G大阪ユース、16年ぶり大会制覇の裏にあった物語。同級生のために戦った3年生の想いと、長期離脱中の主将が見せた会心の笑顔

G大阪ユース、16年ぶり大会制覇の裏にあった物語。同級生のために戦った3年生の想いと、長期離脱中の主将が見せた会心の笑顔

ピッチ外でチームを支えた田中。「本当に仲間には感謝しかない」と語る。写真:松尾祐希



[クラ選決勝]FC東京U-18 3(4PK5)3 G大阪ユース/8月2日/味の素フィールド西が丘

 3年生の想いが、最後の最後に結実した。

 8月2日に行なわれた第47回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会の決勝戦。G大阪ユースとFC東京U-18が対峙したファイナルは、2-2で迎えた後半アディショナルタイムにドラマが待っていた。

 表示された時間は4分。時計の針が4分に差し掛かろうとしたところで、途中出場のG大阪FW武井遼太朗(1年)が相手のクリアボールを拾って左足でネットを揺らす。土壇場で生まれた勝ち越し弾――。誰もが“勝負あり”と思ったが、試合はまだ終わらなかった。

 キックオフ後のプレーがラストプレー。ここからFC東京は懸命にボールを繋ぎ、途中出場のFW吉田綺星(3年)が右サイドからクロスを入れると、最終ラインから駆け上がってきたCB永野修都(2年)がヘディングで押し込み、試合を振り出しに戻したのだ。

 そこから延長戦を戦い、勝負の行方はPK戦へ。互いに2人ずつが失敗して迎えた7人目で、先攻のFC東京はDF佐々木将英(1年)が外してしまう。対するG大阪は遠藤保仁(磐田)を父に持つMF遠藤楓仁(3年)が冷静に決め、2007年度大会以来となる夏の日本一に輝いた。
 
 優勝が決まった瞬間、選手たちは感情を爆発させた。とりわけ、感極まった3年生たちは熱い抱擁を交わし、目を潤ませながら喜びを噛み締める。

 表彰式を経て、ゴール裏で応援に駆けつけたサポーターたちと記念写真を撮影すると、仲間たちに促されてひとりの男がカップを掲げた。本来のキャプテンであるMF田中彪雅(3年)だ。

 少し恥ずかしそうにしながらも仲間と喜びを分かち合い、今までの想いをぶつけるように雄叫びを挙げた。

 今大会のG大阪は下級生が多く先発に名を連ね、3年生のメンバーは半数以下。決して力がなかったわけではないが、怪我人が続出してピッチに立てない選手が多かったのだ。

 その代表格が田中だった。昨年10月に前十字靭帯を断裂。全治8か月の診断でリハビリを余儀なくされる。そうした状況下でも町中大輔監督からキャプテンに指名され、先頭に立ってチームを引っ張る役割を与えられた。

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「和泉(圭保)、宮川(大輝)、張(奥林)が副キャプテンなので、ゲームは彼らに任せて、僕はチームが上手くいかない時にまとめたりして、ピッチ外で戦ってきた」(田中)

 復帰予定は7月。クラブユース選手権を目標に田中は懸命にトレーニングを続けてきたが、サッカーの神様は再び試練を与える。5月に再断裂してしまったのだ。

 その結果、7月下旬のクラブユース選手権はもちろん、今季中のカムバックが不可能に。絶望の淵に立たされ、チームに帯同することも叶わなくなった。

 そうした事態に同級生たちの想いが深まらないわけがない。より結束が強まるきっかけになったという。

「特別な想いはあったので、決勝で絶対に勝って、怪我で出られない仲間に良い景色を見せたいという気持ちはありました。準決勝の前に『絶対に勝ってくれ』というメッセージはもらっていましたし、凄い力になりましたね」(宮川)
 
 田中を含め、怪我を抱えてメンバーから外れていた4人は決勝戦に合わせて夜行バスで東京入り。スタンドから声援を送り、チームをピッチ外からサポートした。

 最後に田中は、チームメイトへの想いを述べた。

「本当に仲間には感謝しかない。正直、プリンスリーグ関西1部でも下位に低迷していて、日本一の景色を観られるとは思っていなかったので。でも、寮で試合を見ていても、本当に強いチームだなと感じて、みんなが格好よく見えた」

 大怪我を負い、人知れず悔し涙も流した。心が折れそうになった時は一度や二度ではない。それでも懸命にリハビリを続け、チームの助けになるべく動いた。その想いは仲間にも伝播。今回の優勝は、田中の存在なくして語れない。

 16年ぶりの日本一はピッチに立った選手だけで成し遂げたわけではない。最高の仲間たちと掴んだ栄冠は一生の宝物だ。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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