ボランチ転身を進言。34歳・金崎夢生が原点回帰「何よりもFC琉球がもっと勝てるようにしたい」

ボランチ転身を進言。34歳・金崎夢生が原点回帰「何よりもFC琉球がもっと勝てるようにしたい」

今季に大分から琉球に加入した金崎。ここまで15試合に出場し、ピッチに立てば熟練のプレーで奮戦する。(C)J.LEAGUE



 2023年のJ3も残り15試合となったが、相変わらずの混戦模様となっている。

 23節終了時点で首位の愛媛FCは勝点44、2位のカターレ富山が同40だが、勝点30台が11チームもあり、今後の展開次第ではJ2昇格圏の顔ぶれが入れ替わる可能性も否定できないのだ。

 1年でのJ2復帰を目ざしているFC琉球は、30台グループの少し下に位置し、勝点28の15位。今季は倉貫一毅監督が率いる新体制でスタートしたものの、10節終了時点で3勝1分6敗と黒星先行の苦境に瀕し、5月15日付けで監督が交代。昨季序盤に指揮を執っていた喜名哲裕監督が復帰する形で現在に至っている。

 しかしながら、その後も急浮上とはいかず、連勝したのは、7月2日のカマタマーレ讃岐戦と9日の松本山雅FC戦だけ。喜名監督は「かなり厳しくなってきているが、ホームで確実に勝点3、アウェーで勝点1を積み上げて、食らいついていくしかない」と語っていたが、何らかの劇的な起爆剤が欲しいところだ。

 そこで1つ、期待されるのが、34歳・金崎夢生のボランチ起用である。ご存じの通り、金崎と言えば、鹿島アントラーズの2016年のJ1制覇、クラブワールドカップ参戦の立役者となった点取り屋だ。

 日本代表でも11試合出場で2ゴールという実績を残している。その彼が今季からJ3に参戦したことは多くのファンを驚かせたが、8月12日のFC大阪戦の80分から中盤で出場。ボールをさばいたり、時には自らが前へ出て行ったりと、新たなリズムをもたらそうと試みていた。
 
 金崎がここまでの流れを説明する。

「シーズンが始まってずっとフォワードでやっていたんですけど、このメンバーで少しでも安定した戦いをして、勝ちを拾っていくなら、自分がボランチに入ってやることがプラスになるんじゃないかなと感じていたんです。

 最初に思ったのは、倉貫さんが代わる少し前。でも前の監督にはフォワードとして取ってもらったんで、自分の考えは伝えませんでした。

 その後、喜名さんのもとで戦っていくなかで、やっぱりチームを変えていかないといけないという思いが強まった。そこで7月22日のY.S.C.C.との試合前日に『自分がボランチをやったほうがいいと思います』と言って、少し話をさせてもらいました。

 喜名さんも理解してくれて、そこからはボランチで練習するようになった。3週間、練習とか練習試合を重ねて、そして8月12日のFC大阪戦という形になりました」

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 とはいえ、彼がコンバートを進言したタイミングで、FC琉球はセレッソ大阪から若いボランチの岡澤昂星を育成型期限付き移籍で獲得。これまで試合に出ていた平松昇、武沢一翔らを含めて選手層が厚くなった。

 となれば、百戦錬磨の金崎が優先的に試合に出られるわけではない。実際、FC大阪戦の後の19日のギラヴァンツ北九州戦を見ても、ベンチ外。喜名監督の中での序列は高いほうとは言えないようだ。

「新しい選手が入って競争が厳しくなるのは、どのチームにもあること。もちろん自分も試合に出たいし、出ればチームのためになるという気持ちもありますけど、他のボランチが出てチームが良くなるなら、それで問題ない。FC琉球が勝てばそれでいいわけですから」と金崎は割り切ってはいるものの、もっと自分の力を出せるという自信は少なからずあるという。

「公式戦だと、FC大阪戦しか見てもらえないからよく分からないだろうけど、練習試合で何回かやって、自分の中では手応えを感じている部分もありますし、修正を重ねていけば良くなるとも感じています。

 今のチームは失点数が多いので、何よりもそこを改善しないといけない。前線の選手が少しでも良さを出せるように後ろ側で守備を支えて、スペースを空けない、ボールを奪うといった仕事でチームを安定化させていければいいと思ってます」と、金崎は守備重視のスタンスを取っていく考えだ。
 
 もともと攻撃力で売ってきた男にしてみれば、それは少し意外ではあるが、弱点を埋めるのもベテランの役割。自分のエゴを前に出すのではなく、少しでもチームが良い方向に進むように黒子役をこなしていく覚悟を持っている。

 確かに周りを見ても、J1のセレッソ大阪では金崎と同い年の香川真司がボランチでチーム全体のかじ取り役を担っているし、同じJ3のY.S.C.C.横浜でも松井大輔が出てくる時は中盤の下がり目が定位置だ。

「年齢を重ねていくに連れて、自分のプレースタイルを変えないと生き残れない」というのは松井や関口訓充(南葛SC)らアラフォーの年長プレーヤーが口を揃えていることだが、金崎にもそういう思いがあるのかもしれない。

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 ただ、改めて考えてみると、滝川二高時代の金崎はボランチで名を馳せたプレーヤー。2007年に大分トリニータ入りした時も、そういう位置づけだった。

 それが、2008年にペリクレス・シャムスカ監督からトップ下に抜擢されたことでプレースタイルが一変。その後、名古屋グランパス時代には右ウイング、鹿島時代には1トップとより前目で起用されていった経緯がある。

 多くの人々にはその鹿島時代のインパクトが非常に大きいのだろうが、本人の中では「自分はもともとボランチ」という気持ちがある。つまり、「今こそ原点回帰を図って琉球を救う」というのが、金崎の大きなモチベーションになっているのだろう。
 
「ある程度、年齢を重ねている選手っていうのは試合数もたくさんこなしていますし、数々の修羅場もくぐってきている。その分、戦況がよく分かるので、周りの選手に指示を出しやすい。ボランチはそういう試合全体を見る目が一番重要だと思うんで、僕もいろいろ声掛けをしています。

 難しいのは守備の部分の戻りであったり、ボールをしっかり奪い切るといったところ。周りを上手に動かすためには、自分もいろんなところに顔を出さないといけないので、攻守にわたって運動量がすごく求められます。そういうところもフォワードとは全然違う。

 フォワードはパワー系だったり、瞬発力だったりが重要ですけど、ボランチは持久力がより求められる。体力をつけたほうがいいに越したことはないので、そのために走ったりもしてますよ。

 僕は何よりもFC琉球がもっと勝てるようにしたいし、そのためにできることは全て取り組みたい。ボランチ転身もその1つのトライだと捉えてます」

 J3のFC琉球という未知なるクラブのために、金崎は全身全霊を注いでいる。そのモチベーションはかつて大分や名古屋、鹿島でタイトルを獲得していた時代とはまったく異なるもの。違ったやりがいを見出しながら、彼は34歳の今と向き合っているのだ。

※第1回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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