遠藤航の確信。「『W杯優勝』という目標を現実にできる」。ドイツ戦で既成概念を打破。特筆すべきは27分のプレー

遠藤航の確信。「『W杯優勝』という目標を現実にできる」。ドイツ戦で既成概念を打破。特筆すべきは27分のプレー

ドイツ戦で出色のパフォーマンスを見せた遠藤。(C)SOCCER DIGEST



[国際親善試合]日本 4-1 ドイツ/9月10日/フォルクスワーゲン・アレーナ

「これからの子どもたちには、『日本は次もドイツに勝てるでしょ』と思ってもらいたいし、それが普通になってほしい。高望みじゃなく、普通にドイツに勝てると思えるような試合をしたいです」

 現地9月9日夜(日本時間10日未明)のドイツ戦に向け、日本代表のキャプテン遠藤航(リバプール)は、そう語気を強めていた。30歳で欧州最高峰リーグに赴いた自分自身の真価が問われることも覚悟のうえで、背番号6は堂々とピッチに立った。

 2022年カタール・ワールドカップのグループステージ初戦でドイツと対戦した時、日本は序盤から劣勢を強いられた。今回も立ち上がりに大迫敬介(広島)を起点としたつなぎのミスなどが出て、不安定な滑り出しを強いられた。

 そのなかで、遠藤はリーダーとしてしっかりとチームを統率。中盤で激しいデュエルで鼓舞した。

「(デュエルは)リバプールに移籍してから、すごく自分に求められている部分。今回はポジションがいつもよりは高めの設定だったけど、相手が入ってきたところを潰すとか、ゴール近くにこぼれてきたところをしっかり捉えるとか、1人剥がされた時に自分がサポートできるようなポジショニングは常に意識してました」と本人も言う。

 遠藤と守田英正(スポルティング)の両ボランチの判断の速さと落ち着き、相手に寄せられても確実にマイボールにする巧みさ、そして良い距離感で日本の中盤は徐々に安定感を増し、ドイツを押し込んでいった。
 
 11分に伊東純也(スタッド・ドゥ・ランス)が先制点を奪い、1点を返されたものの、22分に上田綺世(フェイエノールト)が追加点をゲット。日本はより一層、優位に試合を進めていく。

 その流れを加速させたのが、遠藤がボールを奪いに来たギュンドアン(バルセロナ)を身体で抑えながらキープし、右へ展開した27分のシーン。ドイツ戦のような大一番では、こういう局面局面が勝負を左右するが、遠藤は一見、目立ちはしないものの、極めて重要な仕事を確実に遂行したのである。

「あの場面は(三笘)薫(ブライトン)からボールを受けたと思うけど、あそこでやり直してサイドチェンジを変えられればという狙いがあった。そうすればビルドアップラインを高い位置に設定できるから。

 本当はもう少し、最初は前向きに行ってそのままターンできれば理想だったんですけど、ギュンドアン寄りに身体を上手く当てながら先にボールに触れていた。あそこは一番大事な部分だし、ああいうところで勝てるか勝てないかで状況が大きく変わってくる」と遠藤自身も強調していた。その賢さと戦術眼はまさに圧巻。見る者を大いに安心させてくれた。

 だからこそ、前半は右サイドの伊東や菅原由勢(AZ)らが思い切って前に行けたに違いない。トップ下の鎌田大地(ラツィオ)も右寄りにプレーしたことで攻めに厚みが出て、早い時間帯に2点が生まれたと言っていい。

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 逆に日本から見て左サイドにザネ(バイエルン)が浮いていて、そこで何度も伊藤洋輝(シュツットガルト)がさらされ、危ないシーンを作られた。ただ、それについても遠藤は「(前半の)4枚で守っている感覚は悪くなかったし、それを続けても良かったとは思っていた」と淡々としていた。

 それでも、森保一監督が後半から3バックへのシフトを指示。瞬時に対応したキャプテンは「より守備がハッキリするようになった」と前向きに言う。

 終盤に浅野拓磨(ボーフム)と田中碧(デュッセルドルフ)の追加点が入るまでは、かなり支配され、押し込まれる形が続いたが、「(両ワイドが下がって)5枚で守ればそう簡単にはやられないという自信を僕らは持っている。ドイツに対しても1対1で上回れるというのは、後ろを含めて思っていること。それは所属クラブで結果を残しているという自信から来るものだし、一人ひとりの成長がすごく大きかった」と、個対個でも勝っていたという確信も得たようだ。

 遠藤はまさにその象徴的な存在だった。リバプール移籍からまだ2週間だが、彼はドイツのアンカー役を頭から務めたエムレ・ジャン(ドルトムント)や後半から出てきたグロス(ブライトン)に見劣りするどころか、攻守両面で大きな差をつけていた。

 今後、ユルゲン・クロップ監督のもとで球際の強さやボール奪取力というストロングをさらに磨き、攻撃につながるパス出しや展開に磨きをかけ、ヨーロッパリーグのような欧州の大会も経験していけば、本当に世界有数のボランチになれるだろう。

 それだけの大いなるインパクトを残したし、遠藤がなぜリバプールに求められたのかという理由を、この試合を通して改めて多くの人々に示した。
 
 実際、日本代表として個々のレベルが上がったからこそ、ドイツを圧倒できたのは紛れもない事実。遠藤が試合前に言っていた「今の日本はドイツに勝てる」という現実をしっかりと証明したことで、これまでの既成概念を打破したとも言えるだろう。

「僕は『ワールドカップ優勝』という目標設定を今、現実にできると本気で信じている。キャプテンになってそれを発信したのも、子どもたちに純粋にそう感じてほしいから。こうやって結果が出たことで、彼らに夢を与えられたと思います」とも目を輝かせた遠藤。

 今のドイツがどういう状態であろうと、敵地で4-1の勝利を収めたという事実は、未来永劫、歴史に刻まれるし、日本サッカーの大きな糧になる。それを遠藤という中盤の大黒柱が力強くけん引したことも変わらない。

 ただ、重要なのは、これをどう今後に活かすかだ。さしあたって12日のトルコ戦は中2日のゲーム。今回とはスタメンがガラリと変わるはず。

 遠藤自身、控えに回る可能性もある。そこで戦力やチームとしての連動性が低下してしまったら意味がない。いかにしてチームのスタンダードを維持するか。そのあたりもキャプテンにはしっかりと意思疎通を図り、総合力の高さを示してほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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