「家に帰ったら寝るだけ」J3愛媛の石丸清隆監督は、昇格請負人“ソリさん”から何を学んだ?「勝ちたいなら細部まで手を抜かない」

「家に帰ったら寝るだけ」J3愛媛の石丸清隆監督は、昇格請負人“ソリさん”から何を学んだ?「勝ちたいなら細部まで手を抜かない」

「負けない愛媛」を具現化する石丸監督。J2昇格に向け邁進中だ。(C)EHIMEFC



 ワールドカップ(W杯)経験者のアスルクラロ沼津・中山雅史監督、2022年カタールW杯で日本代表コーチを務めたFC岐阜・上野優作監督、百戦錬磨のベテラン指導者・ヴァンラーレ八戸の石﨑信弘監督ら、多士済々の指揮官参戦で大混戦になっている2023年シーズンのJ3。

 そのなかで、ここまでわずか3敗と「負けない愛媛」を具現化しているのが、愛媛FCの石丸清隆監督だ。

 現役時代には愛媛でも活躍し、引退後は指導者の道に進み、2013~14年は古巣で指揮を執った。2022年に再び愛媛に戻ってきた際、「J3にいる以上、上がらなければ意味がない」と現実路線に舵を切ったが、勝利の重要性を強く感じたのが、松本山雅FCで反町康治監督(現・JFA技術委員長)のもと、トップコーチを務めた2017~19年だったという。

 かつてアルビレックス新潟、湘南ベルマーレ、そして山雅をJ2からJ1に上げた「昇格請負人」。そんな指揮官・反町の参謀になった経緯を、次のように振り返る。

「2013年~14年に愛媛、2015年の途中から2016年にかけて京都サンガで監督をさせてもらって、何度か山雅と対戦しましたけど、サポーターが魅了されているものが、勝ち負けとか、上手い・下手じゃなくて、誰もサボらずサッカーに取り組む姿勢とか、手を抜かない、走り負けないところだと感じていました。

 そういう部分で人々の心を動かすクラブというのは、今までになかった。戦術論やテクニカルな部分に陥りがちだった自分にとっても刺激的だったし、サッカーの原点に気づかせてもらえた気がしました。それと同時に、どうしたらそういうチームを作れるのか疑問に感じていたのも確かです。

 そんな時、アビスパ福岡のつながりで面識のあった山雅の強化担当・南(省吾=現・サンフレッチェ広島強化担当)さんが、『反町さんが監督経験のあるコーチを探している』と僕に声をかけてくれたんです。

 自分は反町さんとは全く面識がなかったけど、ずっと山雅には興味がありましたから、すぐに行く決断をしましたね」
 
 山雅に赴いて生活は一変した。「勝ちたいと思うなら、細部まで手を抜かない」というのをモットーにしていた反町監督は、対戦相手や自チームの分析に徹底的に時間を費やすのが常。当然、コーチングスタッフも寝食を惜しんで映像と向き合うことになった。

「本当に家に帰ったら寝るだけ。睡眠時間も4~5時間というのが日常茶飯事でした。スタッフには分析担当の貝崎(佳祐=現・ベガルタ仙台コーチ)コーチや中川雄二GKコーチ(現・ヴァンフォーレ甲府GKコーチ)たちがいましたけど、本当にずっとクラブハウスにいましたね。家族といるよりも、長い時間をスタッフと過ごしたのは確かです」と石丸監督は苦笑する。

 そうやってスタッフも全身全霊でサッカーと向き合っていたからこそ、選手たちもサボることなく走り続け、120パーセントの力を出せたのだろう。

「選手に『努力しろ』『ハードワークしろ』とよく言いますけど、僕らスタッフもやらないといけないというのは、ソリさんがよく話していたこと。自分たちがやるべきことを1つ1つ、徹底的に突き詰めたからこそ、ああいうチームが生まれた。僕はソリさんのもとで働いて、その重要性をよく理解できた気がしました」と彼はしみじみ言う。

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 2017年の山雅はJ2で8位と、3位でJ1昇格プレーオフに参戦した2016年よりは振るわなかった。しかしながら、髙崎寛之(現・アンテロープ塩尻)が19ゴール、工藤浩平(現・栃木シティ)が8ゴールを挙げるなど、他クラブで停滞していた印象のあったベテランが再ブレイク。「選手は鍛え直せば成長できる」という事実も示したと言っていい。

「髙崎なんかはよくシュート練習にも付き合いましたけど、苦手な形を克服しようと、苦労しながらトライしていましたね。

 彼はもともと鹿島や浦和にいた選手ですけど、『今までやってきたプライドを捨てなきゃいけない』というくらいの気持ちで山雅に来たのかなと思うので、ものすごく貪欲に取り組んでいました。自分を成長させようという勇気があったということでしょうし、その姿をみんなが間近で見ていた。チームにもたらした影響も大きかったと思いますね」と石丸監督を改めて敬意を表していた。

 そういうケースは今の愛媛にもあるという。今年37歳になった森脇良太などは好例だろう。15年ぶりに戻ってきた昨季は8試合の出場にとどまっていたが、今季はここまで17試合に出場。ポジションもDFからボランチに変わり、より多彩な役割を担えるようになってきている。

 ベテランの森脇&矢田旭のボランチコンビは対戦相手にとっても非常に嫌な存在になっているのは間違いない。「選手は年齢に関係なく成長できる」と石丸監督も実感しているという。
 
「森脇にボランチをやらせているのは、彼が気配りや目配りに長けた選手だということが大きいですね。発信力も高いし、チームをよくしようと思っての声掛けもすごくやってくれる。僕らスタッフにしたら、かなり助かる。

 実際、そこまで凄い技術がある選手じゃないかもしれないけど、周りの力を引き出してくれるんです。自分の調子とか、自分が出る・出ないに関係なく、周りを伸ばすように仕向けてくれる存在がいるかどうかは、かなり大きな要素。そういう意味で今季の森脇は頼もしいです」

 ベテランを上手く使いながら、若い選手も育て、チームの総合力を高めていくというアプローチも反町監督譲りだろう。実際、山雅は2018年にJ2制覇を達成。2019年は2度目のJ1に挑戦しながら1年で降格してしまったが、前田大然(現・セルティック)や志知孝明(現・広島)、杉本太郎(現・ヴォルティス徳島)らが着実に成長していった。

 その経験を糧に、今季の愛媛で「負けないしぶとい集団」を作り上げつつある石丸監督。豊富な経験がようやく大きく開花しようとしているのは確かだ。

※第2回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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