全国トップクラスの理数科で学ぶ清水東CB前田凌の葛藤「最後までやり切るか、それとも…」サッカーに打ち込むため死に物狂いで勉強
2023年06月06日 14時47分サッカーダイジェストWeb

頭脳明晰な清水東のCB前田。対人と空中戦の強さ、巧みなラインコントロールにも秀でるディフェンスリーダーだ。写真:安藤隆人
静岡学園の劇的な逆転勝利で幕を閉じたインターハイ静岡県予選。決勝の相手、清水桜が丘に準決勝で敗れた清水東に、前田凌というCBがいる。
対人と空中戦の強さ、巧みなラインコントロールを駆使して最終ラインを統率するディフェンスリーダーだが、清水桜が丘戦では前半のうちにセットプレーから2失点するなど、苦しい状況に追まれた。
後半、前田はFWに上がって10番のFW山崎太耀と2トップを組むと、空中戦の強さをポストプレーで活かし、前への推進力を見せて同点ゴール、逆転ゴールを目ざして何度もゴールに迫った。しかし、チームは1点を返すに留まり、チームは準決勝敗退を喫した。
「本気で全国を目ざしていたので悔しいです」
試合後、前田は唇を噛んだが、彼はこの試合によって心の中に大きな迷いが生じていた。
「周りは高いレベルの大学を目ざしていて、僕はサッカーをこのままやっていて大丈夫なのかという不安もあります。でも、これで桜が丘には今年に入って公式戦で4連敗してしまったので、最後(選手権予選)は絶対に勝って全国に出たいという気持ちがある。このままで終われない気持ちもあるし、現実も見ないといけない。葛藤しています」
清水東と言えば、インターハイ優勝4回、選手権は優勝1回、準優勝3回という実績を持ち、OBも長澤和明(元日本代表、女優・長澤まさみの父)、大木武(ロアッソ熊本監督)、反町康治(日本サッカー協会技術委員長)、長谷川健太(名古屋グランパス監督)、野々村芳和(Jリーグチェアマン)を筆頭に、相馬直樹、西澤明訓、高原直泰、内田篤人と4人のワールドカップ戦士も世に輩出した名門中の名門。その一方で、県トップクラスの進学校であり、インターハイを最後に受験に専念する部員も多い。
そのなかで前田はさらに精鋭たちが集まる理数科に所属している。清水東の理数科は静岡のトップ中のトップであり、全国的に見てもトップクラスの学力レベルを誇るクラス。2004年度には文部科学省からスーパーサイエンスハイスクールに指定されると、3年単位の指定だが、清水東は今もずっと指定を受け続けている唯一の学校だ。
「なりたい職業が決まっていて、大学でマーケティングやマネジメントを学びたいんです」と語るように、前田は難関大学でハイレベルな経営学やマネジメント論を学ぶべく、日々勉学に励んでいる。
清水東の理数科としての勉強とサッカーの両立は想像を絶するほど難しい。だが、それをできないと決めつけるのではなく、「どうやったらできるか」を具体的に考えてチャレンジしてきた。
「隙間時間を何よりも大事にしてきました。サッカーに打ち込める時間を作るために、バスの移動中や電車の中、昼休みでちょっとの時間を見つけて、死に物狂いで勉強をやるしかない。本当に難しいですが、両方充実しています」
だが、前述したとおり、多くの選手が受験に専念するために夏で部活を辞める。前田もここで割り切って高校サッカーを離れるか、それとも残って最後までハイレベルな文武両道をやり遂げるのか、大きな葛藤を抱えている。
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自分自身と真剣に向き合っている彼にとって、1人の尊敬する人物の存在がより葛藤を深くさせていた。
前田が高校1年生の時、3年生に『理数科初の10番』となった佐野健友という偉大な先輩がいた。それまでは理数科でAチームにいること自体が驚かれていたが、佐野は伝統の10番を背負い、チームの絶対的なエースとしてインターハイ予選準優勝の立役者となった。
「佐野さんは結果で示してくれた偉大な先輩。人柄が全然違って、全体の雰囲気を見て自分が率先して動いたり、副キャプテンとして大人の立ち振る舞いをしたり、全てが完璧な人だったので、僕にとって理想の姿です」
佐野は選手権予選までチームのエースとして牽引し、一般受験で筑波大に進学した。その姿を見ているからこそ、佐野の意思を引き継いだ前田は悩んでいる。
「佐野さんの影響はものすごく大きくて、理数科の後輩にも『サッカーをやりたい』という生徒がどんどん増えてきた。僕も佐野さんたちが(インハイ予選で)決勝まで行って、静岡学園をギリギリまで追い込んで負けて(3-3からのPK戦負け)、それをスタンドから見ていて、絶対に借りを返したかった。
桜が丘に勝てば静岡学園とできただけに、心残りというか、不甲斐ない気持ちが強いです。佐野さんのように最後までやり切るか、それとも…。今の気持ちは正直、フィフティ・フィフティです」
今の前田も後輩たちに大きな影響を与えている。だが、その先の人生を決めるのは自分であり、今、何をすべきかを決めるのも自分。それは彼自身がよく理解している。
「この決断はどっちに転ぶか分からないけど、どっちを選んだにしろ、自分で良い方向に持っていくしかないと思っています。向き合うことが大事。とことん迷います。迷って、迷って、良い方向に行きたいです」
彼がどちらの結論を下すかは分からないが、高校3年生にして自分の人生のヴィジョンを当事者として真剣に考えていること自体に大きな意義と価値がある。
前田が下した決断を心からリスペクトしたいし、どちらを選んでも彼の将来に大きな期待を抱くのは私だけではないだろう。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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