希少価値の高いファンタジスタタイプ。STVV伊藤涼太郎は「流されず、ブレずに」己を磨き、さらなる飛躍を期す
2023年09月25日 14時25分サッカーダイジェストWeb

今夏に新潟からSTVVに移籍した伊藤。日本代表入りと5大リーグへのステップアップを目ざし、邁進中だ。(C)STVV
2022年のカタール・ワールドカップから半年以上が経過し、第二次森保ジャパンの強化が順調に進んでいる。
9月にはご存じの通り、ドイツ&トルコという強豪国に欧州の地で連勝。最新のFIFAランキングも19位に上昇するなど、2026年北中米W杯での悲願の8強入り、そしてW杯優勝という大目標の達成も夢ではなくなってきた印象もある。
2013年のU-15日本代表入りを皮切りに、2016年のU-19日本代表まで日の丸を背負った経験のある伊藤涼太郎(シント=トロイデン)にとっても、A代表入り、W杯出場は長年の悲願である。
これまでJ2クラブへのレンタルを繰り返してきた時期が長く、なかなか表舞台で存在をアピールするチャンスがなかったが、2023年のJ1で眩いばかりの輝きを放って以来、森保一監督ら代表スタッフからも熱視線を送られるようになったのは確かだ。
そんな伊藤は9月12日のトルコ戦を、ヘンク(ベルギー)のセゲカ・アレーナまで直々に足を運んで観戦。現代表メンバーのパフォーマンスを目に焼き付けたという。
「自分はトップ下がメインですが、ボランチにも入ることがあるので、『自分が入ったらこうしよう』とイメージしながら試合を見ました。やはり久保(建英)選手(レアル・ソシエダ)が数多くチャンスを作っていたのが印象的でした。基礎技術が高く、戦術理解にも優れていて、世界の相手と対峙して、どう戦うかをよく知っているなと感心しましたね。
実は僕は久保選手とは一度も対戦したことがなくて、トルコ戦で初めて生でプレーを見たんです。本当に上手くて、日本代表に選ばれて当然というプレーをしていましたね。鎌田(大地)選手(ラツィオ)は出場しなかったので生では見られなかったですけど、質が高い選手だとは前々から感じていました。
もしも自分が同じポジションに入るなら、そのレベルのプレーをしなければいけない。もっともっと自分を引き上げていかないといけないと痛感しましたね」と、伊藤は神妙な面持ちで言う。
【動画】ニアにズドン! 伊藤涼太郎の移籍後初ゴール
一方、水戸ホーリーホックで半年間だけ共闘している、同い年の前田大然(セルティック)の一挙手一投足にも感じる部分は少なくなかったようだ。
「大然はもともとチームメイトで、それ以外にも年代別代表で一緒にプレーしたことがある選手が何人かいましたね。特に大然は身体が一回りも二回りも大きくなっていたし、カタール・ワールドカップにも出て活躍した自信も感じられました。
自分もベルギーに来て、強度の部分は真っ先に感じたところなので、それに対応できるフィジカルや判断力が必要になってきます。身体を大きくすることも含めて、いろんな角度から取り組んでいかないといけないと思います」と目を輝かせた。
大きな刺激を受け、直後のメヘレン戦でベルギー初ゴールをゲット。ここから一気に爆発しそうな予感を漂わせる伊藤。その彼が掲げる今季の目標は「二桁得点・二桁アシスト」。これはSTVV時代の2018-19シーズンに鎌田が叩き出した15ゴール・7アシストと同等かそれ以上ということになる。
非常にハードルが高いが、本人はそれを承知で高みを目ざし続け、1年後には欧州5大リーグへのステップアップを現実にする構えだという。
「今回の海外移籍に当たって、いくつか移籍先の候補がありました。でも自分の中では長く悩まなかった。ベルギーリーグに魅力を感じたところが大きかったんです。このリーグからは遠藤(航)選手(リバプール)や鎌田選手、冨安(健洋)選手(アーセナル)のようにビッグクラブに行っている選手が多い。僕もそうなりたいと思っているので、目標を明確に定めることができたんです」
彼ら3人に共通するのは、いずれも短期間でベルギーから他の強国へ赴いていること。特にアタッカーは数字を残さなければ、そういう移籍が実現することはない。
4シーズン前の鎌田も「ベルギーに来た以上、目に見える数字を残さなければドイツに戻れない」と危機感を露にし、本来のスタイルではないエゴを前面に出すことも多かった。伊藤もこれまで以上にガムシャラにならなければいけないのだ。
「だからこそ、僕もできるだけ早くこのリーグに順応して行く必要がある。幸いにして、シント=トロイデンには日本人選手がたくさんいますし、連係面やコミュニケーション面を含めて助かっているところは多々あります。昔、浦和でやっていた橋岡(大樹)ともまた一緒にプレーできているのは本当に楽しいですね。
自分の場合、ストロングポイントもウィークポイントも分かりやすいタイプなので、言葉があまり喋れなかったとしても、伝わりやすいところはあるのかなとは感じます。
オカさん(岡崎慎司)からは『欧州は本当に結果。数字の世界だ』って口癖のように言われますけど、やっぱりそうだなと強く感じます。ベルギーには5大リーグに行きたい選手がゴロゴロいる。そういう選手たちにハングリー精神で負けてはいけないし、負けん気を人一倍持ってやることも大事。
僕は淡々として見られがちですけど、メンタル的な浮き沈みがあまりないのが強い。それも活かして、流されず、ブレずにやっていきたいと思っています」
伊藤のようなファンタジスタタイプの選手は、現代サッカーでは年々、少なくなりつつある。だからこそ希少価値だとも言っていい。
アイデアや創造性、人と人の間のスペースを巧みに使う戦術眼や技術、フィニッシュの迫力といった数々の魅力を持ち合わせた彼のようなプレーヤーは、見る者を間違いなく魅了する。稀有な存在だからこそ、成功してほしいと願う人も少なくないはずだ。
「自分が海外の選手を相手にどういうプレーをして結果を出すのかを、ぜひ多くの人に見てもらいたいですね。やっぱり人を楽しませるサッカーをしたいと、僕自身も思いますから。
初ゴールを挙げたメヘレン戦にしても、ミスが目立つシーンも多かったし、チャンス自体もあまり作れなかった。まだまだ課題が多いので、それを1日1日の練習から改善していって数字を残し、必ず大きな目標を達成できるように頑張ります」
ベルギーで圧倒的な存在感を示し、5大リーグに上り詰めた暁には、森保監督も伊藤を放っておかなくなるだろう。久保や鎌田としのぎを削る日が来ることを願って、彼のパフォーマンスをしっかりと見極めたいものである。
※このシリーズ了(全3回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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