マネやサラーを見出した敏腕SDの暗躍によって――南野拓実のリバプール加入が“電撃”と言えない理由

マネやサラーを見出した敏腕SDの暗躍によって――南野拓実のリバプール加入が“電撃”と言えない理由

CLでの活躍で注目株となっていた南野。リバプールはなぜあっさりと手中にできたのか。 (C) Getty Images



 すでに周知の通り、昨年12月19日にリバプールがレッドブル・ザルツブルクに所属する南野拓実の獲得を発表した。欧州の移籍市場がオープンする1月1日より前のアナウンスには驚きの声もあがった。

 だが、南野の獲得は、決して数週間と言う短期間で決まった“電撃的ディール”というわけではない。

 近年のリバプールでは、こうして選手の獲得に関して秘密裏のまま、発表を迎えることが多い。例えば、2018年の夏にモナコから加入したファビーニョが加入した際も、ほとんどのメディアが事前に情報をキャッチすることができなかった。リバプールが、数年に渡って、ファビーニョのプレーと性格の両方を吟味し、クラブのスタイルと合致すると判断したうえで、本格的な交渉に乗り出すなど、長期的なプロジェクトだったにもかかわらずだ。

 南野の移籍もこのファビーニョのパターンに近い。公式発表の数日前にリバプールの番記者からリーク情報があったものの、長年に渡ってクラブが南野を追い続けていたという情報はほとんど漏れていなかった。

 では、具体的にはどのようなプロセスを経て、この日本代表FWの獲得に至ったのだろうか。
 
 ファビーニョのケースと同様にリバプールは、なんと6年に及ぶ長期間に渡って、南野のスカウティングを続けてきた。

 2013年、当時セレッソ大阪に所属していた18歳の若武者は、Jリーグの最優秀若手賞を獲得したほか、大久保嘉人の保持するクラブ最年少ゴール記録も更新するなど、10代ながら出色のパフォーマンスを披露していた。

 同年の夏に大阪で行なわれたマンチェスター・ユナイテッドとの親善試合でも、1ゴール・1アシストの活躍。リバプールは、この時から関心を持っていた。

 ここから始まった“追跡”は、2015年に20歳の南野がオーストリアの強豪ザルツブルクに加入した後も継続された。英紙『Mirror』によれば、レッズ(リバプールの愛称)のスカウティングは、プレースタッツだけでなく、性格などの内面的な情報まで細部にまで至ったという。

 長年のモニタリングに加え、今シーズンのチャンピオンズ・リーグでの直接対決で1ゴール・1アシストのパフォーマンスを披露したことで、リバプールは南野獲得に本腰を入れたのだ。

 注目したのはリバプールだけではなかった。『Mirror』によれば、マンチェスター・ユナイテッドやユベントスなどのメガクラブも獲得を検討していたという。

 しかし、マージーサイドの雄が他クラブを出し抜けたのは、リバプールのスポーツダイレクターを務めているマイケル・エドワーズがいたからである。

 元々トッテナム・ホットスパーでアナリストを担当していたエドワーズは、11年にリバプールに引き抜かれた。当初は獲得候補選手の分析を担当していたのだが、その仕事ぶりを評価され、順調に昇進を重ねると、16年には移籍関連の責任職であるスポーツディレクターに就任した。

 リバプールの親会社であるフェンウェイグループと協働しながら、クラブのチーム編成に関してクロップ監督とも密に連携を図っている敏腕ディレクターは、分析を生業としていたこともあり、選手の選定眼に定評があった。

 その証拠に、彼が現職に就任して以降に獲得したサディオ・マネ、モハメド・サラー、フィルジル・ファン・ダイク、アリソンはいずれも高額を要したものの、対価に見合うだけの活躍を披露している。さらに、わずか810万ポンド(約11億3400万円)でハル・シティから引き抜いたアンドリュー・ロバートソンは、今や「世界最高の左SB」との呼び声が挙がるほどだ。

 近年のリバプール躍進の立役者のひとりであるエドワーズが、自身のコネクションを駆使して南野獲得に全力を注いだのである。旧知の仲であるザルツブルクのクリストフ・フルードSDに連絡を取ったのも彼だった。

 そして、エドワーズは南野の契約の中に725万ポンド(約10億1500万円)の契約解除金が設定されていると知り、いち早く交渉を開始した。結局、これがユナイテッドやミランといった他クラブを出し抜く要因にもなった。彼らがスカウトを派遣した12月には、すでにリバプールとの契約はほぼ完了していたという。

 満を持して加入した南野は、1月5日に行なわれたFAカップ3回戦のエバートン戦でデビューを飾った。

 優先度の低い国内カップ戦だったこともあり、リバプールは控え組中心だったが、南野は70分ほどプレーして、随所に持ち味を発揮した。目に見える結果こそ残せなかったが、プレミアリーグと変わらない強度の相手に問題なくプレーできた点は大きなプラス要素となった。

 6日後の国内リーグ第22節トッテナム戦は出場機会がなかった。だが、クロップは、ファン・ダイクのような即戦力を除けば、新戦力の起用に対して慎重なタイプである。特に国外からやってきたニューカマーについては、1、2か月の試用期間を設けたうえで、本格的に起用を始めるのだ。

 そのことを鑑みても、しばらく出られない時期が続いたとしても問題はない。「本当に素晴らしい補強だ」とクロップを感激させた日本代表FWが、チームからの万全なバックアップを受け、これからどのような輝きを放つのかを、見守っていきたいところである。

文●内藤秀明(プレミアパブ)
text by Hideaki NAITO

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