監督業はJ1からJFLまで11クラブで28年。「ワシはこれしかできんからね」。名将・石﨑信弘が考える今季J3と八戸のチーム強化
2023年06月01日 08時39分サッカーダイジェストWeb

J3八戸を率いる石﨑監督。走力とアグレッシブさを武器とするチーム作りや選手育成に定評のある指揮官だ。写真提供:ヴァンラーレ八戸
3月3日の開幕から、間もなく3か月が経過する2023年J3。昨季は惜しくもJ2昇格を逃した鹿児島ユナイテッドFCが、11節終了時点で首位に立っている。
だが、上位10チームが勝点6差以内にひしめく大混戦で、現時点では「本命不在」という印象が色濃く感じられる。
こうしたなか、大健闘しているのが、ヴァンラーレ八戸だ。2019年のJ3昇格以降、一桁順位でフィニッシュしたことは一度もなかったが、今季はじわじわと順位を上げて目下、7位につけている。
2022年度のチーム人件費が1億800万円と下から4番目のプロヴィンチャのクラブが上位で戦えているのは、やはり今季就任した石﨑信弘監督の手腕によるところが大だろう。
ご存じの通り、石﨑監督は95年にモンテディオ山形の前身であるNEC山形で指揮を執り始めて以来、大分トリニータ、川崎フロンターレ、清水エスパルス、東京ヴェルディ、柏レイソル、コンサドーレ札幌、山形、テゲバジャーロ宮崎、藤枝MYFC、カターレ富山、八戸と、J1からJFLまでの11クラブで28年間、現場に立ち続けてきた重鎮。今年でJリーグ発足30周年を迎えたが、そのほとんどを監督として過ごした稀有な存在だ。
「ワシはこれしかできんからね。でも有名なクラブには行ったことないから」と苦笑する石﨑監督。その長いキャリアの中でも、八戸は規模的に最小レベルに入る。今季のメンバーを見ても、J1経験者、年代別代表経験者などは皆無に近い。それでも選手個々の特性を見極め、最高のパフォーマンスを引き出すようなマネジメントを見せているのだ。
「今季のJ3を見ると、お金のあるクラブとないクラブがあって、戦力の違いもある。選手をどう活かしているかというのはまた別の話だけど、お金がないクラブはやっぱり厳しいよね。我々も『J2昇格』を目標に戦っているけど、今は怪我人がすごく多いし、何人か使えない選手が出ると、選手層的にはかなり厳しくなる。そういうなかでも自分のポリシーを変えずにやってます」と、百戦錬磨のベテラン指導者は神妙な面持ちで言う。
石﨑監督が重視しているのは、強固な守備と相手ゴールに迫っていく鋭い攻めだ。サッカーの基本原則を植え付けるべく奮闘中だという。
「ワシのサッカーはまずベースがディフェンス。今は攻撃の部分でポジショナルプレーだとか、ハーフスペースだとかいろいろ言われるけど、やっぱりボールを奪いに行く守備をしていくことが第一。それは昔からずっと変わっていないです。
そのうえで、攻撃面ではシュートを打つことが大目標。いかに相手ゴールまで攻め込んでシュートに持ち込むかが大事。ポゼッションに目的が行ってしまって、シュートを打てるチャンスがあるのに、またキーパーまで下げてしまうとかはあんまり好きじゃない。とにかくフィニッシュまで持ち込むことを選手たちに徹底しています」
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石﨑監督が率いるチームというのは、どこも走力とアグレッシブさで敵を凌駕するイメージが強いが、それは八戸も同じ。今季のJ3でも、相手チームの選手が足をつって倒れていても、八戸の選手は誰1人倒れることなく最後まで走り抜けるフィジカルベースを備えている。そこが大きな強みである。
「ボールなしの走りは、フィジカルコーチの仕事だからワシはやらないけど、ボールを使ったフィジテク(フィジカルと技術を兼ねた練習)や、切り替えや走力の求められるゲーム形式なんかを数多くやってますよ。J3は週1ペースだし、むしろ選手たちを鍛えなきゃいけないと思うからね。
サッカーっていうのは、ただ走ればいいわけじゃないし、11人の中にはある程度、核になる選手がいて、その周りを一生懸命働く人が支えてこそ機能する。よくオシムさんが言っていた『水を運ぶ人』が必要なんだよね。全部が全部、水を運ぶ人だったら試合がつまらなくなるだろうけど、やっぱりバランスの取れたチームにしなきゃいけない。そう思いながら強化を進めてますよ」
その道のりはやはり険しい。豪華な戦力を整えられる資金力のあるクラブでも簡単に勝てないのに、プロヴィンチャの八戸ならばなおさらだ。石﨑監督としては、一定の強化期間が欲しいと望んでいるが、昨今は結果を急ぐクラブ経営陣や強化スタッフ、サポーターが増え、時間的余裕がどんどんなくなっている。昨季の富山でも、5位にいながら途中解任される経験をしている指揮官は、現実の厳しさを痛感する日々だという。
「プロサッカーチームを率いている以上、勝たないといけないのは確かだよね。でも最近はちょっと我慢が足りないような気もします。
自分が過去に率いたチームを見ても、大分、川崎、柏で3年、札幌で4年やってます。大分と川崎はJ1昇格させられなかったけど、柏は1年、札幌は3年で昇格にこぎつけている。最初と2度目の山形もある程度、時間がかかっています。現場の監督としては、新しい取り組みをスタートさせて、すぐに結果を出すというのは本当に難しい。そのことはもう少しみんなに理解してほしいと思いますね」
今季の八戸もここからが本当の戦い。気温の上がる夏場が正念場だ。そこで石﨑流の走るサッカーが機能すれば、それほど時間がかからずして目標を達成できる可能性もないとは言えない。
65歳のベテラン指揮官にはどうしても期待してしまう。百戦錬磨の男のマネジメント術を興味深く見守りたいものである(続く)。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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