったり。徐々に慣れてきたなという感じではありますね」
それでも待望の瞬間は復帰から3戦目、5月13日のノジマステラ相模原戦で訪れた。スタメン出場を果たすと、24分には「いつもなら打っていると思うんですが、パスをもらえたんです」と10番の鴨川実歩のお膳立てからネットを揺らす。
さらに37分には左サイドからスピードを生かして自ら持ち込み、GKとの駆け引きを制した。
「やっぱりゴールって最高でした。リハビリ中も復帰してゴールを取る姿を描いて頑張ってきたので、やってきて良かったなと報われた瞬間でしたね」
笑顔が弾ける。
続く5月21日の三菱重工浦和レッズレディース戦では、大学の大先輩で助教授として、自身の卒論も見てもらったという安藤梢ともマッチアップ。
FW登録ながら最終ラインの中央で起用されている安藤に対してリスペクトしながら果敢に仕掛け、千葉はPKを奪取。しかしこのPKを外してしまい、チームは首位争いを演じる浦和に0-3で敗れる悔しさを味わった。
ピッチに入れば「もう忘れていました」と笑うが、この日はなでしこジャパンを率いる池田太監督が視察にも訪れていた。
もっともこうした経験は、すべてピッチに立ったからこそ味わえる刺激である。
改めて千葉は復帰後の5試合で3ゴールという決定力を示したのだ。
そして6月4日(日)、シーズン最終戦として迎えるのが、ホームでの21節・INAC神戸レオネッサ戦(フクダ電子アリーナ)だ。
「まだまだ順位が確定していないですし、少しでも順位を上げたい。だから落とせない試合ですね。今できることをやっていくだけです」と千葉も意気込む。
チームの魅力は「献身的に走れるところ。一丸となって組織的に戦い、ワンチャンス、ツーチャンスをモノにできれば、勝てるチームだと思います。それを示したいです」と語り、「ゴール前の守備の堅さ。キャプテンの香奈絵さんが復帰してから特にチームの良さになっていますし、やっぱり自分が出たら速攻やカウンターを見せたいですね。ゴール前にも上手い選手がいるので、そこをみなさんに見て欲しいです」とアピールする。
千葉自身は7月20日からニュージーランドとオーストラリアで開催されるワールドカップへ向けて滑り込みでのメンバー入りも期待される。
かつてなでしこジャパンが世界一に輝いた2011年、福島に住んでいた千葉家は、東日本大震災の影響で「津波は大丈夫だったのですが、放射線量の影響で、少し避難もしていた」という。
そのなかで記憶は曖昧だが、トレセン参加中に見た先輩たちがワールドカップトロフィーを掲げる姿は、どこか現実味がなく、それでも凄さは伝わってきたという。
今は「もちろんそこを目指していますが、焦らずに、無理をしてもしょうがないので、自分にできることをやって、その結果、ワールドカップのメンバーに選ばれれば、そこで頑張りたいです。何より再断裂しないように気を付けること。まずはそこですね」
考えは一貫している。
ただし夢の舞台である。
「ワールドカップに立てるチャンスが自分に訪れるなんて思ってもなかったです。自分には4年後もあるはずですが、今、経験できるなら経験したい。日本を背負って戦う責任は重いと思いますが、プレーできる喜びがあります」
今季、最終戦、チームのために戦う姿が、もしかしたら世界への道へつながるのかもしれない。だからこそ、その一挙手一投足には注目が集まる。
筑波大時には一躍時の人となった先輩の三笘薫の姿も目にしていた。「自分もいつか三笘さんのように」。
24歳の千葉玲海菜のサクセスストーリーは、改めてここか始まるのかもしれない。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
■ジェフユナイテッド市原・千葉レディース最終戦情報
第21節 6月4日(日)
13:00 KICKOFF
フクダ電子アリーナ
チケット情報
招待チケットも(応募締切:5月30日(火)23時59分まで)
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