「すごい良かったかな」同点弾演出の鎌田大地はフランクフルトのブンデスリーガ最終節に何を感じたか【現地発】

「すごい良かったかな」同点弾演出の鎌田大地はフランクフルトのブンデスリーガ最終節に何を感じたか【現地発】

最終節で今季ブンデスリーガ6アシスト目を決めた鎌田大地。(C)Getty Images



 最後に笑ったのはフランクフルトだった。2022-23シーズンのブンデスリーガ最終節、チャンピオンズリーグ(CL)出場の可能性を残していたフライブルクを相手に先制を許しながら2-1の逆転勝利。18チーム中7位でフィニッシュした。

 その日も当たり前のように5万500人と満員になったフランクフルトのホーム、ドイチェバンク・パルクは、試合開始前からファンの大声援がピッチに降り注いでた。この最終節が持つ意味は小さくない。来季、ヨーロッパの舞台に立てるかどうかがかかっているからだ。

 21-22シーズンのヨーロッパリーグを制覇したフランクフルトは今季、CLにクラブ史上初出場(前身のチャンピオンズカップを除く)。トッテナム、マルセイユ、スポルティングと難敵揃いのグループステージを見事に突破した。

 ラウンド・オブ16のナポリ戦で力尽きたものの、その勇敢でチャレンジ精神に満ち溢れた戦いぶりに、ファンは惜しむことなく心を込めた拍手を送ったものだ。

【動画】鎌田が「あれはすごかった」と唸る同点弾
 
 シーズン前半はCLだけでなく、国内リーグでも健闘。4位で折り返し地点(17節終了)を迎え、最高のシーズンになることが期待された。だがワールドカップ(W杯)後、今年に入って調子を落としてしまい、一時はリーグ10戦未勝利と完全に迷路に迷い込んだ。それでも32節のマインツ戦で11試合ぶりの勝利(3-0)。最終節でヴォルフスブルクが敗れたうえで、自分たちが勝てば逆転の7位フィニッシュという状況まで持ち込んだ。

 7位チームにはヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)の出場権が与えられる。CL、ELと比べたら魅力が劣るコンペティションかもしれないが、それでもフランクフルトにとっては重要な欧州カップ戦だ。RBライプツィヒと激突するDFBポカール決勝で勝てば、国内カップ戦の優勝チームに付与されるEL出場権を得られる。ただ、ブンデスリーガでヨーロッパ行きを確定させておきたい。それがチーム関係者全員に共通する思いだった。

 フライブルク戦では元日本代表キャプテンの長谷部誠が3バックのセンター、日本代表MF鎌田大地は2ボランチの一角でスタメン出場。ともに攻守に存在感を発揮した。長谷部は相変わらずの安定感で守備陣を統率し、抜け目なく突破を図ろうとするフライブルク攻撃陣の前で壁となって立ちふさがる。攻撃でも随所にインテリジェンスを感じさせる鋭いパスで起点となった。
 
 一方の鎌田は全体のバランスを見ながら、中盤のスペースをこまめに移動しながら攻撃を構築。ボールを引き出す、つなぐ、運ぶ。ゲームを作る、動かす。スペースに抜け出す。

 それでいて守備時の対応もソツがない。鎌田が相手に狙われそうなスペースを未然に察知してしっかりと埋めているので、フライブルクがダイレクトなカウンターにいけない場面がいくつもあった。この日、チームメイトのマリオ・ゲッツェに次ぐ総走行距離(12.18キロメートル)を記録したように、鎌田の運動量は文字通り豊富だった。

 怪我でしばらく離脱していたデンマーク代表MFイェスパー・リンストロームが復帰し、フランス代表FWランダル・コロ・ミュアニ、そしてゲッツェと組む“オフェンシブ・トライアングル”が復活したのも大きかったかもしれない。前線に受け手が増えたことで、鎌田がタイミングよく前線のスペースに顔を出してボールを受け取るシーンがよく見られたのだ。

 鎌田は試合後に次のように語っている。

「前半戦はほとんどメンバーを変えずにうまくプレーできたと思いますけど、後半戦はチームも個人も前半戦のようなプレーができず、なかなか難しい時間もありました。それでも最低限の順位で終えられたし、ドイツカップ(DFBポカール)でも決勝まで勝ち進んでいる。決勝で勝てれば、シーズンを通して良かったと言えると思います」
 
 フライブルクに先制点を許す苦しい展開に希望の光をもたらしたのも鎌田だ。83分、右サイドでボールをもらうと、素早い動作からファーポストへ素晴らしいクロスを送る。そして相手マークを外したコロ・ミュアニが打点の高いヘディングシュートでゴールネットを揺らした。鎌田自身がそのシーンを振り返る。

「その前のシーンで監督にあそこからすぐにクロスを上げろと言われていて、その次のプレーだったので。とくにどこに上げたというわけではないですけど、クロスを上げたら入ったんで。あれに関してはコロがすごかったと思うし、感謝という感じですね」

 もちろん、ドイチェバンク・パルクは同点ゴールにお祭り騒ぎ。しかも他会場ではヴォルフスブルクが、最下位ヘルタ・ベルリンになんとリードを許している。このまま勝てばヨーロッパに手が届く。ファンの声援がさらに大きくなる。

【動画】鎌田が「あれはすごかった」と唸る同点弾
 こうなるとフランクフルトは止まらない。迎えたアディショナルタイム、ついに逆転に成功する。ゲッツェのクロスが抜けてきたところに飛び込んだのは、途中出場のMFジュニオール・ディナ・エビンベ!

 スタジアム中のファンが立ち上がり、飛び上がり、抱き合って、喜びあっている姿が目に飛び込んできた。クラブマフラーを誇らしげに掲げ、言葉にならない叫び声をあげているファンもいる。
 
 感情が力になる――。それを現実に示すフランクフルトがそこにいた。

「今日の試合内容自体は褒めれるようなものではなかったですし、すごく暑くて、両チームともいい試合をしたと言い難いような内容でしたけど、終わりよければすべてよしではないですけど、最低限のカンファレンス(ECL出場権)は獲れましたし、良い感じで最後のカップ決勝に挑める。すごい良かったかなと思います」

 フランクフルトは来季もヨーロッパを飛び回る。喜びと興奮と希望とともに――。

取材・文●中野吉之伴

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